第23話 狩りの前夜

文字数 1,902文字

 それは突然のことだった。

 いつものように丸太を担ぎながら、駆け足をしていた時、軍曹が告げる。
「明日は最終訓練を行う! 内容は実戦よ!!最初のハントはイグアノドン!!! こいつは雑食だから食われないように気をつけることね!!!! 詳しいことは夕方に説明するわ!」
 そう言って軍曹は去って行った。
 訓練が終わりその場でへたりこむ四人。

 先日の夜、チームで会議が行われた。
 チームのマスターであるブシュロンがフェンディに静かに尋ねる。
「今回の新人隊はどうだ?」
 フェンディは居丈高に答える。
「揃いも揃ってみんなチンカスね! 特に男共が軟弱なふぬけだわ! こないだなんて赤ちゃんみたいに泣きじゃくるし、おうちに帰ってママの母乳を吸う練習からやり直させたいわ!」
 それを聞いたブシュロンが顔をしかめ、フェンディを窘める。
「報告は正確に頼む。私見はいらん。明日は実戦だ。技量をしっかり観察したのだろう」
 するとフェンディが急に真顔になり、冷静に答える。
「まずはクロエ、身体能力は四人で一番。今から前衛に配置しても問題ないくらいまで鍛えあげたわ」
「ふむ、槍を使うそうだな......。オルマはどうだ?」
「流石に二度の訓練を受けただけはあるわね。技量もセンスも抜群、何より(タオ)の制御は私より上かもしれない。レンジャーの適正があるわね。」
「オルマは斥候として起用するか、糸を使う彼女の相性もいい。赤い頭の坊主はどう思う?」
「あいつ、なんか遠隔の武器使うんだっけ? 嘘でしょ? 底なしの体力の持ち主よ。筋力もあるしとにかくタフね、メンタルも四人の中でズバ抜けてるわ」
「ふむ、後衛も前衛もこなせそうだな。青い髪の奴はどう思った?」
「こいつが一番ヘタレね。あんな澄まして整った顔のイケメンボーイが泣きじゃくる姿は最高だったわ! 私、もっとこいつを虐めたいわ!!」
 高ぶるフェンディを見て、ブシュロンがこめかみを押さえる。
「私見はまじえるなと言ったな」
 フェンディが慌てて、声のトーンを落とす。
「ミュラーね.....。まずは(タオ)総量がケタ違いね。マスターより高いかもしれない……。ただ感情で浮き沈みが激しいからメンタルが問題ね。四人の中で一番体力がなかったけど、この訓練期間で一番アイツが成長してたわ。剣術もできるけど、まだまだハンター向きの異形式剣術は苦手みたいね。あと結構知恵もまわるわ」
「ふむ後は実戦の積み重ねだな。彼は貴重な魔法を使える逸材だ。ひとまずは後衛だな。四人の総合評価を聞こう」
 フェンディが思案しながら、冷静に答える。
「潜在力なら一流のハンターになれるかもしれないわ。初めての実戦でどう動けるかが課題ね。ここで怖気づいて怪物の餌になるか、修羅場を抜けてそのポテンシャルを発揮して、急成長をとげるか......」
 それを聞いたブシュロンが意を決したように判断した。
「うむ、実戦は四人で組んで、そのチームワーク力も確かめたい。今回はイグアノドンでいこう! 多少大型だがその四人が力を合わせればクリアできるハントだ」
 それにフェンディが抗議する。
「イグアノドン!? 危険すぎるわ! 通過儀礼はマンモスのはずじゃない!?」
「信じるんだ四人の力を......」
 ブシュロンの真っ直ぐな瞳に、フェンディはヤレヤレと肩を竦める。
「わかったわ。けど一日よ。一日経って戻らなかったら、すぐに応援を出すこと。その時点で試験は終了よ」
 ブシュロンが満面の笑顔で答える。
「勿論だ。しかし嫌な予感がするな。念のために私も随伴しよう」
 フェンディが軽口を叩く。
「嫌な予感? 草原で迷子になっちゃうとか?」
 ブシュロンが首を振り、重い言葉で伝える。
「最近ハンター連盟の知り合いからアヤカシの出現報告があってな。ここは用心しておきたい」
 フェンディが肩を竦める。
「アヤカシって……。確かにハンターの中にはゴーストハンターもいるけど、今回はゴバ草原よ。アヤカシは人里に現れるはずでしょ」
 ブシュロンが続ける。
「そのゴーストハンターからの報告だ。最近動きが活発化しているらしい。幸い連盟で対処できるレベルのようだが……」
 フェンディが答える。
「大丈夫よ、中級のアヤカシなら充分対処できるくらい強いわよ、アイツら」
 ブシュロンが腕を組んで、心配する。
「ふむ……。懸念ですめばいいのだが……」
 二人が深刻に会議をしている間、その心配をよそに、新人四人は眠っていた。
 深い眠りに誘われていった。
 ただミュラーだけがうなされていた。
 フェンディとブシュロンの話の内容とは全く関係なく、ただ朝の起床ラッパの恐怖に寝汗を大量にかきながら、震えるように寝ていた。
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登場人物紹介

ミュラー=ルクルクト

性別 男

紛争国家群ロアの将軍アジムートの三男。

剣術と魔法を巧みに操る。

身長178センチ 体重63キロ

趣味 読書 遺跡巡り

武家の出自のため世間に疎い。本人は自覚してないがかなり空気が読めない天然で、結構差別的なところがある

オルマ

カジノ大国ベガス出身、獣族の漁師の家庭で生まれ育つ

性別 女

金属性の糸を巧みに操る

身長160センチ 体重★★ 胸は小さい

趣味 釣り

ちゃっかりした性格で機転もきく。横着者。ひょうひょうとした性格だが、判断力は高い

ジラール

性別 男

聖王国出身の傭兵であった。スラム育ちの孤児

古代の遺物、ハーミットの使い手

身長188センチ 75キロ

趣味 武器や防具の鍛冶やメンテナンス

性格は至って粗野、粗暴。下品である。乱暴な一面もあるが仲間想いで、困っている人は見捨てない面もある

クロエ

性別 女

カジノ大国、中部出身。オルマと同じく獣族だが一族でも高貴な身分の生まれである

長い槍を巧みに操る。

身長168センチ 体重★★ 胸は人並み

趣味 毒物の調合

物静かで温厚そうな見た目をしているが、性格は結構腹黒。華奢な身体をしているが抜群の身体能力を持っている。


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