82. 判断の数式

文字数 607文字

 P(MD = {P(DM)・P(M)} / {P(DM・P(M) + P(D|M^c) ・P(M^c)}

 ※P(M|D):事象Dが正しい場合、事象Mが正しい確率
  P(M):事象Mが正しい確率
  M^c:事象M以外の事象

 葡萄(ぶどう)の房が支柱から垂れ下がっている。どの粒も瑞々しく、ぷっくりと膨れていた。深海のように濃い青が、朝露(あさつゆ)に光っていた。

 通りかかった狐が、取ってやろうと何度も跳んだが、どうにも届かない。
 支柱の下に座り込み、尻尾で砂地を払う。

「葡萄が手に入らない場合、葡萄が酸っぱい確率は……」

 狐は判断の数式を知っていた。

 葡萄は三つに一つ酸っぱい。
 葡萄が酸っぱいと、いまいち気力が()かず、手に入らない。100パーセントだ。
 葡萄が熟れてると、やる気が(みなぎ)り、確実に手に入る。手に入らないことは絶対にない。

「酸っぱくて手に入らない確率を、手に入らない全ケース……酸っぱくて手に入らない確率と()れて手に入らない確率の合計で割ると……」

 狐は砂地で計算を終え、元気に跳び撥ねた。
「1だ! 100パーセントだ! やっぱりそうだ! 手に入らないんだから、この葡萄は酸っぱいんだ!」

 さっさと計算式を消し、狐は別の熟れた葡萄を捜しに向かった。

 ふらり現れた猫が器用に支柱を登り、葡萄を口にして言うには、
「三分の二の確率で甘いニャ!」

 酸っぱい葡萄。
 自分と正面から向き合わなければ、どんな数式を用いても、より正しい判断はできない。
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