第17話 悪夢からの解放
文字数 2,835文字
夜明け前の暗く、静寂が満ちた城内、その通路を三人はひっそりと歩む。
「朝までもうすぐだ、ホントに大丈夫なんだろーな!」
ジラールが文句を言う。
それにオルマが反論する。
「もうミュラーの案にのるしかないじゃん、ベガス中探したのに見つからないんだよ! てか、なんでまだゴブリンなんか連れてるのさ!」
「仕方ねーだろ、このゴブリンしがみついて離れねーんだよ!」
「二人とも静かにしろ、変化の魔法の効果が解けるかもしれない」
三人はミュラーの魔法によって城内の兵士に変化していた。
目的地は決まっていた。
自分たちが最初に目覚めた場所……姫の寝室。
しばらく城内を歩くと辿りついた。その部屋のノブを引き寝室へと入る。
そして目的の場所の前に立つ。
この国の王の肖像画の前に揃う三人。
「誰もこの先に抜け穴があるとは思わないだろうな」
そうミュラーが呟くと、躊躇なく肖像画に手を伸ばす。
そして破る。
なんと絵の中の王の顔にミュラーの腕が入り込む。
その様子を見た二人が驚愕した。
「この先に通路があるんだ」
ミュラーは二人に向かって勝ち誇った笑みを浮かべた。
ミュラーは推理した。
昨日、この厳重な警備の城の中を姫はどうやってベガスの街まで抜け出せたのか。そして俺達はどうやって衛兵に気付かれずに、昨夜この部屋にたどり着けたのか。
それは姫の寝室に隠し通路があったからだ。そう、あのマフィアが用意していたような抜け道が。そして俺の推理が正しければ......。
「この先に姫はいるぞ!」
三人は静かに歓喜の声を上げ抱きしめあった。そして我先にと肖像画を破り隠し通路へと、なだれこんだ。
結論から言おう。そこにも姫はいなかった。
朝日の光が無情にもミュラーを照らす。
無言の三人が行く当てもなく、寝室へと戻っていく。
ジラールが持っていたゴブリンをベッドへと投げ飛ばした。
「クソったれがっ!!!」
ジラールが頭を抱える。さらに続ける。
「どれもこれもミュラーのせいだ! 何が肖像画の先の抜け穴だ! 何もねーじゃねーか! おいおいどうする!? もうすぐタイムリミットだマジでヤベぇぞ!!」
オルマも顔面蒼白にして膝まづく。
「ミュラーの口車に乗せられた! アタシの首がもうすぐ飛んじゃう!!」
俺は少々不本意だった。
推理は当たっていたのに、何故俺が責められるのだ。
たまたまそこに姫がいなかっただけじゃないか。
俺は悪くない。
しかし二人は一斉に俺を責め立てた。
やり場のない怒りを俺にぶつけてきた。
小鳥のさえずりが朝を知らせてきた。時間だけが経過し、だんだん不安に押しつぶされそうになる。
俺はここで終わるのか......?
ミュラーの心に絶望感が押し寄せる。自然と愛剣を抜き、喉元へと近づける。
殺されるぐらいなら、潔く果てるか......。
そんなミュラーを横目に、苛立ちが収まらないジラールがゴブリンの頭を拳でぐりぐりさせながら、
「......ミュラー、お得意の変化の魔法をオルマにかけろ。姫に変身させて、オレらはバックレよう。そもそも酔っぱらって不覚になったのはこいつのアナコンダの精力剤のせいだ」
その言葉を聞いて激高したオルマがジラールに飛び掛かる。
「こいつ! そんなにわが身が可愛いか! この軟弱者!!」
俺はうなだれて、首を横に振る。
「......無理だ、俺は姫の顔も姿も知らない......。せいぜいそこのゴブリンに変化させられることしかできない......」
「......クソッタレ!! じゃあ、もうゴブリンでいい!」
ジラールは自暴自棄になっていた。
しかし、そんなジラールに掴みかかっていたオルマが自慢の耳をピンと立てて、はっとした顔になる。
そうだ、ミュラーは変化の魔法が使えるんだった......!
オルマの頭に天啓が落ちる。
ジラールの先ほどの台詞が脳内で響き渡った。
ゴブリン? ゴブリン!? ゴブリン!!??
