第114話 カイン
文字数 1,993文字
カイン、人は彼を創世の魔術士と呼ぶ。
魔術という、無詠唱魔法を駆使した戦闘技術を編み出し、今世に広めている。
さらに彼は空間錬成という古代魔法を現代の人類の魔法史に蘇らせた。
この二つの功績により、賢者の称号を得ている。
また先の戦争でトワレの危機を救った救国の英雄、十三星雄の一人に名を連ねている現代の大英雄だ。
そんな偉大な存在にミュラーは以前ニワトリの興奮剤入りの蒸留酒を飲ませた。
しかもこの時カインはナンパをしていた。
その邪魔をされたことをカインは未だに根に持っていた。
強さを切望していたミュラーは大戦の英雄から弟子入りの誘いを受けた時に瞳を輝かせたが、カインは修行過程でこのミュラーという男を徹底的に虐め抜くと企んでいた。
ミュラーはカインの本拠である魔術の聖地、ケルンへと旅立った。
修行の期間は長くなる。
その間ルカをどうしようかミュラーは迷ったが、カインは同伴を許可した。
クロエとオルマはベガスに帰還するため、ミュラーは二人と別れた。
クロエもオルマも伝説の賢者の修行に興味があったが、魔法が使えない二人はカインの目に叶わなかった。
ミュラーは二人に再会を誓い、力への道に求道していくことになった。
ケルンの聖地ベナレスへとミュラーは向かった。
旅の道中、馬車の中でカインはミュラーを品定めするように観察し、質問をした。
「テトから聞いた話しだと火、水、地、雷、この四系統の魔法を全て無詠唱で使えるらしいな」
「ああ」
「敬語は使えないのか。まぁいい。興味深い。じゃあ得意魔法はなんだ?」
「特にないな。状況によって使いわける」
「ふむ、ますます面白い奴だ。無詠唱は誰に習った?」
「気付いたら使えてた。ブシュロンが無詠唱で魔法を放ってたから、見て覚えただけだ」
「こいつは傑作だ。誰も己の術式を魂に刻むという困難な技術を、見て覚えたか。しかし空間錬成は取得できなかったと」
「ああ、結界術が習得途中だからな」
ミュラーの答えに、カインは愉快そうに笑う。
「ははは! 違う、違う。結界術式がどうのこうの問題じゃない。独学でよくもまぁこの境地に至ったもんだ。お前は勘違いしてるんだよ」
カインの痛快な笑いに不愉快さを覚えたミュラーは問いただす。
「何がおかしい。勘違いだと」
「すまん、すまん。気を悪くしないでくれ。大陸の大半の魔法士が下らない現代魔法学で習った固定観念の塊の術者の癖に、それを無詠唱で使いこなすお前はある意味天才だよ」
「……馬鹿にしているのか?」
「一つ答えを教えてやる。お前は自分の魔法術式を全く理解していない。ブシュロンを知っているな? あいつは自分の魂が熱い男だったから、炎熱系の魔法が使用できたんだ。しかしあいつはお前のように氷柱は生成できない。これはな、原則なんだよ。人が習得できる魔法は、人の魂の色によって決まっているんだ。だからブシュロンは氷雪系の魔法は使えない。死ぬほど修行すれば、氷の一欠片ぐらいは生成できるだろうが非効率だ」
「何が言いたい」
「お前の課題、自分の術式を見つけろ。まぁ覚えることは山ほどあるが、魔法学を根本的に復習することから始める必要があるな。あーそれと、懐にしまってる剣は捨ててしまえ。体術の修行で一番要らないものだ。洗練された武術の前に武器なんぞ役に立たん」
「俺に剣を捨てろというのか?」
「そうだ。お前は魔術士になるんだからな」
堂々と告げるカインにミュラーは思わず顔を顰める。するとカインはミュラーに一振りの太刀を手渡す。
「遠慮はいらん、斬ってみろ」
ミュラーは殺すつもりで剣を振ろうとした。疾風のような斬撃。しかしそれはカインには届かなかった。
ミュラーの剣が見えない壁にでもぶつかったかのように制止する。
カインは指をくるりと回すと、呆気なく剣はミュラーの手から離れる。
ミュラーから剣を奪ったカインは剣の腹を指先で突くと、剣は粉々に砕ける。
「ミュラー、これは魔法じゃない。単純な気 の操作だ。だが洗練された気 は、どんな大業物よりも鋭く、頑強なんだ。それにお前が剣を振ろうとした瞬間の無駄な動きの間に、どれほどの隙ができたと思っている?」
カインはミュラーの財布や隠し持っていた短刀を見せびらかす。
それを見てミュラーは力の次元の違いを思い知る。
ミュラーはジラールの遺品である剣を渋々カインに手渡す。
「理解が早いのはお前の長所だな。さて、馬車で大地を眺めるのも飽きた。そろそろ屋敷に戻るか」
カインが指をパチンと鳴らすと空間が歪んだ。
それまで草原が生い茂った大地が、景色が変わる。
いつの間にか吹雪が吹き荒れる雪原が現れた。
その雪景色の先に、空まで届くような塔がそびえ立つ。
