第107話 自然の脅威
文字数 1,992文字
今回の決戦でミュラー達は束の間の休息を得ることができた。
軍備の立て直し、破壊されたアルプ山脈地下道の再建、負傷者の治療には充分な猶予が生まれた。
怪我をしたジラールやアーペルも完治した。
アルプ山脈だけではない。絶え間ない波状攻撃で傷んだ南北の要塞の再建に、兵員の補充も充分に行えた。
だがグラスランド連盟は諦めていない。それを証拠に国境沿いにはまだ大勢のグラスランドの兵が張り付いている。
ただ攻めて来ない。
先の戦いの損害もあるが、トワレ連合に対する攻勢の決め手が欠けていたのだ。
予想を超えるトワレの防衛ライン。
竜や巨獣の群れをもってしても破れない、その堅牢さを前にグラスランド軍はただ歯軋りをしていた。
もっと巨大な兵力が必要だと、国力を総動員して、来るべく大攻勢に備えていた。
トワレ連合もグラスランド連盟も、当初の戦争目的を失念していた。
会戦に勝利し、有利な和睦条約を結ぶ。
そんな甘い条件でこの戦争を終わらす訳にはいかなくなった。
この戦いは国家の存亡を賭けた総力戦なのだ。
互いの国が戦争の認識を改めていた。
トワレ本国の丞相テトは祖国の情勢を悲観的に見ていた。
グラスランドには七大聖魔がいる。
しかしこちらには今対抗できる存在はまだいない。
リアムには悪いが、バリオスの封印は長くは持たないだろう。
バリオスが復活すれば七大聖魔は必ず動くだろう。
そうなれば首都は灰燼と化す。
早く南のトゥールの疎開とその防衛ラインの構築、そして盤上の理を覆す秘策。
急がねばならない。
自身の占星術が未だに不吉な光を放っている間は、この頭の中にある、ありとあらゆる策をもって事態に当たらなければならない。
その不穏な占星術の占いは、ミュラー達の運命を左右するものであった。
緊張状態の両国の睨み合いが続いて、三カ月、突如としてそれは起こった。
大地が揺れた。
それは激震であった。
それは最初は強い風が吹いたかと錯覚させた。
しかし大地の底から突き上がるような激しい上下の揺れの前に、その場にいる者は逃げることも、立つことさえ許されなかった。女、子供は投げ出されるほどの凄まじさであった。
空前絶後の大地震。
それがトワレの国境沿いで起きた。
それは神の定めた運命か、自然の摂理か、悪魔の仕業かわからない。
天変地異の前に人は無力であった。
多くの人間が倒れた家屋の下敷きになった。
崩れた建物の瓦礫の中に埋もれた。
トワレを支える南北の要塞も崩壊した。
ミュラー達がいるアルプ山脈の砦は崩落した。
懸命に築き上げた地下道も崩れ落ちた。
たまたま地上にいて、無傷だったミュラー達は地面の揺れがおさまると、すぐに被災者の救護と捜索にあたろうとした。
しかし、それは許されなかった。
大地震で動揺するトワレ軍にグラスランドのかつてない規模の大軍勢が再び地上を揺さぶらんばかりに攻め寄せてきた。
南北の要塞は機能せず、そこにいた兵士達は抵抗も虚しく蹂躙された。
ミュラー達がいる拠点にも当然、大攻勢が仕掛けられた。
しかし、地中に要塞を構えたことが仇となり、大多数の兵が地中に埋まり、混乱状態のアジムート軍には最早戦闘行為事態が困難であった。
地中に埋まる人々を見て、ミュラーはグラスランド軍に救いの手を求めたい気持ちで一杯だった。
だが、ミュラーは走った。
ジラールを、オルマを、クロエを、フェンディを、アーペルを、デルヴォーを、ブシュロンを、アジムートを、ゼニスを。
戦火に巻き込まれる多くの命を救いながら、山の脱出路へ運んでいった。
持てる力を全てを投げうって。
ミュラーが戦意喪失して山から逃れるように、すでにアルプ山脈でグラスランド軍に抵抗する者はいなかった。
屈強な兵士達はただ逃げ出すことしかできなかった。
今まで幾度となく敵を退けた天然の要塞の姿はなかった。
アルプ山脈はグラスランドの大軍勢に侵略を許していった。
麓の安全地帯に逃げ込んだミュラー達はなす術なく呆然と蹂躙されていく山々を眺め、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
すると再び大地に激震が走る。
左右に激しく揺られるミュラー達は見た。
アルプ山脈の頂上の火山が噴火する現象を。
マグマが流れ、火の海と化し、深緑な山々が朱色に染まる。
アルプ山脈を侵略していたグラスランド軍は燃える溶岩に飲み込まれていく。
大切な砦を犯されたリアムの怒りか、それとも用意周到な小隊長の最後の足掻きか、ミュラー達はわからない。
ただミュラー達は無力にも立ち尽くしていた。
噴火する山の轟音が響き渡る。
ミュラーにはリアムの怒声にも聞こえた。
アジムートは無言で敗残兵をまとめ上げ、その場から撤退する。
ミュラー達も無言でそれに付き従う。
大自然の前に人の力など無力なのだ。
