第97話 築城
文字数 2,032文字
ミュラーがアジムートを連れて来るまでに、アルプ山脈の要塞化を進めなくてはならない。
ブシュロン達の元へやってきたリアムは次なる一手を打った。
ブシュロン達は勿論、雇った工夫達まで、山の穴掘りで疲弊している。
泥塗れのジラールは絶望していた。
少し山の中に地下道を作ればいいと思っていたのに、戻ってきたリアムから聞かされた。
「地下壕ではなく、要塞のような拠点を作れ、期日は数日だ。さもなければミュラーの命が危うい。もしかしたら我々も殺されるかもしれない」
ジラールは山脈に広がる森林を見渡し、途方に暮れる。
山道作るのだって無茶なのに、この山に要塞を造る!?
無理だ!
できっこねー!
堪らず大地にへたり込む。
自分の泥塗れの身体とマメだらけの手をじっと見る。
そういや風呂どころか、最近睡眠だってとってねー。
ミュラー、悪い。
もう限界だ。
ジラールの心が折れると、猛烈な疲労感と睡魔が襲いかかる。
ジラールはそのまま地面の上で気絶しそうになる。
するとオルマがジラールの口にアナコンダの精力剤が入った瓶をぶち込む。
「諦めたらダメだよー! ミュラーが死んじゃうかもしんないんだよー!?」
ジラールは口にねじ込まれた瓶の中身を残らず飲み干し、瓶をオルマに渡す。
「悪ぃ……。けど無理だろ……。できっこねーよ……」
ジラールの失意の顔を見たオルマにも不安が押し寄せる。
そんな時、懐かしい声が聞こえてくる。
「そんなところで寝ると風邪をひきますよ。どうしたんですか? 二人とも酷い顔だ。少し休んだらどうですか?」
なんと二人の前にリューが現れた。
それだけではない。
ドラゴも隣に並んでいた。
「待たせたな。手ぇ貸してやるぜ。行くぞおめぇら!」
ドラゴの背後からベガス中のマフィアが何千という気勢を上げていた。
ジラールは驚きを隠せない。
「どうしてお前らがいるんだ!?」
リューはにっこりと微笑む。
「ビジネスです。貴方の隊長が手配してくれたんですよ。安心して下さい。ドラゴさん達だけじゃない。サラブ中の職人を連れてきています。築城は任せて下さい。残念ながら、サラブは戦争に参加出来ませんが、これぐらいのお手伝いなら可能です」
リューの頼もしい言葉に諦めていたジラールとオルマは泣きそうになる。
そして大勢の人達に混じって、作業を再開する。
リューの姿を見たリアムは駆け寄る。
「リュー、えらく遅い援軍じゃないか」
「すいません。頼まれていたモノの手配に時間がかかってしまいまして。しかしこの山脈を要塞化するんですか。判断は良いですが、準備不足ですね」
リューの指摘にリアムは不敵な笑みを浮かべた。
「言ってくれるじゃないか。アレはいくつ用意できた?」
「全部で100個です。ただし条件は飲んで下さい」
「ああ! 戦争が終わったら必ず廃棄する。しかし、えらく出世したものだ。今は管領だって? 出世に興味がなさそうな事を言っていた癖に」
「ミュラーさんのせいですよ。私は余生を教壇に立って子供達を指導したかったんですよ」
「そうか、部下が迷惑をかけたな。さて僕らも頑張ろうじゃないか」
「肉体労働は久々です」
リアムとリューは笑い合いながら、スコップを手に取る。
頼もしい援軍がやってきたおかげでアルプ山脈の工事は進む。
リアムの思惑通り、天然の要害の砦が築き上げられていった。
流石にイゼル要塞のような豪華絢爛な拠点では無かったが、実利を重視した拠点が出来上がった。
山の地中に迷宮のようにはりめぐらされた地下道、その奥にある地下壕はまるで城の大広間のような広大さだ。
壁は全て石畳でできていた。
ミュラーがアジムートを案内すると、大きな歓喜の声を上げる。
「質実剛健じゃ! 見事なり! これは面白い戦ができそうじゃ! これぞ山城! 難攻不落じゃ!」
アジムートは上機嫌になり、数万の軍勢を引き連れて砦に入城する。
しかしミュラーの妹ゼニスは持ち前の勘の良さで兄に鋭い質問をする。
「兄上、湯の用意はできていますか?」
ミュラーはギクリとした顔をして、答える。
「……火山なのが幸いした。なんとか露天風呂なら用意はできている。……しばらく山の上を登ってくれ。アイツ、温泉好きだろ……」
顔を赤くしたゼニスがミュラーの首を絞める。
「兄上は昔から詰めが甘い!」
「すまん、すぐにヤツの寝室の近くに浴室を造らせる。それまで何とか誤魔化してくれ……。みんな頑張って作ったんだ……」
ミュラー達の兄妹喧嘩を見たジラール達は安堵と共に疲労でその場に倒れ込む。
昼夜休まずの突貫の築城を協力してくれたリュー達にリアムは礼を述べる。
「今回ばかりは助かった」
リューは疲労を顔に出さず、ミュラーを見て微笑む。
「いえいえ、これぐらいしか出来なくて申し訳ないです。……ミュラーさん。必ず生きて帰ってきて下さい」
黙ってリューやドラゴ達がその場から引き上げていくところを、ミュラーは感謝の眼差しで見つめていた。
ブシュロン達の元へやってきたリアムは次なる一手を打った。
ブシュロン達は勿論、雇った工夫達まで、山の穴掘りで疲弊している。
泥塗れのジラールは絶望していた。
少し山の中に地下道を作ればいいと思っていたのに、戻ってきたリアムから聞かされた。
「地下壕ではなく、要塞のような拠点を作れ、期日は数日だ。さもなければミュラーの命が危うい。もしかしたら我々も殺されるかもしれない」
ジラールは山脈に広がる森林を見渡し、途方に暮れる。
山道作るのだって無茶なのに、この山に要塞を造る!?
