231. 中世温暖期 恵まれたヨーロッパ:900-1200

文字数 743文字

 凶作が二年続けば餓死する。

 極端な洪水、旱魃(かんばつ)、大嵐、厳冬、冷夏が少なく安定していた時代――中世温暖期は、田舎に住む貧農や小農、ヨーロッパの九割の人々にとって、神の恩寵だった。

 サヘル地域は旱魃に見舞われていたけれど。

 夏の平均気温は、20世紀と比較して約1℃高い。
 葡萄畑の北限は、20世紀と比較して約400キロ先まで広がった。
 赤毛のエイリークが祖国で人を殺し、アイスランドで人を殺し、吹きさらしの島で流血沙汰を起こし、緑の島を植民したのもこの時代だ。

 流氷は少なかった。
 古代スカンディナヴィア人が熱心に侵略し、ダブリンを築く。

 のどかな生活(過酷な重労働。農民は背骨が変形し、関節炎を患う。漁民は骨関節症)は続く。
 豊作を神に感謝する。

 その意思はノートル・ダム大聖堂、カンタベリー大聖堂といったゴシック教会の建築に費やされ、中世温暖期で勝ち得た資源、労働力、財力が投入された。

 気候は歴史を、未来を決定する唯一解ではない。
 一要素だ。
 古気候を学ぶことは、未来を予想する確かな武器の一つとなる。

 自室、電車内、オフィス内、駅までの道路、郊外の行楽地、スーパーの買い物しか知らない都市の私たちにとって、当たり前のように化石燃料で微環境を弄くり回す私たちにとって、気候はもう生きる術ではない。

 洗濯物が乾くか乾かないか、電車が止まるか止まらないか。
 鯉雲か鯖雲か、ハロか。
 その程度だ。

 だから、誰も気候を学ばない。
 不要だから。

 そして安穏と生きる私たちに、唐突に――唐突のように、絶対的なものが押し寄せる。
 たった数百年前を忘れて、想定外と泣き叫ぶ。

 中世温暖期は過ぎ、小氷期は終わっていない。
 現代は、きっと、小氷期以上に激しく変動し、予測できず、運命に翻弄されるのだろう。
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