第41話 血塗られたハーミット②
文字数 2,519文字
夕暮れのゴバ草原の無人のキャンプ場、ここで果たし合いは行われる。
ミュラーは立ち合い人としてそれを見届ける。
ジラールが着いたころには、もう彼の妹は待っていた。
ミュラーはジラールの妹に赤いハーミットを手渡した。
ジラールの妹はすぐに構えの動作を取った。
それを見たジラールが軽口を叩く。
「せめて細工がしてあるかどうか確認しろ、そこの男なら確実にやるぜ」
「あんたはそんなマネできるわけないわ!」
ミュラーは少し傷ついた。
ジラールの妹は焦燥感に駆られてミュラーを睨みつける。
「見届け人さん、どの合図で始めるの!?」
ミュラーはその言葉を聞いて、淡泊に答える。
「勝負ならとっくに始まってる」
ジラールの妹が困惑した刹那、彼女の兄は人差し指を突き出していた。
「これで一度死んだ」
焦ったジラールの妹がハーミットを構え直そうとすると、すかさずジラールが距離を詰め、彼女の構えた両手を蹴り上げる。
赤いハーミットが宙を舞う。
そしてそのまま、がら空きの脚を体捌きで崩し、倒れた彼女の額に再び指先を突き付ける。
「これで二度目だ。三度目はねぇ」
ジラールの言葉を無視し、落ちたハーミットを拾いあげ、すぐに構えて、その引き金を引く。
強烈な閃光弾がジラールに向かって放たれる。
しかしその軌道をジラールは先読みしていた。
閃光の余熱で焼かれながらも、一瞬の動作でハーミットを抜き、躊躇うことなく引き金を引いた。
まるで剣の達人が剣を抜き放つような素早さだった。
ジラールの妹の額からは赤い鮮血が流れた。
「……言ったはずだ、三度目はないってな」
ジラールの妹は真っ赤に染まりながら、小さな声で囁く。
「……やっぱり実の妹も殺すんだ……血も涙もないやつ……」
糸が切れたようにジラールの妹は地面に倒れ伏す。
倒れたジラールの妹を見て、ミュラーが不敵に笑った。
「甘いやつめ、模擬弾を使うとはな」
ミュラーは覚えたての複体修術でジラールの妹を治療した。
傷は治せても、意識は戻らない。
ジラールがそっぽを向いて、ふてぶてしく言う。
「俺はもう家族を捨てねーって決めてんだ。何度も忠告したのにこの馬鹿妹はよー……」
ジラールが彼女の赤いハーミットを拾い上げ、大事そうにしまう。
そしてはにかんだ顔をしてミュラーに声をかける。
「景気づけに狩りでもするか?」
ミュラーはふっと笑みを浮かべて答える。
「安心しろ、もう囲まれてる」
そしてジラールに魔法を込めた弾丸を投げ渡す。
それをジラールは弾倉に込めながら、笑い飛ばした。
「大事な妹には指先一つ傷つけねぇぜ!」
いや、お前、さっき額に傷をつけたばかりだろ、とミュラーは内心思った。
二人が周りを見渡すと、百頭以上のサーベルタイガーが群れをなして二人を囲っていた。
夕日が地平線に沈みかけ、獣達の狩りの時間が始まった。
耳をつんざくような雄叫びと共に束になって二人に襲い掛かる。
二人はニヤリと笑いながら、ミュラーはランスを、ジラールはハーミットを構えた。
そして襲い掛かる獣の牙に自ら迫る。
ミュラーは右手のランスを突き、かかってきたサーベルタイガーの腹部を貫く、反対の腕では太刀を捌き、別の一頭の胴体を両断していた。
ジラールは自慢の早撃ちで的確に獣のたちの急所の首をピンポイントで狙い、閃光のさみだれが獣たちの命を刈り取る。
悪鬼羅刹の如く、獣たちは蹂躙される。
その血が大量にゴバ草原に舞った。沈む太陽のように赤く。
しかし、その血は他の獣を誘き寄せ、獣の大群がミュラーとジラールに迫りくる。
だがそんな状況でも二人は互いの背を預け、怯むことなく迎え討った。
獣の牙が彼らの腕や、脚に食らいついても、臆することなく自慢の武器で仕留め続ける。
二人は無邪気な笑顔を絶やすことなく、体力の底が尽きるまで、武器をふるい、獣の屍の山を築きあげた。
夕日が大地に沈みきり、空から月明かりが出始めた頃、ミュラーの腕は感覚が麻痺し、体力の限界に気付いた。気 もとっくに底についていた。
