第90話 戦火
文字数 2,208文字
「作戦を伝える。僕とブシュロン、デルヴォーは敵陣まで近づいて魔法陣から魔法を炸裂させる。アーペル達は別働隊として敵軍の兵站を叩く。合図は魔法陣からの爆炎だ。それと同時に兵站を警護する敵軍を蹴散らし、敵軍の兵糧を焼き尽くせ。作戦が成功したら、以前登った川沿いの村まで行き、上流にて待機。僕がライン山頂で狼煙を上げたら堰き止めていた川の激流を放流しろ」
ブシュロンがリアムに不明な点を指摘する。
「兵站を叩く時、爆炎は見えるのかな? あとリアムの部隊だけ少ない気がするのだが?」
リアムは真面目な顔で疑問に答える。
「問題ない。作戦行動時間は夜間に行う。夜空に届くほどの炎をお見せしよう。敵軍まで近づくのは危険だが、爆破さえすれば僕らは動揺した敵陣から立ち去るだけだ。むしろ兵站を攻撃する方が危険も多いし、なるべく戦力を集中させたい」
クロエがリアムに尋ねる。
「前の話しで敵陣の魔法陣を発動させる効果はわかったけど、何故後方の兵站まで攻撃するの? しかも同時に」
リアムはいつもの歪んだ笑みを浮かべ、楽しそうに説明する。
「魔法陣で敵軍を攻撃するのは怒らせるためだな。怒り心頭の指揮官。そこに頼りの兵站まで攻撃され、失う。冷静で頭がいい指揮官なら、ブランデンブルク要塞まで退却するだろう。だが怒りの感情に任せた無能なら、これで会戦に踏み切るだろう。できるだけ、敵の司令官に考えさせる時間を与えないためだ。まぁブランデンブルクまで退却したところで食糧は底についてるわけだがね」
オルマが不安そうにリアムに声をかける。
「いくら後方の部隊って言っても、千人以上いるわけでしょ、アタシ達だけでどうにかなるかなー?」
リアムはクスリと笑う。そして激励した。
「君達が日頃相手しているのは大型の肉食獣だろう? 大丈夫だ。そこらの雑兵にして見れば、諸君らは一騎当千の兵者だ。以前の作戦は相手が悪かった。自信を持て、君達は強い」
夜の草原の岩陰に身を隠し、ミュラー達はリアムの合図を待った。
一同が緊張しながら、前線の夜空を注視していた。
沈黙が続き、時間が長く感じるほど時を待つ。
アーペルは詠唱をすでに唱えていた。
あとは発動の印を結ぶだけだ。
ジラールはハーミットの照準を敵陣に作られた食糧庫に狙いを定めていた。
オルマは糸で結界を作り、周囲を警戒する。
ミュラーも食糧庫にいつでも魔法を放てるように狙いを引き絞る。
緊張が極限まで達した時、前線の夜空に焔の柱が迸る。
合図だ!
