第98話 情報戦
文字数 2,009文字
リアムはミュラー達を集め、今後の作戦方針を告げる。
「我々は国境前線に加勢しない」
リアムの言葉に一同は動揺を隠せなかった。
ジラールがリアムに反発する。
「なんでだよ! こっちは苦労して拠点まで作ったんだぜ!? こっちには数万以上の軍勢がいるんだ。味方を見捨てるのかよ!?」
リアムはジラールをギロリと睨み、話を続ける。
「そうだ。上層部は前回の会戦以上の兵を国境に集めている。しかし、ドラゴンやベヒーモスの群れが大挙している。ミュラー、戦の勝敗条件は知っているか?」
ミュラーは静かに答える。
「……士気と統率だな。どんなに寡兵でもこの二つがあれば大軍にだって負けない。逆に大軍でも敗色濃厚と兵が知れば、どうしても統率が乱れ、負け戦になる」
ミュラーの返答にリアムは頷き、説明を続ける。
「おそらく、上層部は末端の兵士にドラゴンの群れが襲ってくるとは伝えてないだろう。前衛が逃げ出すからな。だが実際実物を目の前にした場合、確実に前線は動揺する。ドラゴンや巨大な獣を目の前にして怖気付くのは無理もない。しかも自慢の魔法障壁もブレスの前では効果がない。前衛は崩壊し、統率の取れないトワレ連合軍は敗れる。確実にイゼル要塞とアスターテ要塞まで撤退する」
国境前線が破られる。
リアムから告げられた言葉にミュラー達はショックを受けた。
堪らずフェンディがリアムに問いただす。
「まさか十万以上の兵隊が全滅するの!?」
リアムは首を左右に振って答える。
「推測だが、全軍の2割以上はこの戦いの犠牲になるだろう。上層部もそこまで馬鹿じゃない。一方的に攻撃されて、すぐに会戦の不利を悟り、要塞に立て篭もるだろう。半数以上の兵は帰還できるだろう。後は戦死か逃散するか……。だがここからが僕達の戦いだ」
リアムは地図を見せて、概要を説明する。
「ヤツらがどこまで攻め込むつもりか、見当もつかない。だが確実に本国の首都トワレが真っ先に狙われる。トワレと前線を結ぶ北のトニール街道と南のボヘミア街道を利用するはずだ。だがそこの中間にはイゼル要塞とアスターテ要塞が存在する。その二つの要塞を攻略しなければ、首都に攻め込めない」
説明するリアムにオルマが疑問を口にする。
「あれ? 地図だとこの山脈抜けた方が早いよー?」
「……君はわざわざ道があるのに、崖が立ちはだかる山脈を登る気か? だがその盲点を突く。敵軍が要塞攻略を敢行しているタイミングで、この山から降りて、その背後を奇襲する。そのためにアジムートの軍勢を味方につけた」
リアムの提言に皆が心を躍らせていた。
だが空気の読めないミュラーは違った。
「北と南、両方の要塞を同時に攻められたら、どうするつもりだ? アジムートの軍勢は二つに分けられん。しかもただの奇襲攻撃でグラスランドの竜や巨獣の群れが壊滅するのか? こいつは最早人間相手の戦争じゃないだろう?」
ミュラーの異論に一同の空気は重くなる。
皆が肩をがくりと落とし、現在の戦況の悪さを実感しだした。
しかしリアムだけはニヤリと笑みを浮かべていた。
「諸君、我々の任務はなんだ? 工作部隊だろう。本領を発揮する時だ。奇襲に乗じてグラスランドの兵站部隊を壊滅させる。できればケルンの魔導士どもも蹴散らしたいが、それはアジムート将軍の役目だな。いくら巨大な竜も獣も飢えてしまえば怖くない」
ジラールがリアムに問いただす。
「けどよ、ミュラーの言う通り、要塞を同時に攻められたらどうするんだ?」
リアムが不適な笑みを浮かべ、袋から結晶を取り出す。
「君らはこの通信魔法を知ってると聞いていたが?」
リューの手土産にミュラーとジラール、オルマは、はっとした顔をする。
「これを駆使して、敵軍の動向を探る。二手に分かれた敵軍が全く同じタイミングで攻撃することはまず無い。逆に伝令を必要としない我々はこの山を自在に動いて敵の背後を突く。最初の君達の任務はこの結晶を持って偵察行動となる。情報戦を舐めるなよ、グラスランドの獣ども」
これがリアムの作戦であった。
そしてミュラー達の役割も決まった。
ミュラー達は結晶を受け取り、リアムに指示された場所へと駆け足で向かって行く。
ミュラー達の後ろ姿を見て、リアムは安堵する。
隊員の士気はあがったな。
ただ懸念は七大聖魔の存在だ。
ヤツらが戦場で暴れまわったら、僕のチンケな策なんて水の泡だ。
ミュラー達には、なんとしてもヤツらの情報を持ってきて貰いたい。
せめて能力の一端だけでも。
そうすれば次の戦局で対策が取れる。
リアムは黙っていた。
ミュラー達に下した任務が決死の行動であることを。
十日後、震えるオルマから前線の戦況が伝えられた。
十万を越えるトワレ連合軍勢がドラゴンと巨獣に蹂躙される光景を映像付きで知らされた。
皆が戦慄する中、ミュラーだけは違った。
