184. 野の中の妖精

文字数 612文字

 なんじゃこりゃ。いけすかねぇ!

 白い野の花が林立する中、彼はそれを見つけました。

 過去数百年、見たことありません。
 緑の草でもなく、菌糸の灰褐色でもなく、花々の赤、橙、黄、青でもなく、ましてや兎の白、赤茶色の狐、蟻の黒でもないのです。
 青褐色の透明なのです。

 羽根を立てて自分を大きく見せます。

 僕のほうが強いぞ!
 お前なんか、怖くないからな!

 肩に力を込めて、腕の筋肉を盛り上げます。
 太腿と脹脛(ふくらはぎ)を締め、腹をひっこめて直立不動です。

 眉根を寄せて、僕はお前に憤慨している! そう言外に訴えます。

 しかし、どうでしょう。
 彼の怒りに、それはまるで反応せず、のらりくらりと横たわっています。

 なんてふてぶてしいんだ!
 彼は睨み付けます。

 長さは彼より少し大きいくらいでしょうか。
 筒状で、一方は閉じています。
 もう一方は徐々にすぼまり、その端がリング状に膨らんでいます。

 とても自然が生み出したとは思えません。
 アノマロカリスより、特異ではないですが。

 そうやって何時間も、何日も、彼はポイ捨てされた某飲料用水メーカーの空き瓶と睨めっこしていました。

 百年後、彼は炭酸飲料をごくごくと飲み干します。

「しゅわっしゅわ! 最高!」

 ぽいっと捨てて、遠くに飛び立ちます。
 彼の当たり前は更新されたのです。

 白い野の花の林は、無数の空き瓶に潰されていました。
 無益で些細な幸せは、有益で圧倒的な刺激に、敗北したのです。

 さようなら。
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