第88話 魔法戦争の要
文字数 2,354文字
グラスランド連盟は複数の国家の同盟政権だ
。北にはキエフ大公国、ケルン魔法国、ファルツ竜王国、東には獣王国マインツ、そして中央に盟主ザクセン。
その都市国家ザクセンのブランデンブルグ要塞では異変が起きていた。
兵站問題。
特に兵糧。
ただでさえ、前線の兵団に送り込んでいて不足している兵糧が、要塞内で枯渇している。
当初は城下街の商人から買い上げればいいと判断していたが、その城下街でも食糧不足が起きている。
今年は飢饉が発生しているわけではないのに何故だ?
この戦争が起因しているのか?
しかしないものは仕方があるまいと領内の農村で徴発を始めて、悪戯に民の不満を買うことになる。
今は要塞内は勿論、城下町の食糧問題を解決しなければならない。
これではもし籠城戦になれば一月と持たないであろう。
いざとなれば隣国に食糧の支援を願い出ればいい。
目下の問題は深刻だが、解決できる問題だ。
ブランデンブルクの作戦参謀達はその状況の絵図を作り上げたのが、小柄で卑屈そうなトワレの工作員一人が仕上げたものとは露知らずにいた。
リアムは一石二鳥も三鳥も狙う男であった。
地図を舐めまわすように見て、フェンディに意見を求める。
「合戦とはどのように行われているか、知っているか?」
フェンディは不意な質問に戸惑いながら答える。
「え、隊列組んだ兵隊が槍とか持って、ぶつかり合うんでしょ?」
リアムは顔をしかめた。
「君に聞いた僕が馬鹿だったな。ミュラー、教えてやってくれ」
「隊列といっても万の軍勢が陣形を組む。その戦況に適した陣だ。だが現代戦では各部隊にいる魔法騎士団の精度が勝敗を分けると言っても過言ではない」
オルマが不思議な顔をして疑問を投げかける。
「なんで? 兵隊が強い方が勝つんじゃないの?」
「……現代は魔法戦だ。遠距離で極大魔法が大人数の魔法部隊の力によって発動される。そんなの食らったら、前線の歩兵部隊は壊滅する。それを防ぐために、魔法部隊は各陣形の前線に魔法結界を発動させている。極大魔法を防ぐほどのな。だから前線では魔法は使えない。歩兵の強さ頼みとなる。だが今は魔法騎士団が各部隊でも組織されている。それが遊撃隊となって、敵軍の魔法部隊を如何に強襲するかが戦いの肝となっている。魔法騎士団が敵軍の魔法部隊を壊滅できれば、こちらの魔法部隊が攻撃魔法を発動させて、前線は瓦解する。そうなれば如何に強固な陣形を組んでいても、敵軍は組織的行動は取れなくなる。まともな指揮官なら、ここで撤退行動起こす」
リアムが眠たげなフェンディの頭をはたく。
「ミュラーの説明をちゃんと聞け! この素人共! 流石ミュラーだ。戦のことをよく理解している。アジムート将軍の教育の賜物かな?」
リアムの褒め言葉に、素直にミュラーは喜べなかった。
アジムートの指揮は常軌を逸していたため、そんなお手本のような戦略や戦術の常道は通用しない。
例えば魔法騎士団はあまり多用しない。
奴は単身、敵の魔法部隊に乗り込み、壊滅させて、敵軍を騎馬隊で蹂躙したりしていた。
アーペルはハッとした顔をしてリアムに問いただす。
「まさか今度は魔法騎士団に何か仕掛けるのか!? 敵軍の、グラスランドの精鋭部隊だぞ!?」
リアムは嘆息しながら、答える。
「まさか、この人数でやれることなんてたかが知れてる。ブランデンブルク要塞の北にはケルン魔法国があったな。そこを中心にザクセン領に嫌がらせをする。まずは流言。そして決定打でザクセンを孤立させる」
一同はブランデンブルクから北のサレム地域の聖堂に辿りついた。異種族との繁栄を願うシア神の聖像が崇め祭られ、日中は巡礼者達が列を成して、その唯一神の聖なる偶像を涙を流しながら、祈りを捧げていた。
