07)アラの始まり

文字数 1,356文字

 時間的、空間的な広がりをある程度定めて、歴史を考えることは大切だと思います。
 アラハバキ信仰のような「得体の知れない」ものを考察する時に、まずは、どれくらいの

を対象にするのかを決めておかないと、話は無限に広がり、焦点がぼやけ、結局は何を言っているのかわからなくなります。
 ここまで一気の駆け足で来ましたが、アラハバキ信仰を考察する際の

をあらかじめ理解いただくために、あえて遠く離れた奈良県と宮城県の例を出して共通点を比較したという意図もあります。

 ひとつのケーススタディに過ぎませんが、
 ①アラハバキが、従来の考察の主流である東(北)日本だけではなく、西(南)日本も含めた汎日本的(はんにほんてき)な広がりをもつ信仰であること
 ②「アラ」と「ハバキ」の要素から考察ができること(大きく二つの要素に分解して考えてもよいこと)
 ③トータルで、男女の出会いから出産、子育てに至るプロセスを内包した信仰・祭式であること、が「おおむね」お分かりいただけたかと思います。
 もちろん、これまでの話で結論を導くには拙速ですので、今後、考察をすすめてゆく上での3つの基本仮説というイメージで受け止めていただければよいかと思います。

 ただ、早速ですが、③について、アラハバキ信仰の

を考えると、いずれ窮屈になると思います。

 それでは、ここからその時間的な広がり、具体的には、アラハバキ信仰がいつごろから始まったのかを考えてゆきたいと思います。

 アラハバキの「アラ」は、もともと日本にあった相当に古い言葉、しかも神性(しんせい)を帯びた言霊(ことだま)です。
 漢字が渡来して、中国では死を意味する「荒」の字が、古代日本では反転して「生、誕生」をあらわすものとして使われるようになりました。(第3章・古代日本では「生、誕生」に反転した「荒」)
 古式が残る、例えば伊勢神宮(内宮、荒祭宮(あらまつりのみや))、下鴨(しもがも)神社(境外社、御蔭(みかげ)神社)、大神(おおみわ)神社(境内社、狭井(さい)神社)など、御祭神の「御生(みあれ)されたばかりの御神霊(御蔭(みかげ)神社)、特別な働きをする状態または神が現れた状態(伊勢神宮内宮)」を荒御魂(あらみたま)として特別に祀る様式があります。



 (写真は生島足島神社(いくしまたるしまじんじゃ)境外の荒御魂(あらみたま)社、長野県上田市)生島足島(いくしまたるしま)神社は荒御魂(あらみたま)の姿をストレートに見せている珍しいケースとして紹介しました。御祭神の生島大神(いくしまのおおかみ)足島大神(たるしまのおおかみ)は男女一対の神々ですが、荒御魂(あらみたま)は男性のシンボルです。なお、あらためて紹介しますが、生島大神(いくしまのおおかみ)足島大神(たるしまのおおかみ)は、日本のアダムとイブ、イザナギ・イザナミのモデルとなった原初の神々と考えています。

 荒御霊(あらみたま)を祀る古式は、神仏習合、神社に仏閣が入り込む時代になって、荒神(あらがみ)(こうじん)として

と、融合していったと考えられます。
 仏教と書かず、外来の宗教と書いたのには理由がありますが、これについては次章以降で説明します。
 ただし、神社古式の荒御魂(あらみたま)ではなく、火と水と土(かまど)の神として融合してゆきました。(写真は(かまど)「おくどさん」とも。お釜の(ふた)三方(さんぽう)さんが飾られている。三方荒神(さんぽうこうじん)



 日本の民俗学(フォークロア)では、荒神(こうじん)信仰を、屋外神(おくがいしん)屋内神(おくないしん)に分類して考察しますが、基本的に、前者が神社古式の荒御魂(あらみたま)、後者が(かまど)の神になります。

 一見別々に思える二つの信仰様式は、実は「アラ=誕生」を同根としています。
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