第92話 初陣後
文字数 2,179文字
シャプール会戦の勝利はミュラー達の任務の終了を意味した。
無事に任務を終え、一人も死傷者も出すことなく、安堵したミュラー達はトワレ本国に戻り、アスターテ要塞に帰還を果たした。
確かに死傷者は出なかったが、今回の初陣でクロエ達に精神的負担がかかっていることを危惧した隊長のリアムは隊員達に束の間ではあるが、休息の期間を与えた。
健在な隊員達には、次の任務の打ち合わせをリアムはさっそく行った。
最も健在なのは、ミュラーやブシュロン、ジラール、オルマにデルヴォーぐらいだが。
卓上に置かれた紅茶を嗜みながらリアムは次の作戦を伝える。
「北のイゼル要塞に向かい、北部前線行くことになった。最も我々は前回同様の偵察及び工作活動になるがね。質問のある者はいるか?」
ジラールが挙手し、リアムに尋ねる。
「聞けばブランデンブルク要塞の攻略は成功したらしいじゃねぇか。そこの正規軍と合流してザクセン領の東まで進軍しないのか?」
ジラールの質問にリアムは嘆息する。
「ジラール君、トワレが本気でザクセン全域まで支配して、グラスランド連盟の国家群が降伏して、崩壊するまで戦争してると勘違いしてるんじゃないのか?」
オルマがポカンとした顔をして尋ねる。
「違うのー? だって連合軍は今は十万を越える大軍だよー?」
リアムはやれやれといった顔をして、副官のブシュロンに代わりに答えさせる。
「戦争とは外交の延長したものに過ぎん。トワレは今回の戦争でブランデンブルク要塞とその一帯の地域を支配した。これにより南の紅海の交易の利益と中立だが、大国のビガロス神聖国の備えが出来ることになった。また会戦の勝利と要塞の失陥によりグラスランド連盟の戦意を挫き、国防力の弱体化にも成功した。トワレ連合は戦争の勝利条件をクリアした訳だ。後は講和交渉で有利な条件で停戦条約が結ばれればいいだけだ」
ミュラーがふんぞり返り、威丈高に聞く。
「難しい話は、わからん。要はなんだ?」
リアムは紅茶を優雅に飲みながらミュラーに端的に教える。
「まぁ戦争は終わるだろう。グラスランド連盟の狙いはこのアスターテ要塞と北のイゼル要塞を攻略して、トワレの首都ハイネを丸裸にして停戦条約を結ぶ狙いがあっただろうが、要所であるブランデンブルク要塞を奪われたんだ。それは叶わない。最も北部戦線が崩れて、イゼル要塞が危機に陥れば話しは変わるがね」
戦争が終わる。
この言葉にミュラー達は心から安堵した。
長い戦いになると予想してたミュラー達は、これでサラブに帰れると期待を膨らませた。
リアムはクスリと笑った。
「諸君らの働きのおかげだ。シャプール会戦で呆気なく敵軍が敗れたのは。誇っていい。次は北だ。そこで賢く立ち回れば戦争は終わる。もう一働きしたらもらうぞ。北は雪が積もってるらしい。どうだミュラー、今度は敵軍を雪崩れで崩してみないか?」
リアムの笑えない冗談にミュラーは真顔で答える。
「冬服は身動きが悪くなるから、好かないな」
ミュラーの空気の読めない回答に一同が笑う。
オルマも無垢な笑顔で笑う。
「ハハハ、生まれも育ちも常夏だったから、雪、初めて見るよー。楽しみだなー」
次の戦場に行く恐怖より、初めて経験する冬という季節の期待に、皆は心を躍らせていた。
もうすぐ戦争が終わる。
それがミュラー達の士気を大きく高めた。
今まで空気のような存在だったデルヴォーがリアムに調子よく誘う。
「隊長も戦争が終わったら、ベガスに観光に来てくれや。カジノでスロットなんてどうですかい?」
