第19話 就活
文字数 2,422文字
ことの始まりは、数日前に遡る。
ベガスの夜の一件が解決した後、オルマに職探しの相談をした時のことだった。
「オルマ、冒険者ギルドってどこにあるんだ? ギルドの依頼を受けて報酬が欲しい」
オルマが首をかしげながら、
「ギルド? 冒険者? ミュラー、どっか冒険行くの? そんなことになんでお金出す人いると思ってんの? 変な本の読みすぎじゃない?」
それを聞いて俺はがっくりと肩を落とす。
念願の冒険者になってみたかったなぁ。
そこへ割って入るようにジラールが聞く。
「こんな坊ちゃんのことはどうでもいい。それより傭兵の募集は無いのか」
またオルマが微妙な顔をする。
「うちの国は今は平和だからねー。仮にボディガード雇うとしても、見ず知らずの外国人雇う人はいないと思うよ」
ジラールが俺の肩を叩く。
「ミュラー、明日には旅だとう。こんなろくでもねー国に未練はない」
俺達が席を立とうとすると、オルマが慌てて呼び止める。
「仕事ならあるよ! アタシの職場なんだけど、今人手不足でさー。 良かったら手伝ってくれない? 給料良いし、寮もあるし、食事もでるよ」
なかなか魅力的な提案だ。
衣食住付きか……。
俺とジラールは二つ返事でその話にのることにした。
『無法者の楽園』 その店の前にいかつい巨躯の男が立っていた。先日オルマがマスターと呼んでいた人物だ。
良かった今日は服を着ている。しかし違和感があるのは何故だ。
「お前らがオルマが言っていた新人か! ウェルカム! 困ったことがあったら遠慮なく聞いてくれ! 今回は豊作だな! 新人が2人か。おっと紹介が遅れたな、ここのチームマスターをしているブシュロンだ! よろしくな!」
心配だったが、案外まともそうな男だ。
ところでさっきから気になってたんだが、コイツは何故右手に大剣を持っているんだ?
オルマは漁師の仕事をしてるんだよな?
ジラールが尋ねる。
「海で釣りとかしたことねーんだけど、大丈夫か?」
「問題ない! 滅多に海は行かんからな!」
今こいつなんて言った? 漁師が海に行かない?
俺は疑問を口に出した。
「なぁ俺達は何するんだ? どんな仕事なんだ?」
オルマが不思議そうな顔をする。
「漁だけど?」
「魚捕まえるのに、こんなごつい武器必要なのか?」
オルマが何言ってんだこいつ、みたいな顔をする。
「魚? そんなの捕まえないよ?」
すると大勢の男たちが威勢の良い掛け声とともに、巨大なマンモスを引いて現れた。
その光景にミュラーとジラールは愕然とする。
オルマがしれっと答える。
「アレがうちらの獲物。大型動物を捕まえたり、駆除するのがアタシらの仕事。だってアタシらは漁師、あ、よその国だとハンターって呼ばれてるんだっけ?」
ブシュロンが強く肩を叩いて。
「安心しろ! ちゃんと研修期間はある。1か月みっちり鍛えてやるからな!!」
猛烈な不安が脳裏によぎった。
「おーい、軍曹! 来てくれ」
呼ばれて現れたのは、俺と同世代か年下くらいの女の子が二人だった。
「呼んだ?」
そう言ったのは長い鮮やかな黒髪を2つに分けて高い位置で結んでいる少女だった。
瞳は情熱的な赤色で、なぜか俺たちを睨みつけているが……気が強いのだろうか。
成人しているかも分からないくらい小柄で幼い顔立ちだ。
その少女の姿を見て、ブシュロンが切り出す。
「よし、新入りども。これからお前たちの教育係を担当するフェンディだ」
ミュラーはその少女を観察して、驚いた。
軍曹と言われたから、てっきり鬼のような形相をしたデカい男が現れると思っていた。
その少女は高飛車に自己紹介した。
「感謝しなさい、あんたたち。 この私があんたたちを一人前のハンターにしてあげるわ。 光栄に思いなさい!」
ジラールがおいおい大丈夫かよ、と小声でつぶやく。
続けて、ブシュロンはもう一人の少女に顔を向けた。
「そっちの獣族の女の子は、お前らと同じ新人だ」
