235. 自給自耕農業はクソ:1300-1650

文字数 759文字

 死にたくない。
 痩せっぽちの少年は、長雨を仰ぎながら呪った。

 小麦は全滅した。
 他に、食べるものはなかった。

 水路が開通し、バルト海から穀物が輸入される。
 飢えた人々が殺到した。

 青年は土地を耕す。
 いざとなれば、穀物は買えばいい。
 亜麻、辛子、ホップ、工芸作物を育て始める。

 同じ作物を同じ土地に植え続けると、収量は激減した。
 休ませておくには、土地は貴重過ぎる。
 家畜の飼料が足らない。

 土地にカブを植え、牛の餌にする。
 根粒菌が集まり、糞が撒き散らされ、地力が徐々に回復する。
 また穀物を植える。生産量はぐんと増し、青年の笑いが止まらない。

 市場の拡大。
 作物の多様化。
 家畜とカブを介した革命。

 農業専門のインフルエンサーが自給自耕農業を罵る。

「朝から晩まで働いて、くたびれて、家に帰る。でも結局、気候の気まぐれで死ぬ。今まで通りに拘泥して、進歩に見向きもしない。変化より死を、選ばないことを選んだ愚か者共だ」

 フランドルで始まった農業革命はイングランドに伝播し、囲い込みが始まった。
 土地が広くなければ、牧草地を確保できない。

 小作人か、毎年豊作に命を委ねるか。
 インフルエンサーには、問うまでもない答えだった。

 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。

 その為ならジェノサイドを厭わないし、海洋も大気も土地も汚染する。
 命だけではない。文化の死、既得権益の死、株式会社の死、今まで通りの死、地球平面説の死、あらゆる滅びに抗おうと、あらゆる手段に訴えかける。

 自分が死ぬからと、相手に死を押しつける権利があるか。
 殺しに来た相手を、殺さずにいられるか。

 たかが一時間でも、一日でも、一年、百年ぽっちでも、死に抗う力ほど強いものはない。
 それを否定できるか。

 言葉を誤魔化さず、ちゃんと死ねと言えるか。
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