第112話 惨劇の跡
文字数 2,112文字
テトの元へなんとか辿り着いたミュラー達は惨劇を知らせた。
テトは三人を野戦病院に案内し、治療を施した。
数日で傷も癒え、オルマとクロエは立ち直った。
しかしミュラーは違った。
壊れた人形のように動くことは無かった。
無機質な表情で、ただ虚空を見つめていた。
何もない景色を見つめ、時には壊れたように感情のない笑いを上げた。
全身が自身でつけた傷にまみれていた。
もういない仲間の名前を虚しく呼びかけていた。
医者は勿論、オルマとクロエも首を横に振った。
そして痛感した。
ミュラーはもう自分を失っている。
何日もミュラーは食事はおろか、睡眠をとっていなかった。
ミュラーの下の世話をしたクロエは同情を禁じえなかった。
自殺を止めるためにミュラーを拘束したオルマは絶望感に苛まされていた。
ミュラーはもう戦えない。
いや、自力で立つのも困難な状態だ。
そんなミュラーを見て、オルマとクロエは涙が溢れて止まらなかった。
三人はトゥールの都市にいたが、クバートの防衛ラインが突破されかけている知らせをテトから聞いても、ただ俯くことしかできなかった。
どうすることもできなかった。
今のミュラーを放っておくわけにはいかなかった。
そんな看病をしている二人の前に、テトと三人の男達が訪れた。
オルマはその一人に見覚えがあった。
思わずその名を告げてしまう。
「創世の魔術師、カイン……」
クロエは眉をひそめる。
「前にベガスの飲み会でナンパしてきたヤツじゃない……」
二人に紹介されたカインは他の二人の男達に揶揄われる。
「相変わらず女癖がひどいな、カイン」
「心の修行もした方がいいな」
嗜められたカインは罰が悪そうにしながらも、オルマとクロエの肩を抱く。
「待たせたな。準備に時間がかかってすまなかった。今までよく戦ってくれた」
カインの傍らにいた黒髪の青年が力強く告げる。
「僕らがこの戦争を終わらせる。七大聖魔も退治する。任せてください」
テトがその青年に屈託ない笑みを浮かべた。
「言うじゃないか、ルシア。西のアムリッツもティアマトも滅ぼされてるんだぞ。しかも相手は伝説の七大聖魔だぞ」
テトの隣にいた長身の青年がテトの胸を突いて、不適に笑う。
「勝つ算段はできてるんだろ? 丞相閣下。さて修行も終わったし、こて調べにこの街に近づく連中を追っ払うか! 手加減できねーけど、いーのか?」
テトは頷く。
「ああ、避難民はこの街で受け入れている。思う存分に暴れてくれ」
カインはミュラーの元へと近づく。
「ふむ、無詠唱の魔法士。しかも剣や体術も使える人物か、非常に興味深い。テト、コイツ少し借りるぞ」
そう告げると、カインは無抵抗なミュラーの身体を抱き上げる。
仕方なさそうに頷いたテトは三人の男達に指示を出す。
「丞相の命だ。グラスランドの連中に一泡吹かせてこい! ルシア、シン、カイン、修行の成果を見せてやれ」
すると三人の男達は窓から空へ舞った。
天空へと鷹のように高速に飛ぶ。
空には待機していた数名の男女がいた。
その中にマルジェラもいた。
カインに担ぎ上げられたミュラーを見て意外そうな顔をする。
「私コイツに裸にひん剥かれたんだけど……。って自分を失ってるわね、目覚めさせるわ」
マルジェラが手をミュラーの額に触れると、ミュラーの全身に強烈な電撃が走った。
ガクガクと震えるミュラーは強引に現実に引き戻された。
空高く浮かんでいる事実に気づいたミュラーは、思わず暴れ出すがさらに電撃を浴びせられ、力尽きる。
カインがそれを見て微笑む。そして力強くミュラーにミュラーに語る。
「よく見ておくんだ。戦争の形が変わる瞬間を」
カインが手をかざす。
その瞬間、積乱雲のような膨大な光が形成されていく。熱の籠った巨大な光の柱が地上へとつきたて突き立てられた。
地上にいたオルマとクロエは大地が激しく揺れるのを感じ、思わず窓から身を乗り出す。
二人は見た。
クバートの要壁に群がるグラスランド軍がその光になす術なく焼き尽くされるのを。
地平線がその光に覆われて、輝き走る光景を。
天空にいた長身の男が呟く。
「まだまだこれからだ」
そう言い放つと、高速で空を駆け、あっという間に空に群がる竜の群れの前に立ち塞がった。
長身の男が合掌する。
すると空間が歪み、まるで見えない壁に挟まれたかのように、ドラゴン達が一匹残らず圧殺された。
大量の血と肉塊が飛び散る。
八人の男女は空から極大魔法を容赦なく、地上にいるグラスランド軍に浴びせる。
何十万といたグラスランド軍が殲滅されていった。
その様子を見たカインは呟く。
「これはもう戦争じゃないな、一方的な殺戮だ」
傍らにいたルシアという青年が嘆息する。
「けど、こうでもしないと戦争は終わらない。七大聖魔も倒せない……」
正気に戻ったミュラーはその瞳にしっかりと焼きつけた。
その圧倒的な力を。
そして魅了されていた、その強さの極みを。
ミュラーは静かに誓った。
この強さを手に入れてやる。
そしてジラール、フェンディ、アーペル、ブシュロンの仇を討つ。
