156. コーヒーマシンに棲みつく者共のレシピ

文字数 528文字

 教訓:正しいという病。

 動物好きの青年が言った。

「多い種だと、体重の約八割がタンパク質だ。グラムベースで鉄分が牛肉の五倍ある種もいる。約二十億人が日常的に摂取しているうえ、新聞に『焼けば素敵だ』と掲載されたことがある。この国だけでも毎日約50万頭の家畜を惨殺するより、ずっとましだろう?」

 その辺の通行人がいうには、

「でも、きもいし」
「知性ある生き物を拷問して殺しても?」
「その知性を知覚できるほど、俺、頭よくないから」

 青年が怒り狂う。
「想像力の欠片もない!」
「ごめんごめん。つか、牛喰っても、俺に実害ないし。あと、やっぱきもいし」

 通行人が声を上げて嗤った。
「家畜には同情するのに、その『焼けば素敵な』種には同情しないんだ」
「まだましなだけだ」

「そうやってあんたも線を引いている。俺も線を引く――その線が少しずれているだけで、俺もあんたも同類だろ?」

 正しさは、正しさで殺せる。

 牛はカワイイから殺したくない、むろん私情。
 そう主張するほうが、よほど健康的だ。

 短期的な正義と中長期的な正義と超長期的な正義と牛の正義と虫の正義とチワワの正義と竜血樹の正義といまの正義と明日の正義と個人の正義と社会の正義と国の正義は違う。

 私達は、誰一人、正しくない。
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