リアムは薄く微笑みながら、首を左右に振る。
「僕は運任せの勝負はしない主義なんだ。勝負に勝つためならなんでもするがね。さて、諸君、北に広がる白い雪原をグラスランドの連中の血で赤く染め上げるぞ」
リアムの無邪気な笑顔から出る、恐怖の言葉にミュラー達の笑顔が途端に消えていった。
数日の休息の後に、一週間かけてミュラー達は北のイゼル要塞まで到着した。
休息ともう少しで戦争が終わるという朗報に、不調だったクロエやフェンディはすっかり元気を取り戻していた。
フェンディは初めて見る雪景色に子供のようにはしゃぐ。
「見てクロエ! 地平線まで真っ白よ!」
ミュラー達は初めて見る雪景色に心を躍らせずにはいられなかった。
ミュラーは足元の雪を拾い口の中で頬張る。
「なかなか旨いな」
それを見たジラールが恥ずかしそうにミュラーを制止する。
「やめてくれ。雪が初めてなのはわかるが、それは子供でもやらない行為だ」
雪に感動しながらイゼル要塞に入城しようとしたミュラー達に、早馬の伝令が駆けつける。
顔面蒼白の伝令は隊長のリアムに衝撃の報告をした。
「至急、至急! ブランデンブルク要塞が失陥しました! 大至急アスターテ要塞まで戻って下さい! 大本営は混乱しています!」
その報を聞き、リアムは忌々しい顔で雪原を踏み叩く。
その凶報は終わりの見えない戦争の継続を意味する。
動揺を隠せないでいるミュラー達は思わず膝を崩し、雪原に力を入れて無く拳を叩きつけた。
ミュラーは一人想いを馳せる。
ルカ、やはり戦はまだまだ続くようだ。
まだ帰れそうにない。
ただいまは暫くお預けのようだ。
荒れる吹雪の中、皆が戦意を喪失してる時に、ミュラーの心は蒼く燃え上がっていた。
絶対に生きて帰る!
無事に任務を終え、一人も死傷者も出すことなく、安堵したミュラー達はトワレ本国に戻り、アスターテ要塞に帰還を果たした。
確かに死傷者は出なかったが、今回の初陣でクロエ達に精神的負担がかかっていることを危惧した隊長のリアムは隊員達に束の間ではあるが、休息の期間を与えた。
健在な隊員達には、次の任務の打ち合わせをリアムはさっそく行った。
最も健在なのは、ミュラーやブシュロン、ジラール、オルマにデルヴォーぐらいだが。
卓上に置かれた紅茶を嗜みながらリアムは次の作戦を伝える。
「北のイゼル要塞に向かい、北部前線行くことになった。最も我々は前回同様の偵察及び工作活動になるがね。質問のある者はいるか?」
ジラールが挙手し、リアムに尋ねる。
「聞けばブランデンブルク要塞の攻略は成功したらしいじゃねぇか。そこの正規軍と合流してザクセン領の東まで進軍しないのか?」
ジラールの質問にリアムは嘆息する。
「ジラール君、トワレが本気でザクセン全域まで支配して、グラスランド連盟の国家群が降伏して、崩壊するまで戦争してると勘違いしてるんじゃないのか?」
オルマがポカンとした顔をして尋ねる。
「違うのー? だって連合軍は今は十万を越える大軍だよー?」
リアムはやれやれといった顔をして、副官のブシュロンに代わりに答えさせる。
「戦争とは外交の延長したものに過ぎん。トワレは今回の戦争でブランデンブルク要塞とその一帯の地域を支配した。これにより南の紅海の交易の利益と中立だが、大国のビガロス神聖国の備えが出来ることになった。また会戦の勝利と要塞の失陥によりグラスランド連盟の戦意を挫き、国防力の弱体化にも成功した。トワレ連合は戦争の勝利条件をクリアした訳だ。後は講和交渉で有利な条件で停戦条約が結ばれればいいだけだ」
