第71話 醜態

文字数 2,232文字

 イルカ騎士団、ランドシェパードの嫌がらせはの日々は続いた。
 俺たちの拠点は見張りをつけることになった。
 国が見て見ぬふりなのだから仕方ない。
 ハンター組合も国が絡むと及び腰で、迂闊に報復措置が取れない状況だ。
 今年の闘鶏レースも開催が中止された。
 走るニワトリに鞭を打つのが気に入らないとかで、文句をつけてきた。

 鳥すら駄目なのか……。
 アイツら何食べて生きてんだ!?

 ブシュロンに聞いたら、保護団体の中でも過激派でしょっちゅうテロまがいのことをしてるらしい。
 こないだも肉屋が標的にされて、焼き討ちにあったな。
 店主が泣いていた。
 そもそもハントも解体した肉や毛皮が売れなければ、金は入らない。
 俺が代筆屋でバイトをしていたら、クソガキが冷やかしに来やがった。
 こんな時に限ってアーペルはいない。
 クソガキはお高くとまり、注文する。
「青髪、仕事よ。私の武勇伝を国元の家族に伝えるの。けど空っぽの頭で書けるかしら?」
 怒りを堪えた俺は黙って仕事をした。
 手紙のタイトルは遺書にした。
 内容はより過激なストーリーを綴った。
 クソガキは満足そうに帰って行った。
 これでクソガキの国元の家族も娘の蛮行に嘆くことだろう。

 それから二週間ほど経ち、ブシュロンから呼び出された。
 召集がかかったのは俺、ジラール、オルマ、クロエだった。
「遭難救助の依頼だ。色々ゴタついているから、お前達だけになる。場所はゴバ草原だ」
 クロエが胸を張る。
「ゴバ草原ならハンターの右に出る者はいないわね。誰が遭難してるの?」
 ブシュロンが渋い顔をして、小さな声で呟く。
「……イルカ騎士団だ……。何でも我々の嫌がらせをしようとしたら、迷子になったらしい……」
 俺は即座に背を向けた。
「帰る。ジラール鍛冶の続きをしよう」
 ブシュロンが立ち去ろうとする俺を全力で引き止める。
「止めるな、ブシュロン! あんなヤツら、ハゲタカの餌になればいい! 大自然の偉大さを思い知れ!」
「気持ちはわかる! けど市からの正式要請なんだ! アーペル達にも断られた、お前らだけなんだ!」
 残りの三人も難色を示す。
 ジラールも俺に同意見を言った。
「助けてやる義理はねぇな。むしろ、いなくなった方が都合がいいんじゃねぇか?」
 説得が困難と悟ったブシュロンは、観念したように説き伏せる。
「仕方あるまい、今度ハンター組合にシングルの称号を推薦してやる!」
 シングル、一つ星ハンター。
 この称号が得られれば単独の狩りが正式に認められ、自身のハンターチームも作れる。
 ウチのチームではアーペルがそうだ。
 ちなみにブシュロンは二つ星の称号を得ている。
 自由に狩りができるのは魅力的な提案だ。

 しかし、あのクソガキ達の救助をするのか……。

 俺を含む四人は渋々承諾した。

 夜のゴバ草原の先住民の跡地、そこでイルカ騎士団は窮地に追いやられていた。
 先住民が獣避けに作った細工を破壊し、ラプトルの幼獣と戯れていたところを親のラプトルに見つかった。
 ラプトルは大きな群れとなってイルカ騎士団を囲っていた。
 肉食竜の恐怖に団員が次々と逃げ出していた。
 小さな甲冑を着た少女、フィーネが死の恐怖に直面し、失禁していた。
 逃げ遅れた他の団員も恐怖に動けずにいた。

 ミュラー、ジラール、オルマ、クロエはその様子を樹の上で呆れるように眺めていた。
「ミュラー、どうする?」
「もう少しこの光景を眺めていたい、いい気味だ」
「けど早くしないと食べられちゃうよー」
「見つけるのが早すぎたわ……。あの金髪の女の子が食われた後だったら、良かったのにね……」

 四人の嘆息が聞こえたのか、四人に気づいたフィーネがミュラーに向かって叫ぶ。
「そんなところにいないで、さっさと助けなさいよ! ハンターなんでしょ!?」

 どの口でモノを言ってるのだと四人は痛感する。

 ミュラーが一応アドバイスをした。
「興奮状態の肉食竜の前で大声を出さん方がいい。刺激すると食われるぞ」
 ミュラーの言う通り、フィーネの怒声に反応したラプトルが、大きな顎でフィーネに襲いかかろうとした。
 けたたましい雄叫びを上げながら、ナイフのような牙がフィーネの頭を食いちぎろうとする。
 フィーネのまさに眼前、そこでラプトルは静止した。
 ミュラーの放った氷魔法で凍結したのだった。
 あまりの恐怖にフィーネは失神していた。
 ミュラーは深い溜息をついて、三人に声をかけた。
「……いい勉強になっただろう。やむを得ん、ラプトルを駆逐して、あの連中を助けるぞ……」

 ラプトルの大群など、この四人で掛かれば、退治は容易だった。
 クロエの槍から繰り出される斬撃の嵐。
 ジラールの光弾の乱れ撃ち。
 ミュラーの無詠唱魔法による爆炎。
 オルマは逃げ出そうとしたラプトル達を糸で細切れにした。
 
 用意していたニワトリの馬車の中に、フィーネを含む、イルカ騎士団達を叩き込んだ。
 ジラールがやりきれない気持ちでタバコを吸い出した。
 ミュラーに一服を誘う。
「コイツらの落としモノだ。北国産もなかなかいけるぞ」
 ミュラーがタバコを受け取り、火をつけ、深く吸い込む。
 そしてオルマにそのタバコを投げ渡し、吸うように催促する。
「やってらんないよねー。クロエもどう?」
 クロエは黙ってオルマからタバコを受け取り、不快な気持ちを紛らすように、吸い出した。
「コイツらのおかげで獲物が増えたわね……」

 四人の吐いた煙がゴバ草原の夜空に舞い上がり、星空を曇らせた。
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登場人物紹介

ミュラー=ルクルクト

性別 男

紛争国家群ロアの将軍アジムートの三男。

剣術と魔法を巧みに操る。

身長178センチ 体重63キロ

趣味 読書 遺跡巡り

武家の出自のため世間に疎い。本人は自覚してないがかなり空気が読めない天然で、結構差別的なところがある

オルマ

カジノ大国ベガス出身、獣族の漁師の家庭で生まれ育つ

性別 女

金属性の糸を巧みに操る

身長160センチ 体重★★ 胸は小さい

趣味 釣り

ちゃっかりした性格で機転もきく。横着者。ひょうひょうとした性格だが、判断力は高い

ジラール

性別 男

聖王国出身の傭兵であった。スラム育ちの孤児

古代の遺物、ハーミットの使い手

身長188センチ 75キロ

趣味 武器や防具の鍛冶やメンテナンス

性格は至って粗野、粗暴。下品である。乱暴な一面もあるが仲間想いで、困っている人は見捨てない面もある

クロエ

性別 女

カジノ大国、中部出身。オルマと同じく獣族だが一族でも高貴な身分の生まれである

長い槍を巧みに操る。

身長168センチ 体重★★ 胸は人並み

趣味 毒物の調合

物静かで温厚そうな見た目をしているが、性格は結構腹黒。華奢な身体をしているが抜群の身体能力を持っている。


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