ブシュロンにそう紹介されると、その少女は小さな声で答える。
「クロエです。よろしく」
ミュラーの視線がその少女に移る。
そこにはオルマと同じくらいの背丈で、獣族特有の頭の上にある耳がピンと自己主張している。アライグマみたいな耳だな。
髪はきれいな栗色だ。真っ直ぐに伸びた長髪を腰まで伸ばし、それはオルマとは違ってサラサラと流れている。
どことなく儚げで、整った顔立ちは、美少女というよりも、美人という言葉がふさわしいだろう。
獣族にしては品性のある顔立ちをしている。オルマとはちがって頭もよさそうだ。
「じゃあみんな揃ったことだし、歓迎会をするぞー!」
ブシュロンが張り切って言うが、それをフェンディが制した。
「マスター、今人手不足が深刻なの分かってる? 今すぐにでも研修しないと、モノにならないわよ!」
「む、むむ……じゃあお前たち四人は新人研修だな……。残念だ、歓迎会また今度か......」
オルマが耳をピクピクさせながら小首をかしげる。
「四人? 新人は三人でしょ?」
するとブシュロンが腕を組んで告げる。
「何言ってるんだ。お前、アナコンダの精力剤の件、忘れたわけじゃないだろうな?」
オルマはゲゲッと奇怪な声を上げる。
やっぱり獣族は下品だな。
「そもそもお前はまだ半人前なんだし、罰ついでに新隊員研修を受けてこい」
「ええー! あれまたやるのー!?」
顔を真っ青にしたオルマは自慢の耳をペタリと落として消沈している。
そんなに嫌なのだろうか。
「何ぼさぼさしてんの、早速研修始めるわよ。浜辺まで行くからついてきて」
四人がフェンディの後を追う。
俺は胸を高鳴らせていた。
初めてのお仕事が女の子と一緒なんて、なんて幸運なんだ。
手取り足取り教えてもらおう。
「オルマ、感謝する!」
「何を?」
よし、アジムートを屠った俺の実力を見せてやる。
ちょっとジラールが心配だ。まともに仕事なんてできるのか?
研修だからって足を引っ張るなよ。
ベガスの夜の一件が解決した後、オルマに職探しの相談をした時のことだった。
「オルマ、冒険者ギルドってどこにあるんだ? ギルドの依頼を受けて報酬が欲しい」
オルマが首をかしげながら、
「ギルド? 冒険者? ミュラー、どっか冒険行くの? そんなことになんでお金出す人いると思ってんの? 変な本の読みすぎじゃない?」
それを聞いて俺はがっくりと肩を落とす。
念願の冒険者になってみたかったなぁ。
そこへ割って入るようにジラールが聞く。
「こんな坊ちゃんのことはどうでもいい。それより傭兵の募集は無いのか」
またオルマが微妙な顔をする。
「うちの国は今は平和だからねー。仮にボディガード雇うとしても、見ず知らずの外国人雇う人はいないと思うよ」
ジラールが俺の肩を叩く。
「ミュラー、明日には旅だとう。こんなろくでもねー国に未練はない」
俺達が席を立とうとすると、オルマが慌てて呼び止める。
「仕事ならあるよ! アタシの職場なんだけど、今人手不足でさー。 良かったら手伝ってくれない? 給料良いし、寮もあるし、食事もでるよ」
なかなか魅力的な提案だ。
衣食住付きか……。
俺とジラールは二つ返事でその話にのることにした。
『無法者の楽園』 その店の前にいかつい巨躯の男が立っていた。先日オルマがマスターと呼んでいた人物だ。
良かった今日は服を着ている。しかし違和感があるのは何故だ。
「お前らがオルマが言っていた新人か! ウェルカム! 困ったことがあったら遠慮なく聞いてくれ! 今回は豊作だな! 新人が2人か。おっと紹介が遅れたな、ここのチームマスターをしているブシュロンだ! よろしくな!」
心配だったが、案外まともそうな男だ。
ところでさっきから気になってたんだが、コイツは何故右手に大剣を持っているんだ?
オルマは漁師の仕事をしてるんだよな?
ジラールが尋ねる。
「海で釣りとかしたことねーんだけど、大丈夫か?」
「問題ない! 滅多に海は行かんからな!」
今こいつなんて言った? 漁師が海に行かない?
