第56話 フランツ=ヨーゼフ

文字数 2,301文字

 ミュラーがラクシャインの元へ向かっていた時、鍛冶場ではリューは装備の点検と、街の持ち場で待機している少年兵達と連絡を取り合っていた。
 しかし肝心のミュラーからの報告は一向に音沙汰が無い。
 そのことにリューは不安を隠せないでいた。
 ジラールは窯に焚べるために薪を取りに行っていたところであった。
 リューが一人でいたところ、初老の老人が不意に現れる。
 見かけからしてこの鍛冶場の主だと、リューは直感した。
 リューが会釈すると、初老の老人は一瞥して、嘆息をする。
「ジラールの野朗はどこいった? 全く厄介ごとを持ち込みやがって。それになんだこの現場は? 散らかしやがって。整理整頓しとけって、何度言ったらわかりやがる」
 その言葉を聞いてリューが申し訳無さそうに頭を下げる。
 鍛冶場の主は、ジラールが整備途中だった武具を観察して、リューに尋ねる。
「これで全部か? アンタらの持ちもんは。仕方ねぇな。ジラールの代わりに俺が見てやろう」
 老人の申し出にリューが感謝の言葉を述べようとすると、突然、老人の背後からジラールが現れた。
 ハーミットを老人の背中に突きつけ、鋭い眼光を飛ばしていた。
「動くんじゃねぇ。他の奴は欺けても、俺の目は騙せないぜ。この短刀を盗む気だったな、ジジイ」
 老人が振り返ろうとすると、ジラールは老人の足を引っ掛け、転ばせる。
 そして倒れた老人に向けてハーミットの狙いを定める。
「この短刀、アンタが作ったな。魔法陣は解けなくても、この刃の刃紋の形ですぐにアンタが作ったヤツだってわかったよ。何年弟子やってると思っていやがる、舐めんなよ」
 老人が呻く。
「ジラール、テメェ......」
「知ってること吐がねぇと、ぶち抜いて、そこの釜戸で火葬してやる。そっちのネクラも動くな。大方ミュラーを盗聴していやがんだろ? この水晶使ってな」
 ジラールがリューにそう告げると、小型の水晶を握り潰した。
 リューはやれやれという顔をして、両手を上げる。
 そして仕方なさそうに話す。
「お見通しでしたか。しかしどうしても私たちはラクシャイン、そしてフランツ=ヨーゼフを見つけ出したかった。魔法陣を見て確信したんです。この術式を解けるのは術者である、フランツ=ヨーゼフしかいないと......。しかしこれでわかりましたね。その老人の正体が」
 ジラールがハーミットの狙いを定める。
「ああ。ジジイ、テメェがフランツ=ヨーゼフだな」
 ジラールの言葉に、老人は不適に笑みを浮かべる。
「馬鹿だと思ったが、してやられたわい。そうだ、それがワシのもう一つの名じゃ」
「もう一つ?」
「クラウス、エミル、ヘルムート......。この三つの名前を使って、ワシらはこの国の情報を集めていた。ワシの担当は裏社会。もう一人は大衆の情報。お前の相棒に殺された奴は国政や軍事の情報だ。三人が集めた情報の塊がこの短刀には仕込んである」
「ジジイ! テメェの狙いはなんだ!?」
 老人が遠い目をしながら、声を漏らす。
「……自由が欲しかった。そしてあの事を知った時、ただ命が惜しかった。だから、エミルと二人で共謀して、ヘルムートを嵌めた。表向きは奴がフランツ=ヨーゼフだったからな。死は偽装できると思った。しかしアヤツめ、まさか文書を保険にしていたとはな……。おかげで銃口を向けられるハメになったわい」
 ジラールはハーミットをの撃鉄をガチャリと落とす。
「テメェは何を知っていやがる!? この短刀の中身を教えろ!」
 老人が不気味な笑い声を上げ始めた。
「クッククク……、この国の闇……、……ロゼの計画じゃよ。それにしてもジラールお前さんは馬鹿じゃの。ヘルムートの死の偽装が見破られて、ワシが何もしてなかったと思うかね?」
 ジラールが怒号を上げる。
 今にもハーミットを放ちそうな勢いだ。
 それを見たリューは思わず、身を伏せた。
「なんだとテメェ!!」
「その魔法陣の解術は確かにワシができる。しかし中身はすでに暗号化されている。解けるのはただ一人。エルドラ、ワシの身の安全を守ってくれる人間じゃ」
「誰だソイツは!?」
「そっちの辛気臭い若造が良く知ってるわい」
 ジラールがリューを睨みつけると、リューはやれやれといった感じに肩をすくめた。
「……確かに私の依頼人の名前です。しかし私は何も聞かされてませんよ。エルドラの依頼はフランツ=ヨーゼフ、ラクシャインの二人を見つけること。文書を守ること。そしてあなた方の警護です」
 すると老人が吐き捨てるように促す。
「ならとっとと、エルドラに短刀を渡せ。魔法陣ならすぐに解術してやるわい!」
 すると少年兵達が慌てて鍛冶場に入ってきた。
 必死な顔をして、リューに話しかける。
「大鷲! 敵襲だ!! ごめんなさい、水晶で話しても通じなかった」
 その報告を聞いて、リューが眉間に皺を寄せる。
「クソ! また通信妨害か! ジラールさん、そこの老人を連れて逃げましょう!」
 すると周囲が爆炎に包まれる。
 そして炎の中から、金色の髪を揺らした男が姿を現す。
 とっさにジラールはハーミットを構えて、出力を上げる。
 すると陽炎の中から大気が揺らめくように、死の宣告が響き渡る。
「探したぞ。言ったよな、次に会ったら殺すと」
 炎の影に目掛けて、ジラールが大きな光を集めた光弾をハーミットで撃ち放つ。
 そしてリューと少年たちに向けて、覚悟を決めて呼びかけた。
「ここは俺が食い止める! みんな逃げろ!!」
 その言葉を聞いて、リューはこくりと頷いた。
 そして老人を連れて、子供たちとその場から立ち去る。

 振り返ると、リューの瞳には、命を賭けた男の後ろ姿が映っていた。
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登場人物紹介

ミュラー=ルクルクト

性別 男

紛争国家群ロアの将軍アジムートの三男。

剣術と魔法を巧みに操る。

身長178センチ 体重63キロ

趣味 読書 遺跡巡り

武家の出自のため世間に疎い。本人は自覚してないがかなり空気が読めない天然で、結構差別的なところがある

オルマ

カジノ大国ベガス出身、獣族の漁師の家庭で生まれ育つ

性別 女

金属性の糸を巧みに操る

身長160センチ 体重★★ 胸は小さい

趣味 釣り

ちゃっかりした性格で機転もきく。横着者。ひょうひょうとした性格だが、判断力は高い

ジラール

性別 男

聖王国出身の傭兵であった。スラム育ちの孤児

古代の遺物、ハーミットの使い手

身長188センチ 75キロ

趣味 武器や防具の鍛冶やメンテナンス

性格は至って粗野、粗暴。下品である。乱暴な一面もあるが仲間想いで、困っている人は見捨てない面もある

クロエ

性別 女

カジノ大国、中部出身。オルマと同じく獣族だが一族でも高貴な身分の生まれである

長い槍を巧みに操る。

身長168センチ 体重★★ 胸は人並み

趣味 毒物の調合

物静かで温厚そうな見た目をしているが、性格は結構腹黒。華奢な身体をしているが抜群の身体能力を持っている。


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