これ、結構便利だな。
オルマ、もっと近くで映せ。
「我々は国境前線に加勢しない」
リアムの言葉に一同は動揺を隠せなかった。
ジラールがリアムに反発する。
「なんでだよ! こっちは苦労して拠点まで作ったんだぜ!? こっちには数万以上の軍勢がいるんだ。味方を見捨てるのかよ!?」
リアムはジラールをギロリと睨み、話を続ける。
「そうだ。上層部は前回の会戦以上の兵を国境に集めている。しかし、ドラゴンやベヒーモスの群れが大挙している。ミュラー、戦の勝敗条件は知っているか?」
ミュラーは静かに答える。
「……士気と統率だな。どんなに寡兵でもこの二つがあれば大軍にだって負けない。逆に大軍でも敗色濃厚と兵が知れば、どうしても統率が乱れ、負け戦になる」
ミュラーの返答にリアムは頷き、説明を続ける。
「おそらく、上層部は末端の兵士にドラゴンの群れが襲ってくるとは伝えてないだろう。前衛が逃げ出すからな。だが実際実物を目の前にした場合、確実に前線は動揺する。ドラゴンや巨大な獣を目の前にして怖気付くのは無理もない。しかも自慢の魔法障壁もブレスの前では効果がない。前衛は崩壊し、統率の取れないトワレ連合軍は敗れる。確実にイゼル要塞とアスターテ要塞まで撤退する」
国境前線が破られる。
リアムから告げられた言葉にミュラー達はショックを受けた。
堪らずフェンディがリアムに問いただす。
「まさか十万以上の兵隊が全滅するの!?」
リアムは首を左右に振って答える。
「推測だが、全軍の2割以上はこの戦いの犠牲になるだろう。上層部もそこまで馬鹿じゃない。一方的に攻撃されて、すぐに会戦の不利を悟り、要塞に立て篭もるだろう。半数以上の兵は帰還できるだろう。後は戦死か逃散するか……。だがここからが僕達の戦いだ」
リアムは地図を見せて、概要を説明する。
「ヤツらがどこまで攻め込むつもりか、見当もつかない。だが確実に本国の首都トワレが真っ先に狙われる。トワレと前線を結ぶ北のトニール街道と南のボヘミア街道を利用するはずだ。だがそこの中間にはイゼル要塞とアスターテ要塞が存在する。その二つの要塞を攻略しなければ、首都に攻め込めない」
説明するリアムにオルマが疑問を口にする。
「あれ? 地図だとこの山脈抜けた方が早いよー?」
「……君はわざわざ道があるのに、崖が立ちはだかる山脈を登る気か? だがその盲点を突く。敵軍が要塞攻略を敢行しているタイミングで、この山から降りて、その背後を奇襲する。そのためにアジムートの軍勢を味方につけた」
リアムの提言に皆が心を躍らせていた。
だが空気の読めないミュラーは違った。
「北と南、両方の要塞を同時に攻められたら、どうするつもりだ? アジムートの軍勢は二つに分けられん。しかもただの奇襲攻撃でグラスランドの竜や巨獣の群れが壊滅するのか? こいつは最早人間相手の戦争じゃないだろう?」
ミュラーの異論に一同の空気は重くなる。
皆が肩をがくりと落とし、現在の戦況の悪さを実感しだした。
しかしリアムだけはニヤリと笑みを浮かべていた。
「諸君、我々の任務はなんだ? 工作部隊だろう。本領を発揮する時だ。奇襲に乗じてグラスランドの兵站部隊を壊滅させる。できればケルンの魔導士どもも蹴散らしたいが、それはアジムート将軍の役目だな。いくら巨大な竜も獣も飢えてしまえば怖くない」
ジラールがリアムに問いただす。
「けどよ、ミュラーの言う通り、要塞を同時に攻められたらどうするんだ?」
リアムが不適な笑みを浮かべ、袋から結晶を取り出す。
「君らはこの通信魔法を知ってると聞いていたが?」
リューの手土産にミュラーとジラール、オルマは、はっとした顔をする。
「これを駆使して、敵軍の動向を探る。二手に分かれた敵軍が全く同じタイミングで攻撃することはまず無い。逆に伝令を必要としない我々はこの山を自在に動いて敵の背後を突く。最初の君達の任務はこの結晶を持って偵察行動となる。情報戦を舐めるなよ、グラスランドの獣ども」
これがリアムの作戦であった。
そしてミュラー達の役割も決まった。
ミュラー達は結晶を受け取り、リアムに指示された場所へと駆け足で向かって行く。
ミュラー達の後ろ姿を見て、リアムは安堵する。
隊員の士気はあがったな。
ただ懸念は七大聖魔の存在だ。
ヤツらが戦場で暴れまわったら、僕のチンケな策なんて水の泡だ。
ミュラー達には、なんとしてもヤツらの情報を持ってきて貰いたい。
せめて能力の一端だけでも。
そうすれば次の戦局で対策が取れる。
リアムは黙っていた。
ミュラー達に下した任務が決死の行動であることを。
十日後、震えるオルマから前線の戦況が伝えられた。
十万を越えるトワレ連合軍勢がドラゴンと巨獣に蹂躙される光景を映像付きで知らされた。
皆が戦慄する中、ミュラーだけは違った。
これ、結構便利だな。
オルマ、もっと近くで映せ。