08)荒神-”あらがみ”と”こうじん”

文字数 1,330文字

 日本に古くからある「荒御魂(あらみたま)」いわゆる荒神(あらがみ)と、竈神(かまどがみ)として信仰された荒神(こうじん)

 概念としては荒神(あらがみ)が先、後に神仏習合を経て(かまど)神の荒神(こうじん)が成立しました。「アラ」も「カミ」も訓読みで日本古来からあるコトバ(言霊(ことだま))に渡来の漢字をあてていますが、「コウ」「ジン」は音読みで、大陸の発音をそのまま使用していることからも、そのことがわかります。

 第2章(古代日本では「生、誕生」に反転した「荒」)で、弥生時代に始まったクニウミの原風景が『アラ』として神格化され、後に『荒』の字があてられたと解説しました。この

があって、私たちの遠い祖先が、

も同じ原理でとらえていたと考えるようになりました。

 水が流れてクニが生まれ発展するという自然地理のプロセスを、和合・妊娠・出産・養育・成長という生物プロセスのイメージに重ね合わせ、それらをクニウミと御生れ(みあれ)に神格化して理解しようとしていた、というのが私の読みです。

 前章の最後に荒神(あらがみ)荒神(こうじん)も『同祖』と書いたのは、そういう理由です。どちらも『何もない状態から新しいものが生まれること』が共通しています。なお、白川静博士の字訓で「生」「新」「荒」「粗」は同系の語と解説されています。

 今の科学的知識であれば、何もない状態からものが生まれてくるはずもないことは誰にでもわかりますが、当時としては、そのように理解するよりほかにありませんでした。

 上で

と書きましたが、さてそれだけなのか。キーワードになるのが荒神(こうじん)竈神(かまどのかみ)です。
 竈神(かまどのかみ)とはどのような神様でしょうか。

 写真は京都、下鴨神社の摂社・河合(かわい)神社境内の六社の御由緒板。いずれも重要な社ですが、中に竈神(かまどのかみ)の御祭神、|奥津日子神《おくつひこのかみ》と|奥津比売神《おくつひめのかみ》の男女二神の名が書かれています。

 続く写真は、その竈神が実際に働く(あらわれる・特別な働きをする状態になる)、下鴨神社奥の大炊殿(おおいどの)(かまど)です。大炊殿では歴代の斎王(さいおう)(未婚の内親王(ないしんのう))が、下鴨本殿に鎮座する御祭神の御神饌(ごしんせん)(お食事)を整え、朝夕奉仕した所です。本殿に隣接した御祭神のためのキッチンですから、(かまど)を使い終われば清浄、なにもない「(ぜろ)の状態にし、また次の食事を「()れます」という

が日々繰り返されたのです。

 このような考え方と様式が、竈神の信仰に繋がっていったことが想像できます。
 荒神発祥の社、日本第一を(うた)笠山荒神社(かさやまこうじんしゃ)(奈良)では、男女二神の他に土祖神(つちのみおやのかみ)を御祭神とします。


 日本には荒神社がたくさんありますが、概ね、ここで紹介した三神を祀っています。
 そして三神は各家の台所に入り、民間信仰として定着してきました。(写真は京都北部、山国(やまぐに)、京都市右京区の古民家のおくどさん)

 (かまど)のことを『おくどさん』といいますが、奥津(おくつ)の二神の『おく』と、《土祖神》《つちのみおやのかみ》の『ど』がまとまって、そのように呼ばれるようになったのではないでしょうか。
 写真のように使わないときは、サカキを立て、王冠のような三方(さんぽう)さんを置き、徹底して清浄な状態にしておきます。
 三方(さんぽう)さんは、神道的には奥津二神と《土祖神》《つちのみおやのかみ》、つまり「火」と「水」と「土」を象徴しますが、仏教的には「(ぶつ)」「(ほう)」「(そう)」と説明されることが多いです。
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