20. スーパーセル

文字数 417文字


 山羊飼が牧場に山羊を追っていた。
 野生の山羊が混じったので、一緒くたにして自分の檻に追い込む。

 翌日、嵐になった為、小屋の中で山羊を世話した。
 野生の山羊は大いにもてなし、自分の山羊には死なない程度の餌だけ与えた。

「新参者を贔屓(ひいき)し、旧来の友を(ないがし)ろにするなんて。後で別のものが来れば、同じように振る舞うに違いない」

 野生の山羊は、嵐が止めば、真っ先に逃げ出そうと誓った。

 嵐は長引いた。竜巻が樹々を吹き飛ばし、豪雨が濁流となりて(ふもと)を襲った。
 野生の山羊曰く、
「いつ死ぬともしれぬ野生の生活より、最低限餌が確保できるほうが、まだましか」

 野生の山羊は小屋にとどまった。
 予想通り、ぎりぎりの生活を強いられ、毎日腹と背が引っ付きそうだった。

 野生の山羊曰く、
「やっぱり山が良かった。逃げ出そう」

 逃げ出した平野で、山羊は獅子に引き裂かれて殺された。

 最後の言葉は、
「どっちつかずじゃ幸せにはなれない。俺の幸せって、結局、なんだったんだ?」
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