無理だ!
できっこねー!
堪らず大地にへたり込む。
自分の泥塗れの身体とマメだらけの手をじっと見る。
そういや風呂どころか、最近睡眠だってとってねー。
ミュラー、悪い。
もう限界だ。
ジラールの心が折れると、猛烈な疲労感と睡魔が襲いかかる。
ジラールはそのまま地面の上で気絶しそうになる。
するとオルマがジラールの口にアナコンダの精力剤が入った瓶をぶち込む。
「諦めたらダメだよー! ミュラーが死んじゃうかもしんないんだよー!?」
ジラールは口にねじ込まれた瓶の中身を残らず飲み干し、瓶をオルマに渡す。
「悪ぃ……。けど無理だろ……。できっこねーよ……」
ジラールの失意の顔を見たオルマにも不安が押し寄せる。
そんな時、懐かしい声が聞こえてくる。
「そんなところで寝ると風邪をひきますよ。どうしたんですか? 二人とも酷い顔だ。少し休んだらどうですか?」
なんと二人の前にリューが現れた。
それだけではない。
ドラゴも隣に並んでいた。
「待たせたな。手ぇ貸してやるぜ。行くぞおめぇら!」
ドラゴの背後からベガス中のマフィアが何千という気勢を上げていた。
ジラールは驚きを隠せない。
「どうしてお前らがいるんだ!?」
リューはにっこりと微笑む。
「ビジネスです。貴方の隊長が手配してくれたんですよ。安心して下さい。ドラゴさん達だけじゃない。サラブ中の職人を連れてきています。築城は任せて下さい。残念ながら、サラブは戦争に参加出来ませんが、これぐらいのお手伝いなら可能です」
リューの頼もしい言葉に諦めていたジラールとオルマは泣きそうになる。
そして大勢の人達に混じって、作業を再開する。
リューの姿を見たリアムは駆け寄る。
「リュー、えらく遅い援軍じゃないか」
「すいません。頼まれていたモノの手配に時間がかかってしまいまして。しかしこの山脈を要塞化するんですか。判断は良いですが、準備不足ですね」
リューの指摘にリアムは不敵な笑みを浮かべた。
「言ってくれるじゃないか。アレはいくつ用意できた?」
「全部で100個です。ただし条件は飲んで下さい」
「ああ! 戦争が終わったら必ず廃棄する。しかし、えらく出世したものだ。今は管領だって? 出世に興味がなさそうな事を言っていた癖に」
「ミュラーさんのせいですよ。私は余生を教壇に立って子供達を指導したかったんですよ」
「そうか、部下が迷惑をかけたな。さて僕らも頑張ろうじゃないか」
「肉体労働は久々です」
リアムとリューは笑い合いながら、スコップを手に取る。
頼もしい援軍がやってきたおかげでアルプ山脈の工事は進む。
リアムの思惑通り、天然の要害の砦が築き上げられていった。
流石にイゼル要塞のような豪華絢爛な拠点では無かったが、実利を重視した拠点が出来上がった。
山の地中に迷宮のようにはりめぐらされた地下道、その奥にある地下壕はまるで城の大広間のような広大さだ。
壁は全て石畳でできていた。
ミュラーがアジムートを案内すると、大きな歓喜の声を上げる。
「質実剛健じゃ! 見事なり! これは面白い戦ができそうじゃ! これぞ山城! 難攻不落じゃ!」
アジムートは上機嫌になり、数万の軍勢を引き連れて砦に入城する。
しかしミュラーの妹ゼニスは持ち前の勘の良さで兄に鋭い質問をする。
「兄上、湯の用意はできていますか?」
ミュラーはギクリとした顔をして、答える。
「……火山なのが幸いした。なんとか露天風呂なら用意はできている。……しばらく山の上を登ってくれ。アイツ、温泉好きだろ……」
顔を赤くしたゼニスがミュラーの首を絞める。
「兄上は昔から詰めが甘い!」
「すまん、すぐにヤツの寝室の近くに浴室を造らせる。それまで何とか誤魔化してくれ……。みんな頑張って作ったんだ……」
ミュラー達の兄妹喧嘩を見たジラール達は安堵と共に疲労でその場に倒れ込む。
昼夜休まずの突貫の築城を協力してくれたリュー達にリアムは礼を述べる。
「今回ばかりは助かった」
リューは疲労を顔に出さず、ミュラーを見て微笑む。
「いえいえ、これぐらいしか出来なくて申し訳ないです。……ミュラーさん。必ず生きて帰ってきて下さい」
黙ってリューやドラゴ達がその場から引き上げていくところを、ミュラーは感謝の眼差しで見つめていた。