195. 宇宙空間からスカイダイビングしたら

文字数 466文字

 少女は急いでいた。
 病気の御婆さんにアップルパイを届けなくちゃ!

 マッハ25まで加速し、グミの森を通り抜ける。
 丸っこいグミが無数に進行方向を塞ぎ、少女のアップルパイを横取りしようとした。

 少女はグミに激突し、莫大に減速する。
 運動方程式が少女に全力をつぎ込み、体重は普段の三十倍を超えた。

 一つ一つのグミが少女を叩き、その体を回転させる。
 溶接された金属でさえバラバラに吹き飛ばす遠心力に、ヒトの関節は砕け散る。

 グミが横に逃げる間もなく、少女がマッハ25で押し潰す。
 ボイル・シャルルの法則が圧縮空気を加熱し、少女は第四の状態・プラズマとなって輝いた。

 アップルパイが消えちゃう!

 プラズマは原子に戻り、分子になり、近くの植物に吸い取られる。
 御婆さんは、ある酸素――かつてアップルパイだった――を吸いこんだ花を摘み取った。

「いい香り」

 少女は使命を果たした。
 遅くなってごめんね。

 教訓。
 美しい物語の結末として、流れ星にされなかったら、地上約四百キロから生身で跳び下りるのは控えましょう。

 死んじゃうよ。
 無理しちゃダメ。
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