その様子を見てリアムは笑みをこぼす。
「明日には絶叫の涙が起こるだろう」
リアムの元に駆けつけたミュラーとアーペルは報告する。
「あの馬鹿デカい女神像に言われた通り、爆破の魔法陣を仕掛けた。しかし信者の嫌がらせがなんの意味があるんだ?」
「ここサレムはザクセンだが、北側の熱心なシア教徒の聖地でもある。特に魔法国ケルンは国のてっぺんから末端までシア教徒だ。そこにつけ込む。もしシア教徒の聖地で偉大なる女神像が爆破破壊され、そこにグラスランド連盟のザクセンの軍服が落ちて、そこにあるはずのないシヴァ教徒の聖典が落ちてたら、どう思うだろうな?」
アーペルが顔を青くさせて、答える。
「ザクセンの過激なシヴァ教の軍人達がシア教徒の象徴の女神像を破壊したとなると、まずケルン魔法国はグラスランド連盟に不信感を抱くだろうな」
リアムはタバコの吸い殻を聖堂にポイ捨てし、神に祈りを捧げた。
「神よ、ケルンをグラスランド連盟から脱退させて下さい。我らが助けを致しましょう。今日は諸君らは過激なテロリストだ。明日の早朝に女神像を爆破しろ。聖堂にいる異教徒共は拉致して来い。流石に民間人を巻き込むのは僕の性分に合わない。まぁ女神像が崩れる姿を眺めさせてあげようじゃないか」
翌日の朝、シア神の女神像がミュラー達の魔法で派手に爆破された。
巡礼者の嘆きと怨嗟の声が、ここから離れたケルン魔法国まで響き渡る。
ケルンはブランデンブルクに協力しないことを声明発表した。
他国もケルンに足並みを揃えて、ブランデンブルクの支援要請を断った。
これにより食糧問題の解決はおろか、ブランデンブルク要塞はもし籠城戦になっても孤立無援の状況になってしまった。
さらに悲報が届く、前線で待機させたケルン魔法国の魔法師団が戦場から撤退を始めたのだ。
この状況にブランデンブルグ要塞の参謀達は激しく動揺した。
その絵図を知ったリアムは悪魔の笑みを浮かべ、高笑いしていた。
。北にはキエフ大公国、ケルン魔法国、ファルツ竜王国、東には獣王国マインツ、そして中央に盟主ザクセン。
その都市国家ザクセンのブランデンブルグ要塞では異変が起きていた。
兵站問題。
特に兵糧。
ただでさえ、前線の兵団に送り込んでいて不足している兵糧が、要塞内で枯渇している。
当初は城下街の商人から買い上げればいいと判断していたが、その城下街でも食糧不足が起きている。
今年は飢饉が発生しているわけではないのに何故だ?
この戦争が起因しているのか?
しかしないものは仕方があるまいと領内の農村で徴発を始めて、悪戯に民の不満を買うことになる。
今は要塞内は勿論、城下町の食糧問題を解決しなければならない。
これではもし籠城戦になれば一月と持たないであろう。
いざとなれば隣国に食糧の支援を願い出ればいい。
目下の問題は深刻だが、解決できる問題だ。
ブランデンブルクの作戦参謀達はその状況の絵図を作り上げたのが、小柄で卑屈そうなトワレの工作員一人が仕上げたものとは露知らずにいた。
リアムは一石二鳥も三鳥も狙う男であった。
地図を舐めまわすように見て、フェンディに意見を求める。
「合戦とはどのように行われているか、知っているか?」
フェンディは不意な質問に戸惑いながら答える。
「え、隊列組んだ兵隊が槍とか持って、ぶつかり合うんでしょ?」
リアムは顔をしかめた。
「君に聞いた僕が馬鹿だったな。ミュラー、教えてやってくれ」
「隊列といっても万の軍勢が陣形を組む。その戦況に適した陣だ。だが現代戦では各部隊にいる魔法騎士団の精度が勝敗を分けると言っても過言ではない」
オルマが不思議な顔をして疑問を投げかける。
「なんで? 兵隊が強い方が勝つんじゃないの?」
