270. 笑うべきではないこと

文字数 843文字

 ハシビロコウとチェシャ猫とハルキゲニアと伝説のペリカンがミニゲーム「Spectrum」を実施した。

「南極石集め隊に内定した! 雪上をお腹ですいーっと滑るのは楽しいけど、猛吹雪と地味な仕事を天秤にかけなきゃね!」

 ジョークを前に、「適切/不適切」に分かれる。

 ハシビロコウは嘴を叩いた。
「だ、だダだ? ダンだだだ!」
 翻訳すると、
「石集め隊に対し、ちょっと失礼じゃない? 繁殖成功率を左右する重要な要因なのに!」

 チェシャ猫はにやにや笑いを崩さない。
「隊員じゃなくても別に滑れるよな。これじゃ、隊は地味で労働環境も最悪と非難しているようなものだ……しかも、内定者が」

 ハルキゲニアが刺々しく言う。
「仲間内ならいいんじゃね? 隊員以外は別に傷つかないし」

 伝説のペリカンも同意した。
「子育てしなくちゃ!」

「給餌旅行から帰らず、子どもを餓死させた妻と離婚した。隣の夫婦が子どもに餌を与えながら尋ねる。『あれ、今日は一羽? もう妻の目を盗まなくていいね!』」

 それぞれ評価する。

「だだだだ? ダんダンダダダだン!」
「自分が餓死する前に、飢えた子どもを見捨てて海に走ったのは夫だ。その罪悪感を抱えつつも、妻が悪いと別れたのだとしたら……笑えねぇな」
「離婚一年後ならよかでしょ。一年越しのジョークなんてへたっぴだけど」
「生き返らせなきゃ!」

 料理番組で魚の死体を前ににこにこ笑うも、100年後には、唾棄すべき因習として発禁扱いになっているかもしれない。
 適切なユーモアは、語り手と時代と空気によって違う。

 ネアンデルタール人とインコの笑いの壺は違う。
 全人類に響くユーモアはない。

 まるで気候変動のようだ。
 予測不能で、ちいさな誤りがすべて引き裂き、二度ともとには戻れない。

 まるで気候変動のようだ。
 丹念に観察すればある程度までパターン化でき、予想が外れても誠実に対応すればある程度まで生き残れ、大体において美しく有益だ。

 ユーモアと共に生きよう!

 その災禍を背負い、その笑顔に希望を見出して。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み