呆気に取られたミュラーとルカにカインは薄く微笑む。
「ようこそ、聖地ベナレスへ。ミュラー、ここでお前を鍛える。強くなれ。お前なら俺を超えられる。」
魔術という、無詠唱魔法を駆使した戦闘技術を編み出し、今世に広めている。
さらに彼は空間錬成という古代魔法を現代の人類の魔法史に蘇らせた。
この二つの功績により、賢者の称号を得ている。
また先の戦争でトワレの危機を救った救国の英雄、十三星雄の一人に名を連ねている現代の大英雄だ。
そんな偉大な存在にミュラーは以前ニワトリの興奮剤入りの蒸留酒を飲ませた。
しかもこの時カインはナンパをしていた。
その邪魔をされたことをカインは未だに根に持っていた。
強さを切望していたミュラーは大戦の英雄から弟子入りの誘いを受けた時に瞳を輝かせたが、カインは修行過程でこのミュラーという男を徹底的に虐め抜くと企んでいた。
ミュラーはカインの本拠である魔術の聖地、ケルンへと旅立った。
修行の期間は長くなる。
その間ルカをどうしようかミュラーは迷ったが、カインは同伴を許可した。
クロエとオルマはベガスに帰還するため、ミュラーは二人と別れた。
クロエもオルマも伝説の賢者の修行に興味があったが、魔法が使えない二人はカインの目に叶わなかった。
ミュラーは二人に再会を誓い、力への道に求道していくことになった。
ケルンの聖地ベナレスへとミュラーは向かった。
旅の道中、馬車の中でカインはミュラーを品定めするように観察し、質問をした。
「テトから聞いた話しだと火、水、地、雷、この四系統の魔法を全て無詠唱で使えるらしいな」
「ああ」
「敬語は使えないのか。まぁいい。興味深い。じゃあ得意魔法はなんだ?」
「特にないな。状況によって使いわける」
「ふむ、ますます面白い奴だ。無詠唱は誰に習った?」
「気付いたら使えてた。ブシュロンが無詠唱で魔法を放ってたから、見て覚えただけだ」
「こいつは傑作だ。誰も己の術式を魂に刻むという困難な技術を、見て覚えたか。しかし空間錬成は取得できなかったと」
「ああ、結界術が習得途中だからな」
ミュラーの答えに、カインは愉快そうに笑う。
「ははは! 違う、違う。結界術式がどうのこうの問題じゃない。独学でよくもまぁこの境地に至ったもんだ。お前は勘違いしてるんだよ」
カインの痛快な笑いに不愉快さを覚えたミュラーは問いただす。
「何がおかしい。勘違いだと」
「すまん、すまん。気を悪くしないでくれ。大陸の大半の魔法士が下らない現代魔法学で習った固定観念の塊の術者の癖に、それを無詠唱で使いこなすお前はある意味天才だよ」
「……馬鹿にしているのか?」
「一つ答えを教えてやる。お前は自分の魔法術式を全く理解していない。ブシュロンを知っているな? あいつは自分の魂が熱い男だったから、炎熱系の魔法が使用できたんだ。しかしあいつはお前のように氷柱は生成できない。これはな、原則なんだよ。人が習得できる魔法は、人の魂の色によって決まっているんだ。だからブシュロンは氷雪系の魔法は使えない。死ぬほど修行すれば、氷の一欠片ぐらいは生成できるだろうが非効率だ」
「何が言いたい」
「お前の課題、自分の術式を見つけろ。まぁ覚えることは山ほどあるが、魔法学を根本的に復習することから始める必要があるな。あーそれと、懐にしまってる剣は捨ててしまえ。体術の修行で一番要らないものだ。洗練された武術の前に武器なんぞ役に立たん」
「俺に剣を捨てろというのか?」
「そうだ。お前は魔術士になるんだからな」
堂々と告げるカインにミュラーは思わず顔を顰める。するとカインはミュラーに一振りの太刀を手渡す。
「遠慮はいらん、斬ってみろ」
ミュラーは殺すつもりで剣を振ろうとした。疾風のような斬撃。しかしそれはカインには届かなかった。
ミュラーの剣が見えない壁にでもぶつかったかのように制止する。
カインは指をくるりと回すと、呆気なく剣はミュラーの手から離れる。
ミュラーから剣を奪ったカインは剣の腹を指先で突くと、剣は粉々に砕ける。
「ミュラー、これは魔法じゃない。単純な
カインはミュラーの財布や隠し持っていた短刀を見せびらかす。
それを見てミュラーは力の次元の違いを思い知る。
ミュラーはジラールの遺品である剣を渋々カインに手渡す。
「理解が早いのはお前の長所だな。さて、馬車で大地を眺めるのも飽きた。そろそろ屋敷に戻るか」
カインが指をパチンと鳴らすと空間が歪んだ。
それまで草原が生い茂った大地が、景色が変わる。
いつの間にか吹雪が吹き荒れる雪原が現れた。
その雪景色の先に、空まで届くような塔がそびえ立つ。
呆気に取られたミュラーとルカにカインは薄く微笑む。
「ようこそ、聖地ベナレスへ。ミュラー、ここでお前を鍛える。強くなれ。お前なら俺を超えられる。」