第54話 闇の顔

文字数 2,602文字

 午後の昼下がり、天気は晴れてるのに、気持ちはさっぱり晴れない。
 ドラゴの指示通り俺は代筆屋で仕事に戻り、机の上で考え混んでいた。
 俺を嵌めたヤツ、俺たちをを襲ってきたヤツ、俺たちに近づくヤツ、皆得体が知れない。

 俺が何をした?

 やっぱり殺しの依頼なんか受けるんじゃなかったと反芻もした。
 しかしルカの見受けの話を聞いていてもたってもいられなかった。
 死んだヤツには悪いと思うが、済んだことだ、仕方ない。

 周囲に誰もいないことを確認して、俺はドラゴから貰ったタバコを口にし、火をつけ、一服する。
 味は不味かった。
 不安は紛れたが、味は頂けない。
 次からはもっと自分好みのヤツを買って吸おう。
 タバコの煙を深く吸い込み、気分を落ち着かせた。
 今日ここで仕事をしていれば、フランツ=ヨーゼフが現れる。
 いや、ドラゴは仕事をしていればいいとしか言ってなかった。
 ホテルにいた金髪の女も向こうから接触してくると言っていた。

 わからん。
 どうすればいいのか。

 俺が再びタバコを口にしようとすると背後から、頭をはたかれる。
 振り返った先には怒った顔をしたアーペルがいた。
「仕事中にタバコは吸うな。真面目に仕事をしろ。全く、手配書は取り下げても、ハンターの除名処分は下ったままだからな。バイトぐらいは真面目にやってくれ」
 俺は仕方なくタバコをしまう。
「わざわざ説教しに来たのか?」
 アーペルは溜息をついて、首を横に振る。
「そうなら良かったんだがな。社長が呼んでるぞ。ここの仕事もクビになるんじゃないか?」
 アーペルはまだ俺を心配してるようだ。
 口うるさいが、何かと目をかけてくれた先輩だ。
 ここの仕事がなくなるともう会うこともなくなるだろう。
 ハンターとしても頼りになる先輩だったし、別れるのは少し寂しい。

 いや、ちょっと待て。
 今ここでクビになったら、フランツ=ヨーゼフとは会えないぞ。
 それは困る。
 隠れてタバコ吸っただけでクビとか酷いぞ。
 仕事事態はちゃんとやってたはずだ。

「タバコはもう吸わないからクビにしないでくれ」
「タバコが理由じゃないと思うんだが......。いいから社長室に行け。安心しろ。多分説教されるだけだろ」

 俺は気を落としながら、社長室の扉を開ける。
 待っていたのは亜麻色の長髪を一つにまとめた辛気臭い女だった。
 この代筆屋の社長だ。

 コイツ、タバコ吸いながら、読書なんかしてやがる。
 俺が吸ったらクビで自分はいいのか。
 クソッタレめ。

 社長は俺を一瞥すると、本を閉じて、脚を組み直した。
「ミュラーね、かけなさい」

 なんで俺の周りの女はこんなにも高圧的なんだ。
 おしとやかな言葉遣いをしてくれ。

 俺は言われた通りに机の椅子に座り、社長と向かい合う。
 社長が呟く。
「ここの仕事はどう?」
 質問の意味がわからない。
 どうと言われても退屈だと正直に答えればいいのか。
 嘘でもいいから、やりがいがある最高の職場ですとでも答えておくべきか。
 俺が答えに窮すると社長は、郵便物の束を一つ一つ眺めながら、
「ここにはベガスだけじゃなく、この国の様々な人の言葉が文字となり、文章となって集まってきているわ。言わば情報の魔窟ね。そこの管理をしているのが私なの」
 何が言いたいんだこの女は。
 クビの宣告なら遠回し過ぎる。
「例の文書は見たか?」