「……現代は魔法戦だ。遠距離で極大魔法が大人数の魔法部隊の力によって発動される。そんなの食らったら、前線の歩兵部隊は壊滅する。それを防ぐために、魔法部隊は各陣形の前線に魔法結界を発動させている。極大魔法を防ぐほどのな。だから前線では魔法は使えない。歩兵の強さ頼みとなる。だが今は魔法騎士団が各部隊でも組織されている。それが遊撃隊となって、敵軍の魔法部隊を如何に強襲するかが戦いの肝となっている。魔法騎士団が敵軍の魔法部隊を壊滅できれば、こちらの魔法部隊が攻撃魔法を発動させて、前線は瓦解する。そうなれば如何に強固な陣形を組んでいても、敵軍は組織的行動は取れなくなる。まともな指揮官なら、ここで撤退行動起こす」
リアムが眠たげなフェンディの頭をはたく。
「ミュラーの説明をちゃんと聞け! この素人共! 流石ミュラーだ。戦のことをよく理解している。アジムート将軍の教育の賜物かな?」
リアムの褒め言葉に、素直にミュラーは喜べなかった。
アジムートの指揮は常軌を逸していたため、そんなお手本のような戦略や戦術の常道は通用しない。
例えば魔法騎士団はあまり多用しない。
奴は単身、敵の魔法部隊に乗り込み、壊滅させて、敵軍を騎馬隊で蹂躙したりしていた。
アーペルはハッとした顔をしてリアムに問いただす。
「まさか今度は魔法騎士団に何か仕掛けるのか!? 敵軍の、グラスランドの精鋭部隊だぞ!?」
リアムは嘆息しながら、答える。
「まさか、この人数でやれることなんてたかが知れてる。ブランデンブルク要塞の北にはケルン魔法国があったな。そこを中心にザクセン領に嫌がらせをする。まずは流言。そして決定打でザクセンを孤立させる」
一同はブランデンブルクから北のサレム地域の聖堂に辿りついた。異種族との繁栄を願うシア神の聖像が崇め祭られ、日中は巡礼者達が列を成して、その唯一神の聖なる偶像を涙を流しながら、祈りを捧げていた。
その様子を見てリアムは笑みをこぼす。
「明日には絶叫の涙が起こるだろう」
リアムの元に駆けつけたミュラーとアーペルは報告する。
「あの馬鹿デカい女神像に言われた通り、爆破の魔法陣を仕掛けた。しかし信者の嫌がらせがなんの意味があるんだ?」
「ここサレムはザクセンだが、北側の熱心なシア教徒の聖地でもある。特に魔法国ケルンは国のてっぺんから末端までシア教徒だ。そこにつけ込む。もしシア教徒の聖地で偉大なる女神像が爆破破壊され、そこにグラスランド連盟のザクセンの軍服が落ちて、そこにあるはずのないシヴァ教徒の聖典が落ちてたら、どう思うだろうな?」
アーペルが顔を青くさせて、答える。
「ザクセンの過激なシヴァ教の軍人達がシア教徒の象徴の女神像を破壊したとなると、まずケルン魔法国はグラスランド連盟に不信感を抱くだろうな」
リアムはタバコの吸い殻を聖堂にポイ捨てし、神に祈りを捧げた。
「神よ、ケルンをグラスランド連盟から脱退させて下さい。我らが助けを致しましょう。今日は諸君らは過激なテロリストだ。明日の早朝に女神像を爆破しろ。聖堂にいる異教徒共は拉致して来い。流石に民間人を巻き込むのは僕の性分に合わない。まぁ女神像が崩れる姿を眺めさせてあげようじゃないか」
翌日の朝、シア神の女神像がミュラー達の魔法で派手に爆破された。
巡礼者の嘆きと怨嗟の声が、ここから離れたケルン魔法国まで響き渡る。
ケルンはブランデンブルクに協力しないことを声明発表した。
他国もケルンに足並みを揃えて、ブランデンブルクの支援要請を断った。
これにより食糧問題の解決はおろか、ブランデンブルク要塞はもし籠城戦になっても孤立無援の状況になってしまった。
さらに悲報が届く、前線で待機させたケルン魔法国の魔法師団が戦場から撤退を始めたのだ。
この状況にブランデンブルグ要塞の参謀達は激しく動揺した。
その絵図を知ったリアムは悪魔の笑みを浮かべ、高笑いしていた。