後に十三大雄と呼ばれる伝説の英雄達の狼煙が上げられた。
テトは三人を野戦病院に案内し、治療を施した。
数日で傷も癒え、オルマとクロエは立ち直った。
しかしミュラーは違った。
壊れた人形のように動くことは無かった。
無機質な表情で、ただ虚空を見つめていた。
何もない景色を見つめ、時には壊れたように感情のない笑いを上げた。
全身が自身でつけた傷にまみれていた。
もういない仲間の名前を虚しく呼びかけていた。
医者は勿論、オルマとクロエも首を横に振った。
そして痛感した。
ミュラーはもう自分を失っている。
何日もミュラーは食事はおろか、睡眠をとっていなかった。
ミュラーの下の世話をしたクロエは同情を禁じえなかった。
自殺を止めるためにミュラーを拘束したオルマは絶望感に苛まされていた。
ミュラーはもう戦えない。
いや、自力で立つのも困難な状態だ。
そんなミュラーを見て、オルマとクロエは涙が溢れて止まらなかった。
三人はトゥールの都市にいたが、クバートの防衛ラインが突破されかけている知らせをテトから聞いても、ただ俯くことしかできなかった。
どうすることもできなかった。
今のミュラーを放っておくわけにはいかなかった。
そんな看病をしている二人の前に、テトと三人の男達が訪れた。
オルマはその一人に見覚えがあった。
思わずその名を告げてしまう。
「創世の魔術師、カイン……」
クロエは眉をひそめる。
「前にベガスの飲み会でナンパしてきたヤツじゃない……」
二人に紹介されたカインは他の二人の男達に揶揄われる。
「相変わらず女癖がひどいな、カイン」
「心の修行もした方がいいな」
嗜められたカインは罰が悪そうにしながらも、オルマとクロエの肩を抱く。
「待たせたな。準備に時間がかかってすまなかった。今までよく戦ってくれた」
カインの傍らにいた黒髪の青年が力強く告げる。
「僕らがこの戦争を終わらせる。七大聖魔も退治する。任せてください」
テトがその青年に屈託ない笑みを浮かべた。
「言うじゃないか、ルシア。西のアムリッツもティアマトも滅ぼされてるんだぞ。しかも相手は伝説の七大聖魔だぞ」
テトの隣にいた長身の青年がテトの胸を突いて、不適に笑う。
「勝つ算段はできてるんだろ? 丞相閣下。さて修行も終わったし、こて調べにこの街に近づく連中を追っ払うか! 手加減できねーけど、いーのか?」
テトは頷く。
「ああ、避難民はこの街で受け入れている。思う存分に暴れてくれ」
カインはミュラーの元へと近づく。
「ふむ、無詠唱の魔法士。しかも剣や体術も使える人物か、非常に興味深い。テト、コイツ少し借りるぞ」
そう告げると、カインは無抵抗なミュラーの身体を抱き上げる。
仕方なさそうに頷いたテトは三人の男達に指示を出す。
「丞相の命だ。グラスランドの連中に一泡吹かせてこい! ルシア、シン、カイン、修行の成果を見せてやれ」
すると三人の男達は窓から空へ舞った。
天空へと鷹のように高速に飛ぶ。
空には待機していた数名の男女がいた。
その中にマルジェラもいた。
カインに担ぎ上げられたミュラーを見て意外そうな顔をする。
「私コイツに裸にひん剥かれたんだけど……。って自分を失ってるわね、目覚めさせるわ」
マルジェラが手をミュラーの額に触れると、ミュラーの全身に強烈な電撃が走った。
ガクガクと震えるミュラーは強引に現実に引き戻された。
空高く浮かんでいる事実に気づいたミュラーは、思わず暴れ出すがさらに電撃を浴びせられ、力尽きる。
カインがそれを見て微笑む。そして力強くミュラーにミュラーに語る。
「よく見ておくんだ。戦争の形が変わる瞬間を」
カインが手をかざす。
その瞬間、積乱雲のような膨大な光が形成されていく。熱の籠った巨大な光の柱が地上へとつきたて突き立てられた。
地上にいたオルマとクロエは大地が激しく揺れるのを感じ、思わず窓から身を乗り出す。
二人は見た。
クバートの要壁に群がるグラスランド軍がその光になす術なく焼き尽くされるのを。
地平線がその光に覆われて、輝き走る光景を。
天空にいた長身の男が呟く。
「まだまだこれからだ」
そう言い放つと、高速で空を駆け、あっという間に空に群がる竜の群れの前に立ち塞がった。
長身の男が合掌する。
すると空間が歪み、まるで見えない壁に挟まれたかのように、ドラゴン達が一匹残らず圧殺された。
大量の血と肉塊が飛び散る。
八人の男女は空から極大魔法を容赦なく、地上にいるグラスランド軍に浴びせる。
何十万といたグラスランド軍が殲滅されていった。
その様子を見たカインは呟く。
「これはもう戦争じゃないな、一方的な殺戮だ」
傍らにいたルシアという青年が嘆息する。
「けど、こうでもしないと戦争は終わらない。七大聖魔も倒せない……」
正気に戻ったミュラーはその瞳にしっかりと焼きつけた。
その圧倒的な力を。
そして魅了されていた、その強さの極みを。
ミュラーは静かに誓った。
この強さを手に入れてやる。
そしてジラール、フェンディ、アーペル、ブシュロンの仇を討つ。
後に十三大雄と呼ばれる伝説の英雄達の狼煙が上げられた。