アーペルが植物を操作し、その植物から睡眠を誘う魔法が周囲に立ちこめる。
おかげで前線が動揺してるのに、後方の敵部隊は静まりかえっていた。
魔法が効いている。
そう確信した刹那、ミュラーとジラールは敵軍の食糧庫を爆炎と光弾で爆破する。
すかさず、クロエとフェンディが敵陣に切り込み、槍と大剣で守備兵達を羅刹の如く薙ぎ倒していった。
続くようにジラールとミュラーは残った食糧庫を次々と爆破していく。
前を遮る守備兵団はクロエの槍とフェンディの大剣の餌食となり、鮮血の雨を降らしながら、まるで竜巻のような斬撃に吹き飛ばされていく。
そして守るはずであった食糧庫や武器庫はミュラーの爆炎によって炎に包まれる。
グラスランドの後方部隊は崩壊していき、地獄絵図と化していった。
後方部隊の異常に気付いた、別働隊が援軍として現れる。
炎に包まれたミュラーにジラールが声をかける。
「目標の倉庫は全部ふっ飛ばしたぞ! あとはコイツらを蹴散らすだけだ!」
確かに奇襲は成功した。
しかしここで命を失うわけにはいかない。
ミュラーは駆けつけくる軍勢に、立ち塞がる軍勢に巨大な氷塊を叩き込んだ。
怯んだ軍勢に容赦なく、クロエとフェンディが斬り刻みにかかる。
抵抗しようとした兵士達の足元がオルマの糸とアーペルの植物で絡み取られる。
不意を突いたクロエの槍が敵兵の首を刈り取っていった。
フェンディの大剣が振り回されるたびに、巨竜に吹き飛ばされるように敵兵は崩れていった。
そして後ろからミュラーとジラールが巨大な光弾と迸る電撃を浴びせて、行く手を阻む敵軍は屍の山を築く。
ミュラーが檄を飛ばす。
「中央突破でここから離脱するぞ! ひたすら目の前の敵を攻撃するぞ! 後ろはオルマとアーペルに任せた!」
ミュラーの言葉に頷き、クロエとフェンディは駆け出しながら、槍と大剣を奮い、眼前の敵兵を薙ぎ倒す。
斬り損ねた敵兵を、容赦なくジラールはハーミットで撃ち葬る。
その激動の中、ミュラーは見た。
立ち塞がる軍勢を立て直そうと獅子奮迅する敵将の指揮官を。
迷わず走り出し、立ち塞がる敵兵を魔法で吹き飛ばした。
そして剣を抜き、敵陣に切り込む。
勇猛な指揮官を目の前にし、手をかざす。
『業炎』
ミュラーは一騎打ちを美徳としていた。
だが今は仲間と共に生き抜くのが先決だった。
生きて帰る。
固く決意した信念がミュラーの美意識を変えた。
炎に焼かれる敵将を眺め、そして咆哮する。
「敵将は討ち取った!! 退くぞ!!!」
ミュラーの言葉に味方は勢いを増し、敵兵は散り散りになっていった。
ミュラー達は果敢な中央突破を成し遂げたのだ。
ミュラー達はすぐにウマに乗り、予定通り上流の川沿いの村まで向かおうと、疾風のように戦場を立ち去った。
ミュラー達のいた戦場の大地は血に染まり、炎で焼き朽ちていた。
ブシュロンがリアムに不明な点を指摘する。
「兵站を叩く時、爆炎は見えるのかな? あとリアムの部隊だけ少ない気がするのだが?」
リアムは真面目な顔で疑問に答える。
「問題ない。作戦行動時間は夜間に行う。夜空に届くほどの炎をお見せしよう。敵軍まで近づくのは危険だが、爆破さえすれば僕らは動揺した敵陣から立ち去るだけだ。むしろ兵站を攻撃する方が危険も多いし、なるべく戦力を集中させたい」
クロエがリアムに尋ねる。
「前の話しで敵陣の魔法陣を発動させる効果はわかったけど、何故後方の兵站まで攻撃するの? しかも同時に」
リアムはいつもの歪んだ笑みを浮かべ、楽しそうに説明する。
「魔法陣で敵軍を攻撃するのは怒らせるためだな。怒り心頭の指揮官。そこに頼りの兵站まで攻撃され、失う。冷静で頭がいい指揮官なら、ブランデンブルク要塞まで退却するだろう。だが怒りの感情に任せた無能なら、これで会戦に踏み切るだろう。できるだけ、敵の司令官に考えさせる時間を与えないためだ。まぁブランデンブルクまで退却したところで食糧は底についてるわけだがね」
オルマが不安そうにリアムに声をかける。
「いくら後方の部隊って言っても、千人以上いるわけでしょ、アタシ達だけでどうにかなるかなー?」
リアムはクスリと笑う。そして激励した。
「君達が日頃相手しているのは大型の肉食獣だろう? 大丈夫だ。そこらの雑兵にして見れば、諸君らは一騎当千の兵者だ。以前の作戦は相手が悪かった。自信を持て、君達は強い」
夜の草原の岩陰に身を隠し、ミュラー達はリアムの合図を待った。
一同が緊張しながら、前線の夜空を注視していた。
沈黙が続き、時間が長く感じるほど時を待つ。
アーペルは詠唱をすでに唱えていた。
あとは発動の印を結ぶだけだ。
ジラールはハーミットの照準を敵陣に作られた食糧庫に狙いを定めていた。
オルマは糸で結界を作り、周囲を警戒する。
ミュラーも食糧庫にいつでも魔法を放てるように狙いを引き絞る。
緊張が極限まで達した時、前線の夜空に焔の柱が迸る。
合図だ!
