166. ワクワク

文字数 713文字

 不時着した島では、無数の人間が樹木に吊るされていた。
 よくよく観察してみると、少し違う。

 弁髪みたいに頭から上に伸びるそれは、樹木の枝だ。
 人間は、果実のように成っていた。

「毎朝日の出前に起きるのつらいぜ。一人サボってもばれねぇよな?」
「大風で頭がひりひりする。軟膏ない?」
「俺ら、足、要らなくね?」

 何やら楽しげに話していたから、思い切って声を掛けてみた。

「遭難者? そりゃ災難で。いや、オレらの身の上の方が災難じゃね?」

「他所だと、人間は果実じゃないの? ほんと? あと何年かして熟れたら、樹木から()がれて本物になれるとばかり……」

「王様に会いに行きなよ。25000人の乙女達が出迎えてくれるよ――剣と槍と鎧で武装した、屈強で食いしん坊な子たちがね!」

 すでに陽が傾きかけていたから、樹木の側で野営することにした。
 夕日が沈んだ瞬間のことだ。

 樹木の人間が瞼を極限まで引き上げて白目を()き、鳥肌立った皮膚をぶくぶくと泡立たせて破裂させて体液を撒き散らし、操り人形が揺れるように四肢をあらぬ方向に振り上げ振り下げ、大口を開けて舌を出して島中に聞こえるほどけたたましく断末魔の如くおぞましく叫び声を上げた。

「ワク! ワク! 創り主なる王、アル=カラークに栄光あれ!」

「ワク! ワク! アル=カラークに栄光あれ!」

「ワク! ワク!」

 遭難者は飛びあがって駆け出して海に飛び込んでバショウカジキを追い越す勢いで水平線の彼方に消えた。
 たまたま船が通りかかり、救われた。

 その体験を後世に伝えた結果、ワクワクとして広まったとかそうでないとか。
 一説によると、倭国(わこく)を指しているとかいないとか。

 絞首刑。
 そんなに盛んだったのかしら?
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