第40話 血塗られたハーミット①
文字数 1,725文字
ジラールは過去をあまり語らない。
西側諸国の聖王国のスラム育ちなのは伝えているが、過去のことを話すことは殆どない。
彼は今を生きる人間なのだ。
過去は置いてきてある。
それはとても辛く一人で抱えきれないものだった。それは彼の心の傷であった。
そんなジラールもそのことを記憶の奥底にしまいこんだ。
しかし運命は残酷である。
いつも通り金物屋で武具の整備をしていたら、ジラールを指名して一つの依頼がきた。
古く、壊れかけた赤いハーミットの調整である。
手紙を添えて。
弾倉を見ると中身は空であった。
ジラールは直接接客した店主に話を聞くと、弾丸の補充も依頼しているそうだ。
フードを被っていたから顔はよく見えなかったが、小柄で女の子のようだったという。
はみ出た赤毛はジラールと同じ髪色をしていたそうだ。
この血のように赤く染まったハーミットと同じ、色だ。
その色はジラールの忘れたい記憶であった。捨てた過去の一つだった。
そしてそのハーミットにも見覚えがあった。
ジラールは依頼人が誰かすでに確信していた。
ジラールは、オルマ達が働くカフェでミュラーを呼び出した。
手紙の内容と弾丸に魔法を込めるためだ。
最近徹夜ぎみのミュラーは不機嫌であった。
そしてミュラーはジラールのことを良くは思っていない。
礼節を重んじるミュラーは粗野でがさつ、下品なジラールの性格を心良く思っていなかった。
ミュラーは自覚していないがジラールを見下していた。
スラム生まれだから、そんな性根を持っているんだろうと。
ジラールもミュラーに見下されていることを自覚していた。
ジラールもそんなミュラーが気に入らなかった。
しかしこれはミュラーにしか頼めなかった。
手紙の内容なら別の代筆屋にでも頼めばいいし、弾丸に魔法を込めるのも、仲間のアーペルでもできる。
なんとなくジラールは手紙の内容を察していた。
それにはミュラーがふさわしいと思ったから頼むことにしたのだ。
ミュラーは手紙を呼んだ後、ジラールの深刻そうな表情を見て、怪訝そうに尋ねる。
「……何があった?」
ジラールは赤いハーミットと自分のハーミットをテーブルの上に置き、重たい声で自分の過去を語った。
ジラールには家族がいた。
年の離れた兄、そして妹の三人で幼少期からスラム街を過ごしていた。
自分のハーミットは12歳の誕生日に兄からもらった。
そしてその扱い方の指導もしてくれた。
兄のおかげでジラールも腕を上げた。
尊敬できる兄だった。
ただジラールと違うことがあった。
ジラールはスラムで平気で犯罪をして暮らしていた。
窃盗、詐欺、喧嘩なんでもやった。
そうでなければ厳しいスラムは生きられない。
それでもその頃は超えてはいけない一線があった。
しかしジラールの兄は違った。
兄は殺し屋であった。
プロの殺し屋からその技術を学ぶということは、ジラールもいつか自分も殺人をすることになるだろうとは思っていた。
そして14の時、マフィアから依頼がきた。
兄を殺せと。
兄はその世界では名が売れたために目をつけられた。
家族相手なら油断するだろうという目論見だった。
断ることはできなかった。
断れば、自分も妹も殺されるし、兄ももっと実力のある人間に始末されるだろう。
真向勝負では兄に勝てない。
確実に殺すために、ジラールは家族で団らんしている所で背中を見せた兄を後ろからナイフで刺した。
確実に始末するために毒を塗ったナイフで背中を深く刺し、強く握りしめ兄の背中を切り裂いた。
目の前にいた妹は鮮血を浴びながら呆然自失していた。
そしてごとり、と兄の懐にしまっていた赤いハーミットが床に落ちる。
血の海に沈んでいた。
我に返ったジラールはその場から飛び出す。
そして国をでて、各地を点々とした。
そして今、ミュラーの目の前にジラールはいた。
ジラールの話を聞いたミュラーは手紙の内容が知りたいかどうか、ジラールに尋ねた。
「聞いても後悔しないな」
「ああ、覚悟はできている」
ミュラーは手紙の内容をジラールに伝えた。
果たし状だった。差出人と果たし合い手はジラールの妹だった。