アーペルが植物を操作し、その植物から睡眠を誘う魔法が周囲に立ちこめる。
おかげで前線が動揺してるのに、後方の敵部隊は静まりかえっていた。
魔法が効いている。
そう確信した刹那、ミュラーとジラールは敵軍の食糧庫を爆炎と光弾で爆破する。
すかさず、クロエとフェンディが敵陣に切り込み、槍と大剣で守備兵達を羅刹の如く薙ぎ倒していった。
続くようにジラールとミュラーは残った食糧庫を次々と爆破していく。
前を遮る守備兵団はクロエの槍とフェンディの大剣の餌食となり、鮮血の雨を降らしながら、まるで竜巻のような斬撃に吹き飛ばされていく。
そして守るはずであった食糧庫や武器庫はミュラーの爆炎によって炎に包まれる。
グラスランドの後方部隊は崩壊していき、地獄絵図と化していった。
後方部隊の異常に気付いた、別働隊が援軍として現れる。
炎に包まれたミュラーにジラールが声をかける。
「目標の倉庫は全部ふっ飛ばしたぞ! あとはコイツらを蹴散らすだけだ!」
確かに奇襲は成功した。
しかしここで命を失うわけにはいかない。
ミュラーは駆けつけくる軍勢に、立ち塞がる軍勢に巨大な氷塊を叩き込んだ。
怯んだ軍勢に容赦なく、クロエとフェンディが斬り刻みにかかる。
抵抗しようとした兵士達の足元がオルマの糸とアーペルの植物で絡み取られる。
不意を突いたクロエの槍が敵兵の首を刈り取っていった。
フェンディの大剣が振り回されるたびに、巨竜に吹き飛ばされるように敵兵は崩れていった。
そして後ろからミュラーとジラールが巨大な光弾と迸る電撃を浴びせて、行く手を阻む敵軍は屍の山を築く。
ミュラーが檄を飛ばす。
「中央突破でここから離脱するぞ! ひたすら目の前の敵を攻撃するぞ! 後ろはオルマとアーペルに任せた!」
ミュラーの言葉に頷き、クロエとフェンディは駆け出しながら、槍と大剣を奮い、眼前の敵兵を薙ぎ倒す。
斬り損ねた敵兵を、容赦なくジラールはハーミットで撃ち葬る。
その激動の中、ミュラーは見た。
立ち塞がる軍勢を立て直そうと獅子奮迅する敵将の指揮官を。
迷わず走り出し、立ち塞がる敵兵を魔法で吹き飛ばした。
そして剣を抜き、敵陣に切り込む。
勇猛な指揮官を目の前にし、手をかざす。
『業炎』
ミュラーは一騎打ちを美徳としていた。
だが今は仲間と共に生き抜くのが先決だった。
生きて帰る。
固く決意した信念がミュラーの美意識を変えた。
炎に焼かれる敵将を眺め、そして咆哮する。
「敵将は討ち取った!! 退くぞ!!!」
ミュラーの言葉に味方は勢いを増し、敵兵は散り散りになっていった。
ミュラー達は果敢な中央突破を成し遂げたのだ。
ミュラー達はすぐにウマに乗り、予定通り上流の川沿いの村まで向かおうと、疾風のように戦場を立ち去った。
ミュラー達のいた戦場の大地は血に染まり、炎で焼き朽ちていた。