201. 悪とだけ呼ばれる山火事

文字数 570文字

 数年間、少雨で乾燥していた。
 嵐が吹き荒れて、酸素をとめどなく供給した。
 ぼやが出れば直ちに消火し、燃料は林床に有り余っていた。

 きっかけはキャンプファイヤーの不始末だ。
 山火事は、一日で東京ドーム5000個分の区域に広がる。

 過去の迅速な消火のせいで燃えなかった燃料を伝い、地表火は樹幹に到達した。強風が火の粉を吹き飛ばし、遠い土地で火の手が上がる。乾燥と強風が火気を煽り、至る所が火事前線となった。

 運よく湿った季節風が吹き、人の努力とは関係なく、山火事は終息する。
 たった三週間で。

 下草は炭化した。
 焼け落ちていない樹々が多数確認された。
 雨が草や根に護られていない脆弱な土壌、燃えカスを押し流し、川は黒く染まった。

 貯水池は汚れ、ろ過システムは詰まり、市民は飲み水に飢えた。
 煙プリュームが国境を越え、呼吸器系に打撃を与えた。
 下流で土砂災害が頻発した。

 責任問題と誰もが叫ぶ。

「火事を放置し、定期的に燃料を消費すれば、メガファイヤーは避けられたのに」

「この地域の植生は燃えやすく、気候も助長する。それを知らずに家を建てたわけ?」

「燃えにくいヒッコリーマツは火事の後に種を落とす。死んだライバルの肥料ですくすく育つ。焼野原を利用しているわけだ、ヒトより賢いね」

 炎は悪か。

 遠くの悲劇を娯楽として泣き散らせば、悪の炎が消えるの?
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