50. シーラカンス

文字数 332文字


 シーラカンスが丸々太った養殖サーモンに出会った。
 餓死の心配はなさそうなのに、不思議とげんなりしているから、理由を問うてみた。

「運動不足で……」
「こんなに海が広いのに?」

「抗生物質に浸かっていて、自分でも何を食べているのか、わかってないんだ……」
「今まで食べていたように食べられないの?」

「年間餓死者数50人みたいに、僕は僕じゃなくて、体重とかエサの重量で定義づけられるんだ……」
「君は君でいられないの?」

 少し悩んでから、シーラカンスは(なぐさめ)めた。
「デカン・トラップもチクシュルーブ小惑星も、遠くのさざ波と同じだったよ。数十年の変化なんてわけない。また数千年、気楽に待とう」

 養殖サーモンは皮肉げに笑う。
「そっか。君も僕を僕じゃなくて、未来や過去として扱うんだね」
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