ミュラーがふんぞり返り、威丈高に聞く。
「難しい話は、わからん。要はなんだ?」
リアムは紅茶を優雅に飲みながらミュラーに端的に教える。
「まぁ戦争は終わるだろう。グラスランド連盟の狙いはこのアスターテ要塞と北のイゼル要塞を攻略して、トワレの首都ハイネを丸裸にして停戦条約を結ぶ狙いがあっただろうが、要所であるブランデンブルク要塞を奪われたんだ。それは叶わない。最も北部戦線が崩れて、イゼル要塞が危機に陥れば話しは変わるがね」
戦争が終わる。
この言葉にミュラー達は心から安堵した。
長い戦いになると予想してたミュラー達は、これでサラブに帰れると期待を膨らませた。
リアムはクスリと笑った。
「諸君らの働きのおかげだ。シャプール会戦で呆気なく敵軍が敗れたのは。誇っていい。次は北だ。そこで賢く立ち回れば戦争は終わる。もう一働きしたらもらうぞ。北は雪が積もってるらしい。どうだミュラー、今度は敵軍を雪崩れで崩してみないか?」
リアムの笑えない冗談にミュラーは真顔で答える。
「冬服は身動きが悪くなるから、好かないな」
ミュラーの空気の読めない回答に一同が笑う。
オルマも無垢な笑顔で笑う。
「ハハハ、生まれも育ちも常夏だったから、雪、初めて見るよー。楽しみだなー」
次の戦場に行く恐怖より、初めて経験する冬という季節の期待に、皆は心を躍らせていた。
もうすぐ戦争が終わる。
それがミュラー達の士気を大きく高めた。
今まで空気のような存在だったデルヴォーがリアムに調子よく誘う。
「隊長も戦争が終わったら、ベガスに観光に来てくれや。カジノでスロットなんてどうですかい?」
リアムは薄く微笑みながら、首を左右に振る。
「僕は運任せの勝負はしない主義なんだ。勝負に勝つためならなんでもするがね。さて、諸君、北に広がる白い雪原をグラスランドの連中の血で赤く染め上げるぞ」
リアムの無邪気な笑顔から出る、恐怖の言葉にミュラー達の笑顔が途端に消えていった。
数日の休息の後に、一週間かけてミュラー達は北のイゼル要塞まで到着した。
休息ともう少しで戦争が終わるという朗報に、不調だったクロエやフェンディはすっかり元気を取り戻していた。
フェンディは初めて見る雪景色に子供のようにはしゃぐ。
「見てクロエ! 地平線まで真っ白よ!」
ミュラー達は初めて見る雪景色に心を躍らせずにはいられなかった。
ミュラーは足元の雪を拾い口の中で頬張る。
「なかなか旨いな」
それを見たジラールが恥ずかしそうにミュラーを制止する。
「やめてくれ。雪が初めてなのはわかるが、それは子供でもやらない行為だ」
雪に感動しながらイゼル要塞に入城しようとしたミュラー達に、早馬の伝令が駆けつける。
顔面蒼白の伝令は隊長のリアムに衝撃の報告をした。
「至急、至急! ブランデンブルク要塞が失陥しました! 大至急アスターテ要塞まで戻って下さい! 大本営は混乱しています!」
その報を聞き、リアムは忌々しい顔で雪原を踏み叩く。
その凶報は終わりの見えない戦争の継続を意味する。
動揺を隠せないでいるミュラー達は思わず膝を崩し、雪原に力を入れて無く拳を叩きつけた。
ミュラーは一人想いを馳せる。
ルカ、やはり戦はまだまだ続くようだ。
まだ帰れそうにない。
ただいまは暫くお預けのようだ。
荒れる吹雪の中、皆が戦意を喪失してる時に、ミュラーの心は蒼く燃え上がっていた。
絶対に生きて帰る!