オルマの髪の毛が逆立つ。そして目を見開いて、ミュラーに抱きついた。
「ねぇ、ミュラー。試しにそこのゴブリンに変化が解ける魔法を唱えてくれない?」
俺は困惑した顔で答える。
「何故だ」
オルマが苛立つように急かす。
「いいから!」
わけがわからない、とりあえず言うこと聞かないと噛みつきそうだ。
俺はジラールが持つゴブリンに手をかざした。
「解」
するとゴブリンが儚げな徐々に美少女へと姿を変えていく。
その美しい顔と姿はどことなく気品が漂わせている。
その姿はまるで裸の女神が降臨したかのようだ。
いや実際全裸であった。
そして顔から全身にまで掘られた入れ墨に、三人は戦慄が走る。
その少女はシーツで身体を覆い、もう動いていない錦鯉を掴むと、すぐさまジラールの股間をはたき上げ、下がった顎に目掛け、渾身の力で錦鯉を振り上げて殴り飛ばす。
そして狙いを俺へと見定めた。
錦鯉の連撃が繰り出される。
しかし俺はその動きを読み、姫の拳部分を左手で受け流す。
そして空いた右手で姫の肩を抱き、抱えるように投げ飛ばす。
そのまま体重を乗せて組み伏せた。
歓喜の笑みを浮かべながらオルマの方へと顔を上げる。
「オルマ、姫様を確保したぞ。やったな」
俺の満面の笑みに、オルマはひきつった笑みで答える。
「そ、そうだねー......」
俺に組み伏せられた姫がじたばたと暴れる。
「さんざん弄んでくれたわね! このクズども!! 私のことを武器のように振り回したり、吊るしたり、ベッドへ投げ捨てたり、変顔にして弄んだり、突然放り投げたり、おしりを撫でたり好き放題してくれて!! そこの変態をもう一回でいいから殴らせて!! 殴らせなさいぃ!!!!」
ジラールは自分の行いに今さら真っ青になっている。
普段から生き物をいたわらないからこうなるんだ。
「ひ、姫様、朝食会の時間が迫っておりますよー......なんて」
オルマが手もみしながら懐柔を試みると、姫はやっとおとなしくなった。
「朝食会の後、覚えてなさい!!」
という捨て台詞と共に、着替えて、姫はその場を去った。
姫はずっと俺達のそばにいたのだ。
あまりにも近い場所であったので盲点であった。
三人は心の底から安堵した。
そして同じ言葉が脳裏に走る。
助かった......。
そして極度の疲労と緊張、眠気が全身を気怠く包みこむ。だんだんと意識が朦朧とし、再びこの部屋で気絶することになった。
どうか、この愚かな三人に昨日の悪夢と同じ日が二度と来ないことを……。
このミュラーの悪夢のような一日は、彼が後に英雄になった時固く封印された。
誰にも黒歴史はあるものだ。
そしてその歴史の事実をひも解いてはならない。
英雄の黒歴史ならなおさらである。
これは一人の英雄の若さゆえの過ちなのだ。
英雄は今もその過去に向き合えていない。
人は未来に向かって生きていくものだ。
......誰にも振り返りたくない過去はある......。
「朝までもうすぐだ、ホントに大丈夫なんだろーな!」
ジラールが文句を言う。
それにオルマが反論する。
「もうミュラーの案にのるしかないじゃん、ベガス中探したのに見つからないんだよ! てか、なんでまだゴブリンなんか連れてるのさ!」
「仕方ねーだろ、このゴブリンしがみついて離れねーんだよ!」
「二人とも静かにしろ、変化の魔法の効果が解けるかもしれない」
三人はミュラーの魔法によって城内の兵士に変化していた。
目的地は決まっていた。
自分たちが最初に目覚めた場所……姫の寝室。
しばらく城内を歩くと辿りついた。その部屋のノブを引き寝室へと入る。
そして目的の場所の前に立つ。
この国の王の肖像画の前に揃う三人。
「誰もこの先に抜け穴があるとは思わないだろうな」
そうミュラーが呟くと、躊躇なく肖像画に手を伸ばす。
そして破る。
なんと絵の中の王の顔にミュラーの腕が入り込む。
その様子を見た二人が驚愕した。
「この先に通路があるんだ」
ミュラーは二人に向かって勝ち誇った笑みを浮かべた。
ミュラーは推理した。
昨日、この厳重な警備の城の中を姫はどうやってベガスの街まで抜け出せたのか。そして俺達はどうやって衛兵に気付かれずに、昨夜この部屋にたどり着けたのか。
それは姫の寝室に隠し通路があったからだ。そう、あのマフィアが用意していたような抜け道が。そして俺の推理が正しければ......。
「この先に姫はいるぞ!」
三人は静かに歓喜の声を上げ抱きしめあった。そして我先にと肖像画を破り隠し通路へと、なだれこんだ。
結論から言おう。そこにも姫はいなかった。
朝日の光が無情にもミュラーを照らす。
無言の三人が行く当てもなく、寝室へと戻っていく。
ジラールが持っていたゴブリンをベッドへと投げ飛ばした。
「クソったれがっ!!!」
ジラールが頭を抱える。さらに続ける。
「どれもこれもミュラーのせいだ! 何が肖像画の先の抜け穴だ! 何もねーじゃねーか! おいおいどうする!? もうすぐタイムリミットだマジでヤベぇぞ!!」
オルマも顔面蒼白にして膝まづく。
「ミュラーの口車に乗せられた! アタシの首がもうすぐ飛んじゃう!!」
俺は少々不本意だった。
推理は当たっていたのに、何故俺が責められるのだ。
たまたまそこに姫がいなかっただけじゃないか。
俺は悪くない。
しかし二人は一斉に俺を責め立てた。
やり場のない怒りを俺にぶつけてきた。
小鳥のさえずりが朝を知らせてきた。時間だけが経過し、だんだん不安に押しつぶされそうになる。
俺はここで終わるのか......?