「ジラール、逃げるには手遅れだな、体力も気 も使い果たした」
ジラールも肩で息をしながら、辛そうな顔でああ、と頷いた。
闇夜に獣の光る目が輝く、おびただしい数の光がそこにはあった。
ここまでか……。
二人が覚悟を決めた時、二人の周囲には無数の花弁が舞う。
そしてそれが無数の束になって獣たちを切り刻む。
天高く血しぶきが舞うと同時に、三つの影が空から現れ、二人の前に現れる。
オルマ、クロエ、フェンディだ。
「待たせたわね」
フェンディがそれだけ呟いた。
アーペルの魔法である花弁の束は今も獣たちを切り刻む。
獣たちがそれに怯んだ隙を見逃さず、三人は群れに突っ込む。
「退路を作るわよ! 二人とも私に続きなさい!」
両手で持つ二つの大剣を車輪のように振り回し、フェンディは獣たちを蹴散らす。
それにオルマとクロエが続く
。
無法者 の雄叫びと獣の断末魔が夜のゴバ草原に響き渡る。
頼もしい援軍のおかげで、なんとかミュラーとジラールは窮地を脱した。
その晩、ストリップバー、ドピュドピュみるく(´,,•ω•,,`)♡♥の片隅のバーのカウンターでミュラーとジラールはキツイ蒸留酒を酌み交わしていた。
ミュラーが静かに笑う。
「最低な一日だったな、そのうち命を落とすぞ」
ジラールが自嘲気味に笑みを浮かべて、ミュラーのグラスに自分の酒を注ぐ。
「死ぬことを恐れてるわけじゃねー……けど、さんざんな一日だったのは同感だ。悪いな、付き合わせて」
ミュラーは注がれた酒を味わうように飲む。
「……妹はどうした?」
ミュラーの言葉に、ジラールは沈黙し、ただ懐にしまった赤いハーミットをテーブルに置き、ミュラーの前へと流した。
「餞別だ、取っておけ。アイツは故郷に帰ったよ、もう二度と会うことはねぇ……」
そう呟くとジラールは酒に浸されたグラスを見つめ続けた。
ミュラーはジラールの普段とは別の顔を見た。
哀しく、影を落とした。哀愁を漂わせた男の顔だった。
二人は静かに、夜更けまで飲み続けた。
言葉はいらなかった。
沈黙を味わいながら酒を酌み交わし、酔いで心の膿を吐き出した。
ミュラーは立ち合い人としてそれを見届ける。
ジラールが着いたころには、もう彼の妹は待っていた。
ミュラーはジラールの妹に赤いハーミットを手渡した。
ジラールの妹はすぐに構えの動作を取った。
それを見たジラールが軽口を叩く。
「せめて細工がしてあるかどうか確認しろ、そこの男なら確実にやるぜ」
「あんたはそんなマネできるわけないわ!」
ミュラーは少し傷ついた。
ジラールの妹は焦燥感に駆られてミュラーを睨みつける。
「見届け人さん、どの合図で始めるの!?」
ミュラーはその言葉を聞いて、淡泊に答える。
「勝負ならとっくに始まってる」
ジラールの妹が困惑した刹那、彼女の兄は人差し指を突き出していた。
「これで一度死んだ」
焦ったジラールの妹がハーミットを構え直そうとすると、すかさずジラールが距離を詰め、彼女の構えた両手を蹴り上げる。
赤いハーミットが宙を舞う。
そしてそのまま、がら空きの脚を体捌きで崩し、倒れた彼女の額に再び指先を突き付ける。
「これで二度目だ。三度目はねぇ」
ジラールの言葉を無視し、落ちたハーミットを拾いあげ、すぐに構えて、その引き金を引く。
強烈な閃光弾がジラールに向かって放たれる。
しかしその軌道をジラールは先読みしていた。
閃光の余熱で焼かれながらも、一瞬の動作でハーミットを抜き、躊躇うことなく引き金を引いた。
まるで剣の達人が剣を抜き放つような素早さだった。
ジラールの妹の額からは赤い鮮血が流れた。
「……言ったはずだ、三度目はないってな」
ジラールの妹は真っ赤に染まりながら、小さな声で囁く。
「……やっぱり実の妹も殺すんだ……血も涙もないやつ……」
糸が切れたようにジラールの妹は地面に倒れ伏す。
倒れたジラールの妹を見て、ミュラーが不敵に笑った。
「甘いやつめ、模擬弾を使うとはな」
ミュラーは覚えたての複体修術でジラールの妹を治療した。