俺は疑問を口に出した。
「なぁ俺達は何するんだ? どんな仕事なんだ?」
オルマが不思議そうな顔をする。
「漁だけど?」
「魚捕まえるのに、こんなごつい武器必要なのか?」
オルマが何言ってんだこいつ、みたいな顔をする。
「魚? そんなの捕まえないよ?」
すると大勢の男たちが威勢の良い掛け声とともに、巨大なマンモスを引いて現れた。
その光景にミュラーとジラールは愕然とする。
オルマがしれっと答える。
「アレがうちらの獲物。大型動物を捕まえたり、駆除するのがアタシらの仕事。だってアタシらは漁師、あ、よその国だとハンターって呼ばれてるんだっけ?」
ブシュロンが強く肩を叩いて。
「安心しろ! ちゃんと研修期間はある。1か月みっちり鍛えてやるからな!!」
猛烈な不安が脳裏によぎった。
「おーい、軍曹! 来てくれ」
呼ばれて現れたのは、俺と同世代か年下くらいの女の子が二人だった。
「呼んだ?」
そう言ったのは長い鮮やかな黒髪を2つに分けて高い位置で結んでいる少女だった。
瞳は情熱的な赤色で、なぜか俺たちを睨みつけているが……気が強いのだろうか。
成人しているかも分からないくらい小柄で幼い顔立ちだ。
その少女の姿を見て、ブシュロンが切り出す。
「よし、新入りども。これからお前たちの教育係を担当するフェンディだ」
ミュラーはその少女を観察して、驚いた。
軍曹と言われたから、てっきり鬼のような形相をしたデカい男が現れると思っていた。
その少女は高飛車に自己紹介した。
「感謝しなさい、あんたたち。 この私があんたたちを一人前のハンターにしてあげるわ。 光栄に思いなさい!」
ジラールがおいおい大丈夫かよ、と小声でつぶやく。
続けて、ブシュロンはもう一人の少女に顔を向けた。
「そっちの獣族の女の子は、お前らと同じ新人だ」
ブシュロンにそう紹介されると、その少女は小さな声で答える。
「クロエです。よろしく」
ミュラーの視線がその少女に移る。
そこにはオルマと同じくらいの背丈で、獣族特有の頭の上にある耳がピンと自己主張している。アライグマみたいな耳だな。
髪はきれいな栗色だ。真っ直ぐに伸びた長髪を腰まで伸ばし、それはオルマとは違ってサラサラと流れている。
どことなく儚げで、整った顔立ちは、美少女というよりも、美人という言葉がふさわしいだろう。
獣族にしては品性のある顔立ちをしている。オルマとはちがって頭もよさそうだ。
「じゃあみんな揃ったことだし、歓迎会をするぞー!」
ブシュロンが張り切って言うが、それをフェンディが制した。
「マスター、今人手不足が深刻なの分かってる? 今すぐにでも研修しないと、モノにならないわよ!」
「む、むむ……じゃあお前たち四人は新人研修だな……。残念だ、歓迎会また今度か......」
オルマが耳をピクピクさせながら小首をかしげる。
「四人? 新人は三人でしょ?」
するとブシュロンが腕を組んで告げる。
「何言ってるんだ。お前、アナコンダの精力剤の件、忘れたわけじゃないだろうな?」
オルマはゲゲッと奇怪な声を上げる。
やっぱり獣族は下品だな。
「そもそもお前はまだ半人前なんだし、罰ついでに新隊員研修を受けてこい」
「ええー! あれまたやるのー!?」
顔を真っ青にしたオルマは自慢の耳をペタリと落として消沈している。
そんなに嫌なのだろうか。
「何ぼさぼさしてんの、早速研修始めるわよ。浜辺まで行くからついてきて」
四人がフェンディの後を追う。
俺は胸を高鳴らせていた。
初めてのお仕事が女の子と一緒なんて、なんて幸運なんだ。
手取り足取り教えてもらおう。
「オルマ、感謝する!」
「何を?」
よし、アジムートを屠った俺の実力を見せてやる。
ちょっとジラールが心配だ。まともに仕事なんてできるのか?
研修だからって足を引っ張るなよ。