204. 火事の三要素

文字数 764文字

【燃焼の基本】

 狸が木枝を背負い、歩いています。

 カチ、カチ。

 兎が火打石を火打金に打ち付け、熱を発生させました。

 酸素は十分です。
 燃焼物の木枝は枯れ切っています。

 狸の背中が燃え始めました。

【火事環境】

 狸が枯れ山を歩いています。

 カチ、カチ。

 兎が火を放てば、ここ数日の気象は乾燥ぎみだったので、すぐに火が広がります。
 燃焼物はそこかしこです。

 局所地形の斜面が空気の供給を手助けし、一層激しくなります。

 狸は火に囲まれました。

【火事レジーム】

 温帯域の山地に、狸たちが暮らしていました。

 カチ、カチ。

 兎の復讐は終わりません。

 気候、すなわち乾燥した冬が、火に味方します。
 広域地形、特に山地は燃え広がりやすく、瞬く間に退路が断たれます。
 植生、つる植物が樹々を締めつけ、その身を賭して地表火を樹幹火に昇華させます。

 兎たちは追い込み漁の如く狸たちを誘導し、一帯に火を点けました。

「絶滅させてやる」

 狸は全員、こんがり焼かれました。

【超火事レジーム】

 時間的スケールが数百年、数千年と広がります。

 その植生は火事にどれだけ強く、持ちこたえるか?
 その気候の変化は、火事のパターンをいかに変えるか?
 その地域は、時間の変化によってどれだけ変容し、火事に影響を及ぼすか?

 狸は火に耐え得る皮膚を獲得するか、兎は狸の懺悔を聞き入れるか?
 カチ、カチ。

【地質時代の火事レジーム】

 シアノバクテリアが元気に活動しなければ、酸素はなく、火事は起きない。
 維管束植物が地上に進出しなければ、燃焼物はなく、火事は起きない。
 全球凍結の時代、いかに雷が鳴り響いたとして、火事は起きない。

 噴火したら別か。

 狸を焼き殺すには、狸が存在する必要があり、兎が誕生しなければならない。
 カチカチ音はまだ聞こえない。

【補足】
 狸に恨みはありません。
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