ミュラーは自然の恐ろしさを噛み締めた。
軍備の立て直し、破壊されたアルプ山脈地下道の再建、負傷者の治療には充分な猶予が生まれた。
怪我をしたジラールやアーペルも完治した。
アルプ山脈だけではない。絶え間ない波状攻撃で傷んだ南北の要塞の再建に、兵員の補充も充分に行えた。
だがグラスランド連盟は諦めていない。それを証拠に国境沿いにはまだ大勢のグラスランドの兵が張り付いている。
ただ攻めて来ない。
先の戦いの損害もあるが、トワレ連合に対する攻勢の決め手が欠けていたのだ。
予想を超えるトワレの防衛ライン。
竜や巨獣の群れをもってしても破れない、その堅牢さを前にグラスランド軍はただ歯軋りをしていた。
もっと巨大な兵力が必要だと、国力を総動員して、来るべく大攻勢に備えていた。
トワレ連合もグラスランド連盟も、当初の戦争目的を失念していた。
会戦に勝利し、有利な和睦条約を結ぶ。
そんな甘い条件でこの戦争を終わらす訳にはいかなくなった。
この戦いは国家の存亡を賭けた総力戦なのだ。
互いの国が戦争の認識を改めていた。
トワレ本国の丞相テトは祖国の情勢を悲観的に見ていた。
グラスランドには七大聖魔がいる。
しかしこちらには今対抗できる存在はまだいない。
リアムには悪いが、バリオスの封印は長くは持たないだろう。
バリオスが復活すれば七大聖魔は必ず動くだろう。
そうなれば首都は灰燼と化す。
早く南のトゥールの疎開とその防衛ラインの構築、そして盤上の理を覆す秘策。
急がねばならない。
自身の占星術が未だに不吉な光を放っている間は、この頭の中にある、ありとあらゆる策をもって事態に当たらなければならない。
その不穏な占星術の占いは、ミュラー達の運命を左右するものであった。
緊張状態の両国の睨み合いが続いて、三カ月、突如としてそれは起こった。
大地が揺れた。
それは激震であった。
それは最初は強い風が吹いたかと錯覚させた。
しかし大地の底から突き上がるような激しい上下の揺れの前に、その場にいる者は逃げることも、立つことさえ許されなかった。女、子供は投げ出されるほどの凄まじさであった。
空前絶後の大地震。
それがトワレの国境沿いで起きた。
それは神の定めた運命か、自然の摂理か、悪魔の仕業かわからない。
天変地異の前に人は無力であった。
多くの人間が倒れた家屋の下敷きになった。
崩れた建物の瓦礫の中に埋もれた。
トワレを支える南北の要塞も崩壊した。
ミュラー達がいるアルプ山脈の砦は崩落した。
懸命に築き上げた地下道も崩れ落ちた。
たまたま地上にいて、無傷だったミュラー達は地面の揺れがおさまると、すぐに被災者の救護と捜索にあたろうとした。
しかし、それは許されなかった。
大地震で動揺するトワレ軍にグラスランドのかつてない規模の大軍勢が再び地上を揺さぶらんばかりに攻め寄せてきた。
南北の要塞は機能せず、そこにいた兵士達は抵抗も虚しく蹂躙された。
ミュラー達がいる拠点にも当然、大攻勢が仕掛けられた。
しかし、地中に要塞を構えたことが仇となり、大多数の兵が地中に埋まり、混乱状態のアジムート軍には最早戦闘行為事態が困難であった。
地中に埋まる人々を見て、ミュラーはグラスランド軍に救いの手を求めたい気持ちで一杯だった。
だが、ミュラーは走った。
ジラールを、オルマを、クロエを、フェンディを、アーペルを、デルヴォーを、ブシュロンを、アジムートを、ゼニスを。
戦火に巻き込まれる多くの命を救いながら、山の脱出路へ運んでいった。
持てる力を全てを投げうって。
ミュラーが戦意喪失して山から逃れるように、すでにアルプ山脈でグラスランド軍に抵抗する者はいなかった。
屈強な兵士達はただ逃げ出すことしかできなかった。
今まで幾度となく敵を退けた天然の要塞の姿はなかった。
アルプ山脈はグラスランドの大軍勢に侵略を許していった。
麓の安全地帯に逃げ込んだミュラー達はなす術なく呆然と蹂躙されていく山々を眺め、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
すると再び大地に激震が走る。
左右に激しく揺られるミュラー達は見た。
アルプ山脈の頂上の火山が噴火する現象を。
マグマが流れ、火の海と化し、深緑な山々が朱色に染まる。
アルプ山脈を侵略していたグラスランド軍は燃える溶岩に飲み込まれていく。
大切な砦を犯されたリアムの怒りか、それとも用意周到な小隊長の最後の足掻きか、ミュラー達はわからない。
ただミュラー達は無力にも立ち尽くしていた。
噴火する山の轟音が響き渡る。
ミュラーにはリアムの怒声にも聞こえた。
アジムートは無言で敗残兵をまとめ上げ、その場から撤退する。
ミュラー達も無言でそれに付き従う。
大自然の前に人の力など無力なのだ。
ミュラーは自然の恐ろしさを噛み締めた。