第105話 援軍

文字数 2,302文字

 グラスランド軍はアルプ山脈の中腹まで進軍していた。

 幾重にも張り巡らされた罠を突破し、海のような森林を踏破した。
 バリオスが山を消し飛ばす魔法攻撃を放って以来、山に籠る兵の抵抗と反撃が少ない。
 以前のような嫌がらせのような奇襲攻撃も受けなくなった。
 グラスランド軍の先発隊はこのまま山頂まで侵略し、山狩を敢行しようと、険しい山路を登ろうとしていた。
 眼前には用意されたかのような一本の山道。
 勿論罠が設置されているだろう。
 しかしこちらには幾千もの兵が集い、使役したケルベロスやコカトリスもいるのだ。
 この忌々しい山を蹂躙してやる気持ちで一杯だった。
 急勾配の山道をじわりじわりと侵攻していく。

 すると眼前に二人の女の影が立ちはだかった。
 一人は槍を、もう一人は大剣を携えていた。
 山道を登るグラスランドの兵達を見下ろし、激しい眼光を放っていた。
 鈴の音が鳴ったような甲高い声が威勢よく響きわたる。
「こっから先へは行かせないわ!」
 その宣告と共に、巨大な丸太の山が山道を流れるように転がり始めた。
 突然の奇襲に騒つくグラスランドの兵達だったが、これまで幾つもの罠を突破してきたのだ。 
 今更丸太如きで逃げ出す者なぞいない。
 グラスランドの兵達は果敢にもその山道を登ることを敢行した。
 その上にいる二人の女の影を目指して。
 その山道を数多の兵が殺到した。
 途端、足元の大地が揺れる。
 その振動と共に大地が崩れていく。
 山道が崩壊していった。
 それはミュラーが張った罠であった。
 一定の重量が掛かると道が崩落し、底にあった竹槍に串刺しになるえげつない仕掛け。
 ミュラーの非人道的な罠にグラスランドの兵達はまんまとその餌食にされた。
 罠から生き延びたグラスランド兵達が丘の上を見上げると二人の女の影はすでに無かった。
 振り返ると、栗色と黒色の長髪を靡かせた二人の美女がケルベロスやコカトリスを率い大軍をその容姿に不相応な槍と大剣で蹂躙し、血の雨を降らせていたのだ。
 虎の子の巨獣達がその大剣で最も容易く両断されていく。
 幾千もの大軍がその槍で薙ぎ倒され跳梁されていく。
 気付けば屍の山が築かれつつあった。
 その嵐のような猛攻の前に、山を侵攻していたグラスランド軍は堪らず退却を余儀なくされた。

 返り血まみれのクロエとフェンディは通信魔法を起動させた。

『なんとか敵の進軍は食い止めたわ。出番よ、ブシュロン』

 麓には数万を超えるグラスランド軍が布陣していた。
 ベヒーモスやミノタウロスの大軍も蠢いていた。
 上空にはレッドドラゴンが群れをなしていた。
 グラスランド軍の指揮官は先遣した部隊が山の中腹まで侵攻した報告を受け、レッドドラゴンによる空襲を敢行するように伝令を走らせた。
 この場にいるグラスランド軍がこの厄介な山がこれで攻略できると確信していた。

 山のどこかに兵の駐屯地があるはずだ。
 バリオスが暴れたおかげで、この山は今、要塞としての機能を失っている。
 攻めるなら今だ。

 そう思ってた矢先、突如レッドドラゴンの巨大な身体が炎に包まれた。
 炎に悶えながら、レッドドラゴンは地上にいる兵士を巻き添えに大地に墜落する。
 兵団が響めく中、山から巨大な炎の火柱が次々にレッドドラゴンの群れに目掛けて放たれていく。  
 大地に何頭ものレッドドラゴンが激しい炎に焼かれ倒れ落下する。
 何人もの兵士達がその巨体に押し潰された。
 それは山に篭っていた兵団に魔法師団が健在であるという証拠であった。
 布陣していたグラスランド軍は狼狽しながらも、敵の指揮官は冷静に対処し、伝令にこちらの魔法兵団に魔法障壁を展開するように指令を出す。

