46)アラハバキ解(7)【前期】前方後円墳・考

文字数 1,986文字

 宮内庁管轄で考古学的調査が入ることができず、ゆえに細かな異論はあるものの、AD200年代半ばと推定される箸墓(はしはか)古墳を皮切りに、列島の広い範囲で前方後円墳が多数築造され、古墳時代が始まりました。
 (資料:箸墓古墳のレーザー測定、赤色立体図。「箸墓・西殿塚古墳赤色立体地図の作成(H24年6月5日報道発表資料」に加筆、橿原考古学研究所・アジア航測)


 中心が高い円部(えんぶ)(墓域)と、それよりもやや低い(くさび)形に広がる方部(ほうぶ)が、テラス状の台で繋げられ、全体として壺あるいは鍵穴のようなカタチをしています。

 特に江戸期以降、そのカタチと意味についてさまざまな提案と議論があり、確かな結論は出ていませんが、本著のテーマ(アラハバキ解)に沿ったひとつの提案として読んでいただければ幸いです。

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 第44章・第45章からの続きになりますが、前方後円墳のカタチは、真上からは、三輪山(みわやま)にのぼる日の出を地上に映し、また地上からは、日没する大和二上山(にじょうざん)の姿(雄岳(おだけ)雌岳(めだけ)、45章)を模したデザインと考えています。

 (資料:箸墓古墳・最古の写真。明治九年撮影。宮内庁所蔵。箸中大池(はしなかおおいけ)の反対側、南からの撮影と推定される)


 大和二上山(死火山)の歴史は縄文より前の石器時代に始まります。
 打撃を加えると鋭利に剥離(はくり)するサヌカイト(剥離片を叩くと高音を発するためカンカン石ともいう)の他、加工しやすい凝灰岩(ぎょうかいがん)(石棺、石室の材料)も産出し、石器・縄文時代以来、近代にいたるまで利用されてきました。(現在でもザクロ石が天然研磨材としてわずかに採集されています)
 (資料:左)縄文時代の渥美半島の保美貝塚(ほびかいづか)から二上山のサヌカイト石器が出土。右)石器時代の主な石材分布図、東北歴史博物館)


 鉱山としてはもちろん、男女を連想させる二山型(ふたやまがた)は、太古の昔より魂が宿る子孫繁栄の霊山として崇められてきました。(写真:上)三輪山、下)二上山)


 箸墓古墳が築造された弥生から古墳へ移る時代の大和平野は、中央に縮小する古代大和湖、湖畔から東西の山麓にかけて豊かな稲作地帯が広がり、東に日の出の三輪山、西に日の入の大和二上山を領土とした国見(くにみ)のイメージでしょうか。
 その範囲=領土を、太陽の力で守護するという意味が前方後円墳のカタチに込められたのかも知れません。

 前方後円墳を考える上で、もうひとつの重要な視点は鳥瞰(ちょうかん)、つまり真上から見た時の『三輪山にのぼる日の出』のカタチです(第45章、大神神社(おおみわじんじゃ)の看板デザイン)。
 前章でも紹介した通り、三輪山は山頂から山麓まで狭井川(さいがわ)が流れる水の山であり、ゆえに龍神の姫巫女(ひめみこ)宗像(むなかた)三女神の祭祀様式が見られるのですが、三輪山からの日の出は、大地と川と太陽が接する、つまり、

瞬間と捉えることができます。

 それぞれの「(さい・きわ)」での「交じり合い」から生まれる・・・いわゆる

御生(みあ)れ、御荒(みあ)れ)です(第3章)
 サイノカミ信仰は、久那土(くなど)(他に久那戸など、道と結びの神)、八衢比古(やちまたひこ)(男性神)、八衢比売(やちまたひめ)(女性神)の三神の信仰ですが、大地(土)と川(水)と太陽(火)の三要素に対応します。
 久那土はその土の性質からサルタヒコに合致しますが、八衢比古と八衢比売のどちらが火でどちらが水であるかは現段階ではわかりません。(火も水もどちらにも変化する中性的な性質かも知れません)
 (写真:椿大神社(つばきおおかみのやしろ)(御祭神は猿田彦大神(さるたひこのおおかみ))参道脇の地球玉と猿田彦大神碑)


 なお、火と水と土の組み合わせは縄文時代以来(第10章)、そして、竈信仰(第8章)に通じる日本列島で連綿(れんめん)と続く信仰であることを付けくわえておきます。

 本著では、ここまでハバキについて、十分、考察してきませんでした。というのは、ハバキの意味が、(すね)に巻くもの、(ほうき)状のもの、筆状のもの、あるいはヘビが這った様子など・・・実に多様で特定しにくかったからです。

 しかし、前方後円墳をアラハバキ解で考察するとハバキの有力な意味がひとつ、あらためて浮かび上がってきます。
 第5章・第6章の加守(かもり)神社(奈良県葛城(かつらぎ)市)で、加守は蟹守(かにもり)掃部(かもん)に通じ、出産後に排出される(かに)(胎盤)を箒で(はら)う、いわゆる助産を意味すると紹介しましたが、出産のアラには

が必要になります。(写真:シュロ製の荒神ほうき。方部のカタチにも似ている)


 墓域のある円部(方部との接合部)から火と水と土の作用で魂が生まれ、魂を導く産道がテラス、到着する場所が方部と考えれば、円部をアラ、方部をハバキと解釈することが可能です。
 この場合、魂の発現をダイレクトに『亡くなった王の再生』とするか、『豊かなクニウミ・クニヅクリの魂の降臨・働き(=生國魂(いくたま))』とするかの違いがありますが、少なくとも、箸墓古墳よりも後、物部祭祀(もののべさいし)が支配する時代になればなるほど、後者の概念が強くなるような印象です。
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