 文書、その言葉を聞いて、俺の警戒心は強まり、腰に下げた剣に手をかける。
 俺の殺気を感じた社長は慌てるように、両手を上げる。

「誤解しないで。私は味方よ。けど、その様子を見る限りだと、ヘルムートには容赦なかったわけね。安心したわ」
「ヘルムート?」
 社長はニヤリと笑って、囁く。
「あなたがあの夜、殺した男の名前よ。アイツはフランツ=ヨーゼフという名前の他にヘルムートという名前を持っていた。アイツはこの国の要人の情報を集めていたの。表向きは外交官僚だけど、軍事情報の収集も担当していたのよ」
 俺はいつでも剣を放てるように身構えながら、目の前の女を睨みつけた。
「お前は何者だ? 何故あの夜のこと......。いや、文書の存在を知っている?」
 束ねた髪を解き、長い髪を靡かせながら女は囁く。
「私もフランツ=ヨーゼフだからよ」
 二人の間の空気が凍る。
 ミュラーが厳しい眼差しで尋ねる。
「どういうことだ?」
「フランツ=ヨーゼフは私とヘルムート、そしてもう一人の三人で使っていた名前なのよ。そして多重スパイでもあった。そして私はヘルムートを出し抜いた。アイツの国の暗部の情報を集めさせ、ヤツの情報を奪う。その情報は文書として短刀の魔法陣の中にしまった。もっともヘルムートも私たちを利用して、抹殺することを企んでいたようね」
 ミュラーが殺意を込めて声を絞り出す。
「貴様が俺を嵌めたのか?」
 ほくそ笑みながら女は答えた。
「社長と呼びなさい。もしくはエミルと」
 苛立ったミュラーは声を荒げる。
「質問に答えろ!」
 女は嘆息し、首を横に振る。
「いいえ、あなたにヘルムートの殺害を頼んだのは、私より上の存在よ」
「誰だ!?」
「エルドラと呼ばれているわ。けど、それも偽名かも知れない。人じゃなく組織の呼称かも知れない。得たいの知れない存在の名前よ」
 窓から冷たい風が流れていく。冷気がミュラーを包む。
 色んな名前が出てきて頭がややこしい! エルドラだな、そいつを叩き切れば解決だ。
「勘違いしないで欲しいのだけど、あなたの命を狙ってるのは別の組織の人間よ」
 ミュラーの頭はパンク寸前だった。
 それを嘲笑うかのようにエミルは囁く。
「リヴァ、アドルフ、レオン、リスト。そしてロゼ......。あなたを狙っている人間よ。アイツらより先にラクシャインを見つけること。それが今日呼び出した用件よ」
 我慢の限界だったミュラーは思わず叫ぶ。
「ラクシャイン、ラクシャイン! いったいどうしてそいつにこだわるんだ!」
 するとエミルは震える声で囁く。
「......知ってしまったから。ロゼの正体を......」
「正体ってのは何だ!」

 見えない恐怖に怯えるようにエミルは身を震わせながら、か細い声で呟いた。

「顔よ、ロゼの顔を知ってしまったの......」


 ミュラーは飛ぶ鳥の勢いで代筆屋を後にする。その後ろ姿を眺めながら、エミルはポツリと囁いた。
「ミュラー......。あなたもなのよ、ロゼの顔知ってしまった人間は......」
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登場人物紹介

ミュラー=ルクルクト

性別 男

紛争国家群ロアの将軍アジムートの三男。

剣術と魔法を巧みに操る。

身長178センチ 体重63キロ

趣味 読書 遺跡巡り

武家の出自のため世間に疎い。本人は自覚してないがかなり空気が読めない天然で、結構差別的なところがある

オルマ

カジノ大国ベガス出身、獣族の漁師の家庭で生まれ育つ

性別 女

金属性の糸を巧みに操る

身長160センチ 体重★★ 胸は小さい

趣味 釣り

ちゃっかりした性格で機転もきく。横着者。ひょうひょうとした性格だが、判断力は高い

ジラール

性別 男

聖王国出身の傭兵であった。スラム育ちの孤児

古代の遺物、ハーミットの使い手

身長188センチ 75キロ

趣味 武器や防具の鍛冶やメンテナンス

性格は至って粗野、粗暴。下品である。乱暴な一面もあるが仲間想いで、困っている人は見捨てない面もある

クロエ

性別 女

カジノ大国、中部出身。オルマと同じく獣族だが一族でも高貴な身分の生まれである

長い槍を巧みに操る。

身長168センチ 体重★★ 胸は人並み

趣味 毒物の調合

物静かで温厚そうな見た目をしているが、性格は結構腹黒。華奢な身体をしているが抜群の身体能力を持っている。


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