そして場所と日時をジラールに伝えた。
西側諸国の聖王国のスラム育ちなのは伝えているが、過去のことを話すことは殆どない。
彼は今を生きる人間なのだ。
過去は置いてきてある。
それはとても辛く一人で抱えきれないものだった。それは彼の心の傷であった。
そんなジラールもそのことを記憶の奥底にしまいこんだ。
しかし運命は残酷である。
いつも通り金物屋で武具の整備をしていたら、ジラールを指名して一つの依頼がきた。
古く、壊れかけた赤いハーミットの調整である。
手紙を添えて。
弾倉を見ると中身は空であった。
ジラールは直接接客した店主に話を聞くと、弾丸の補充も依頼しているそうだ。
フードを被っていたから顔はよく見えなかったが、小柄で女の子のようだったという。
はみ出た赤毛はジラールと同じ髪色をしていたそうだ。
この血のように赤く染まったハーミットと同じ、色だ。
その色はジラールの忘れたい記憶であった。捨てた過去の一つだった。
そしてそのハーミットにも見覚えがあった。
ジラールは依頼人が誰かすでに確信していた。
ジラールは、オルマ達が働くカフェでミュラーを呼び出した。
手紙の内容と弾丸に魔法を込めるためだ。
最近徹夜ぎみのミュラーは不機嫌であった。
そしてミュラーはジラールのことを良くは思っていない。
礼節を重んじるミュラーは粗野でがさつ、下品なジラールの性格を心良く思っていなかった。
ミュラーは自覚していないがジラールを見下していた。
スラム生まれだから、そんな性根を持っているんだろうと。
ジラールもミュラーに見下されていることを自覚していた。
ジラールもそんなミュラーが気に入らなかった。
しかしこれはミュラーにしか頼めなかった。
手紙の内容なら別の代筆屋にでも頼めばいいし、弾丸に魔法を込めるのも、仲間のアーペルでもできる。
なんとなくジラールは手紙の内容を察していた。
それにはミュラーがふさわしいと思ったから頼むことにしたのだ。
ミュラーは手紙を呼んだ後、ジラールの深刻そうな表情を見て、怪訝そうに尋ねる。
「……何があった?」
ジラールは赤いハーミットと自分のハーミットをテーブルの上に置き、重たい声で自分の過去を語った。
ジラールには家族がいた。
年の離れた兄、そして妹の三人で幼少期からスラム街を過ごしていた。
自分のハーミットは12歳の誕生日に兄からもらった。
そしてその扱い方の指導もしてくれた。
兄のおかげでジラールも腕を上げた。
尊敬できる兄だった。
ただジラールと違うことがあった。
ジラールはスラムで平気で犯罪をして暮らしていた。
窃盗、詐欺、喧嘩なんでもやった。
そうでなければ厳しいスラムは生きられない。
それでもその頃は超えてはいけない一線があった。
しかしジラールの兄は違った。
兄は殺し屋であった。
プロの殺し屋からその技術を学ぶということは、ジラールもいつか自分も殺人をすることになるだろうとは思っていた。
そして14の時、マフィアから依頼がきた。
兄を殺せと。
兄はその世界では名が売れたために目をつけられた。
家族相手なら油断するだろうという目論見だった。
断ることはできなかった。
断れば、自分も妹も殺されるし、兄ももっと実力のある人間に始末されるだろう。
真向勝負では兄に勝てない。
確実に殺すために、ジラールは家族で団らんしている所で背中を見せた兄を後ろからナイフで刺した。
確実に始末するために毒を塗ったナイフで背中を深く刺し、強く握りしめ兄の背中を切り裂いた。
目の前にいた妹は鮮血を浴びながら呆然自失していた。
そしてごとり、と兄の懐にしまっていた赤いハーミットが床に落ちる。
血の海に沈んでいた。
我に返ったジラールはその場から飛び出す。
そして国をでて、各地を点々とした。
そして今、ミュラーの目の前にジラールはいた。
ジラールの話を聞いたミュラーは手紙の内容が知りたいかどうか、ジラールに尋ねた。
「聞いても後悔しないな」
「ああ、覚悟はできている」
ミュラーは手紙の内容をジラールに伝えた。
果たし状だった。差出人と果たし合い手はジラールの妹だった。
そして場所と日時をジラールに伝えた。