傷は治せても、意識は戻らない。
ジラールがそっぽを向いて、ふてぶてしく言う。
「俺はもう家族を捨てねーって決めてんだ。何度も忠告したのにこの馬鹿妹はよー……」
ジラールが彼女の赤いハーミットを拾い上げ、大事そうにしまう。
そしてはにかんだ顔をしてミュラーに声をかける。
「景気づけに狩りでもするか?」
ミュラーはふっと笑みを浮かべて答える。
「安心しろ、もう囲まれてる」
そしてジラールに魔法を込めた弾丸を投げ渡す。
それをジラールは弾倉に込めながら、笑い飛ばした。
「大事な妹には指先一つ傷つけねぇぜ!」
いや、お前、さっき額に傷をつけたばかりだろ、とミュラーは内心思った。
二人が周りを見渡すと、百頭以上のサーベルタイガーが群れをなして二人を囲っていた。
夕日が地平線に沈みかけ、獣達の狩りの時間が始まった。
耳をつんざくような雄叫びと共に束になって二人に襲い掛かる。
二人はニヤリと笑いながら、ミュラーはランスを、ジラールはハーミットを構えた。
そして襲い掛かる獣の牙に自ら迫る。
ミュラーは右手のランスを突き、かかってきたサーベルタイガーの腹部を貫く、反対の腕では太刀を捌き、別の一頭の胴体を両断していた。
ジラールは自慢の早撃ちで的確に獣のたちの急所の首をピンポイントで狙い、閃光のさみだれが獣たちの命を刈り取る。
悪鬼羅刹の如く、獣たちは蹂躙される。
その血が大量にゴバ草原に舞った。沈む太陽のように赤く。
しかし、その血は他の獣を誘き寄せ、獣の大群がミュラーとジラールに迫りくる。
だがそんな状況でも二人は互いの背を預け、怯むことなく迎え討った。
獣の牙が彼らの腕や、脚に食らいついても、臆することなく自慢の武器で仕留め続ける。
二人は無邪気な笑顔を絶やすことなく、体力の底が尽きるまで、武器をふるい、獣の屍の山を築きあげた。
夕日が大地に沈みきり、空から月明かりが出始めた頃、ミュラーの腕は感覚が麻痺し、体力の限界に気付いた。
「ジラール、逃げるには手遅れだな、体力も
ジラールも肩で息をしながら、辛そうな顔でああ、と頷いた。
闇夜に獣の光る目が輝く、おびただしい数の光がそこにはあった。
ここまでか……。
二人が覚悟を決めた時、二人の周囲には無数の花弁が舞う。
そしてそれが無数の束になって獣たちを切り刻む。
天高く血しぶきが舞うと同時に、三つの影が空から現れ、二人の前に現れる。
オルマ、クロエ、フェンディだ。
「待たせたわね」
フェンディがそれだけ呟いた。
アーペルの魔法である花弁の束は今も獣たちを切り刻む。
獣たちがそれに怯んだ隙を見逃さず、三人は群れに突っ込む。
「退路を作るわよ! 二人とも私に続きなさい!」
両手で持つ二つの大剣を車輪のように振り回し、フェンディは獣たちを蹴散らす。
それにオルマとクロエが続く
。
頼もしい援軍のおかげで、なんとかミュラーとジラールは窮地を脱した。
その晩、ストリップバー、ドピュドピュみるく(´,,•ω•,,`)♡♥の片隅のバーのカウンターでミュラーとジラールはキツイ蒸留酒を酌み交わしていた。
ミュラーが静かに笑う。
「最低な一日だったな、そのうち命を落とすぞ」
ジラールが自嘲気味に笑みを浮かべて、ミュラーのグラスに自分の酒を注ぐ。
「死ぬことを恐れてるわけじゃねー……けど、さんざんな一日だったのは同感だ。悪いな、付き合わせて」
ミュラーは注がれた酒を味わうように飲む。
「……妹はどうした?」
ミュラーの言葉に、ジラールは沈黙し、ただ懐にしまった赤いハーミットをテーブルに置き、ミュラーの前へと流した。
「餞別だ、取っておけ。アイツは故郷に帰ったよ、もう二度と会うことはねぇ……」
そう呟くとジラールは酒に浸されたグラスを見つめ続けた。
ミュラーはジラールの普段とは別の顔を見た。
哀しく、影を落とした。哀愁を漂わせた男の顔だった。
二人は静かに、夜更けまで飲み続けた。
言葉はいらなかった。
沈黙を味わいながら酒を酌み交わし、酔いで心の膿を吐き出した。