ミュラーの心に絶望感が押し寄せる。自然と愛剣を抜き、喉元へと近づける。
殺されるぐらいなら、潔く果てるか......。
そんなミュラーを横目に、苛立ちが収まらないジラールがゴブリンの頭を拳でぐりぐりさせながら、
「......ミュラー、お得意の変化の魔法をオルマにかけろ。姫に変身させて、オレらはバックレよう。そもそも酔っぱらって不覚になったのはこいつのアナコンダの精力剤のせいだ」
その言葉を聞いて激高したオルマがジラールに飛び掛かる。
「こいつ! そんなにわが身が可愛いか! この軟弱者!!」
俺はうなだれて、首を横に振る。
「......無理だ、俺は姫の顔も姿も知らない......。せいぜいそこのゴブリンに変化させられることしかできない......」
「......クソッタレ!! じゃあ、もうゴブリンでいい!」
ジラールは自暴自棄になっていた。
しかし、そんなジラールに掴みかかっていたオルマが自慢の耳をピンと立てて、はっとした顔になる。
そうだ、ミュラーは変化の魔法が使えるんだった......!
オルマの頭に天啓が落ちる。
ジラールの先ほどの台詞が脳内で響き渡った。
ゴブリン? ゴブリン!? ゴブリン!!??
オルマの髪の毛が逆立つ。そして目を見開いて、ミュラーに抱きついた。
「ねぇ、ミュラー。試しにそこのゴブリンに変化が解ける魔法を唱えてくれない?」
俺は困惑した顔で答える。
「何故だ」
オルマが苛立つように急かす。
「いいから!」
わけがわからない、とりあえず言うこと聞かないと噛みつきそうだ。
俺はジラールが持つゴブリンに手をかざした。
「解」
するとゴブリンが儚げな徐々に美少女へと姿を変えていく。
その美しい顔と姿はどことなく気品が漂わせている。
その姿はまるで裸の女神が降臨したかのようだ。
いや実際全裸であった。
そして顔から全身にまで掘られた入れ墨に、三人は戦慄が走る。
その少女はシーツで身体を覆い、もう動いていない錦鯉を掴むと、すぐさまジラールの股間をはたき上げ、下がった顎に目掛け、渾身の力で錦鯉を振り上げて殴り飛ばす。
そして狙いを俺へと見定めた。
錦鯉の連撃が繰り出される。
しかし俺はその動きを読み、姫の拳部分を左手で受け流す。
そして空いた右手で姫の肩を抱き、抱えるように投げ飛ばす。
そのまま体重を乗せて組み伏せた。
歓喜の笑みを浮かべながらオルマの方へと顔を上げる。
「オルマ、姫様を確保したぞ。やったな」
俺の満面の笑みに、オルマはひきつった笑みで答える。
「そ、そうだねー......」
俺に組み伏せられた姫がじたばたと暴れる。
「さんざん弄んでくれたわね! このクズども!! 私のことを武器のように振り回したり、吊るしたり、ベッドへ投げ捨てたり、変顔にして弄んだり、突然放り投げたり、おしりを撫でたり好き放題してくれて!! そこの変態をもう一回でいいから殴らせて!! 殴らせなさいぃ!!!!」
ジラールは自分の行いに今さら真っ青になっている。
普段から生き物をいたわらないからこうなるんだ。
「ひ、姫様、朝食会の時間が迫っておりますよー......なんて」
オルマが手もみしながら懐柔を試みると、姫はやっとおとなしくなった。
「朝食会の後、覚えてなさい!!」
という捨て台詞と共に、着替えて、姫はその場を去った。
姫はずっと俺達のそばにいたのだ。
あまりにも近い場所であったので盲点であった。
三人は心の底から安堵した。
そして同じ言葉が脳裏に走る。
助かった......。
そして極度の疲労と緊張、眠気が全身を気怠く包みこむ。だんだんと意識が朦朧とし、再びこの部屋で気絶することになった。
どうか、この愚かな三人に昨日の悪夢と同じ日が二度と来ないことを……。
このミュラーの悪夢のような一日は、彼が後に英雄になった時固く封印された。
誰にも黒歴史はあるものだ。
そしてその歴史の事実をひも解いてはならない。
英雄の黒歴史ならなおさらである。
これは一人の英雄の若さゆえの過ちなのだ。
英雄は今もその過去に向き合えていない。
人は未来に向かって生きていくものだ。
......誰にも振り返りたくない過去はある......。