第63話 闇を砕く

文字数 2,171文字

 村人達の波を掻き分け、争いが起こってる中も構わず、ミュラーは一直線にロゼの元へと疾走した。
 あまりの動きの素早さにジラールも、オルマも、リューも、エルドラも反応出来なかった。
 誰もがこれが罠とわかっていても、あまりの衝撃の光景に動けずにいた。
 気を取り直したオルマが呼びかけるよりも先に、とっさに糸でミュラーを引き戻そうとする。

 しかしそこで異変が起きた。
 村人の一人が破裂した。爆炎を吐きながら。
 そして次々に、村人は肉片を巻き散らし、炎を吹き上げる。
 争っていた村人全員が爆散し、周囲は地獄の業火が舞い起こる。
 そしてその爆発の中心にミュラーはいた。
 ミュラーの身は爆炎に巻き込まれていた。
 その爆発で吹き飛んだ身体は焼き焦げながら、ロゼの足元に転がる。
 惨めに倒れるミュラーをロゼは歪んだ笑みで見下ろす。
「ショーはこれからですよ」
 ロゼが指をパチンと鳴らすと、巨大な像が現れた。
 手の平にロゼを乗せて、ロゼは凄惨な村の光景と呆気に取られていたエルドラたちを見下ろす。

 肉が焦げる悪臭の中、リューは冷静に判断し、少年兵達を周囲に展開する。
 吐き気をもよおす、悪夢のような光景を目にしても、頭を動かす。

 これで部隊の配置はできる。
 アイツを倒せば全てが終わるんだ。

 リューが少年兵達に攻撃魔法発動の指示を出そうとした時、空中からリストが現れた。
 例の無表情な顔、そして彼女は以前、ジラールによって損壊された腕が再生されていた。
 その腕は鱗に覆われていた。
 そして鱗がびっしり生えた腕を振り上げると、地面が泥のような闇に沈む。

 ロゼを囲んでいた少年兵達はもちろん、リュー達も闇の沼に飲み込まれる。

 そしてその闇から死骸となった村人達が密集してその形を形成していく、死体の群れが蠢き、それが巨大な骸骨となっていった。

 悪魔のような所業であった。そこに人の心はなかった。
 全員がその衝撃的な光景に驚き隠せなかった。

 しかし三匹の狼は違った。
 その所業に怒りを覚えた。

 闇で足元の自由が効かないオルマは怪我で動けずいたミュラーを糸で絡め取り、闇の中から引きずりだす。
 そしてジラールは躊躇なくハーミットの引き金を引く。
 真正面の骸骨に向かってではなく、その足元に向かって。
 光弾が泥のような闇を散らした。
 ジラールが作った足場でオルマは駆け回り、糸で闇に飲まれた全員を救い出す。
 そしてリューに呼びかけた。
「今だよ!」

 助けられたリューが少年兵達を合図をすると、無数の光の矢が異形の骸骨に放たれる。
 閃光が集まり、炸裂した。
 しかしリューは続けて合図をする。
 今度は氷弾が束となって降り注ぐ。
 無数の氷の刃が骸骨の全身を貫く。
 すかさずジラールが空を舞い、その巨大な骸骨な頭を狙って、凄まじい光弾を撃ち放った。
 その光に骸骨の頭部は吹き飛んだ。
 しかしリストは笑みを続けながら再び腕をかざす。
 するとリストの前に巨大な蛇が現れ、大口を開けて、空中にいるジラールを飲み込もうとした。
 しかしジラールは動じなかった。
 構わずさらに引き金を引く。

 連射したのだ。

 集束されたハーミットは巨大か光の弾丸を放ち、蛇の頭を粉粉にする。
 舌打ちしたリストが再び手をかざそうとするが、それは出来なかった。
 リストの両の腕はすでになかったのだ。
 オルマが糸で切り裂いていた。
 無防備になったリストの身体を少年兵達の攻撃魔法が容赦なく叩きこまれた。
 宙にいたリストは地面へと崩れ落ちる。
 誰もが彼女の死を確信していたが、リストは倒れ伏しながらも薄ら笑いを浮かべていた。

『……空間錬成』

 すると周囲は闇の結界に包まれた。
 その闇から骸の骨が無数の刃となってジラールとオルマに襲いかかる。
 二人は再び闇に飲まれて身動きを封じられていた。
 骨の刃が束となり、二人を切り刻む。
 ジラールとオルマの身体には骨の刃が突き刺さっていた。
 力なく二人は崩れ落ちる。
 その様を見た時、リストは勝利を確信した。
 しかし彼女は忘れていた。
 ミュラーの存在を。
 ミュラーは闇の結界の境界に立ち、蒼い光を放っていた。

 ミュラーはブシュロンから聞かされていた。
 空間錬成の弱点を。
 空間錬成は結界魔法で構築されている。
 結界内では猛威の魔力を放つが、結界が耐えられる範囲に限ることを。
 攻略法は結界を崩すこと。
 術者が構築した結界より巨大な魔力を撃ち込めば、空間錬成は瓦解することを。

 今ミュラーは全身全霊の魔力を込めていた。

 アーペルから結界魔法については聞かされていた。
 結界には属性があること。
 その結界の不利属性には脆弱なことを。

 ミュラーは眩く輝く光の刃を具現化させ、リストが放った結界を切り裂いた。

 ミュラー放った光の斬撃を前にリストの空間錬成は崩れ、闇が消失する。
 リストは眼を疑った。
 自分の空間錬成が破られることに衝撃と絶望が走る。
 魔力が尽き、腕も失った、足の自由はオルマの糸で縛られていた。
 リストに勝機はなかった。
 リストの額にはジラールのハーミットが突きつけられていた。
 そして忌々しく告げる。

「これが三匹の餓狼の力だ……」

 リストは額に風穴を開けられ、崩れ落ちた。

 ミュラーはロゼに剣を突き出して、呟く。

「次は貴様だ」

 それにロゼは不気味な笑みを浮かび返していた。
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登場人物紹介

ミュラー=ルクルクト

性別 男

紛争国家群ロアの将軍アジムートの三男。

剣術と魔法を巧みに操る。

身長178センチ 体重63キロ

趣味 読書 遺跡巡り

武家の出自のため世間に疎い。本人は自覚してないがかなり空気が読めない天然で、結構差別的なところがある

オルマ

カジノ大国ベガス出身、獣族の漁師の家庭で生まれ育つ

性別 女

金属性の糸を巧みに操る

身長160センチ 体重★★ 胸は小さい

趣味 釣り

ちゃっかりした性格で機転もきく。横着者。ひょうひょうとした性格だが、判断力は高い

ジラール

性別 男

聖王国出身の傭兵であった。スラム育ちの孤児

古代の遺物、ハーミットの使い手

身長188センチ 75キロ

趣味 武器や防具の鍛冶やメンテナンス

性格は至って粗野、粗暴。下品である。乱暴な一面もあるが仲間想いで、困っている人は見捨てない面もある

クロエ

性別 女

カジノ大国、中部出身。オルマと同じく獣族だが一族でも高貴な身分の生まれである

長い槍を巧みに操る。

身長168センチ 体重★★ 胸は人並み

趣味 毒物の調合

物静かで温厚そうな見た目をしているが、性格は結構腹黒。華奢な身体をしているが抜群の身体能力を持っている。


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