 グラスランド軍が魔法障壁を展開している状況を見て、魔力が尽き、満身創痍のブシュロンは弱々しい声で結晶で通信を始めた。

『今だ、仕掛けろ』

グラスランド軍の後背に突如、アジムート軍が大挙して突撃を敢行する。
 アジムートの魔法兵団が突撃と同時にグラスランド軍の魔法兵団に大規模攻撃魔法を放ち、壊滅させた。
 動揺するグラスランドの数万を超える大軍勢に数千のアジムート軍が猛攻を続ける。
 紡錘陣形が車懸かりのように激戦する部隊を循環するかのように布陣であった。
 敵軍に包囲されながらも猛烈な勢いで攻め寄せ、グラスランドの強固な陣形はなすすべなく、脆くもその布陣を二つに割ってしまった。
 アジムートが絶叫する。
「追い首無用! 我が望み、将の首のみ!!」
 
 しかし大軍の前にアジムートの軍は余りに寡兵であった。
 しかもベヒーモスなどの巨獣が相手では流石のアジムート軍も苦戦を強いられた。
 これでは相手の後退を許し、再び再編された軍勢に飲み込まれてしまう。
 アジムートの傍らにいるゼニスは一時撤退を具申しようとした時、その場から撤収しようとしていたグラスランドの大軍が浮き足だっていることに気付いた。

 この戦場に苛烈な勢いで雪崩れこむ軍勢が現れたのである。

 敵の援軍かとゼニスは警戒したが、聞き慣れた声が戦場に響き渡る。
「我はミュラー! ミュラー=ルクルクト! 蒼き狼の二つ名の前に戦慄せよ! 兵よ! 喰らい尽くせ!!」

 数万の援軍と共に現れたミュラーの姿に、味方は安堵し、士気を上げ、苛烈なまでの包囲殲滅戦が起こった。

 グラスランド軍の指揮官の首級を掲げて、野獣のような咆哮で勝鬨を上げるミュラーと、その周りにいるアジムートの兵達の勝利に躍動する姿は凄まじかった。

 その場にいたオルマ、クロエ、フェンディ、ブシュロン、デルヴォーは援軍と仲間の帰還に安堵しながらも、戦慄していた。

 コイツらやっぱり蛮族だ。
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登場人物紹介

ミュラー=ルクルクト

性別 男

紛争国家群ロアの将軍アジムートの三男。

剣術と魔法を巧みに操る。

身長178センチ 体重63キロ

趣味 読書 遺跡巡り

武家の出自のため世間に疎い。本人は自覚してないがかなり空気が読めない天然で、結構差別的なところがある

オルマ

カジノ大国ベガス出身、獣族の漁師の家庭で生まれ育つ

性別 女

金属性の糸を巧みに操る

身長160センチ 体重★★ 胸は小さい

趣味 釣り

ちゃっかりした性格で機転もきく。横着者。ひょうひょうとした性格だが、判断力は高い

ジラール

性別 男

聖王国出身の傭兵であった。スラム育ちの孤児

古代の遺物、ハーミットの使い手

身長188センチ 75キロ

趣味 武器や防具の鍛冶やメンテナンス

性格は至って粗野、粗暴。下品である。乱暴な一面もあるが仲間想いで、困っている人は見捨てない面もある

クロエ

性別 女

カジノ大国、中部出身。オルマと同じく獣族だが一族でも高貴な身分の生まれである

長い槍を巧みに操る。

身長168センチ 体重★★ 胸は人並み

趣味 毒物の調合

物静かで温厚そうな見た目をしているが、性格は結構腹黒。華奢な身体をしているが抜群の身体能力を持っている。


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