22)神秘なアラ・ハバキの強さの源

文字数 1,840文字

 随身(ずいしん)像が安置されている随神門(ずいしんもん)の分布について、詳細に調べたわけではないので、おおよそのことしか言えませんが、日本地図を俯瞰してみて、ヤマト王権の支配が早くから及んだ畿内から遠い地域ほど高密度で残っているという印象です。畿内にはほとんど無く、近畿より東の中部・関東以北、さらには東北に上がるほどに色濃いように思います。

 谷川健一氏の白鳥伝説より。「栗田寛(1835-1899、歴史学者)は『阿良波婆伎』の中の出雲の佐陀(さだ)神社の図の中にあらはばきの門のあることを指摘している。佐陀神社の本殿には古くは隼人(はやと)の木像が並べてあったと私は朝山宮司から聞いたことがある。」
 つまり取材当時にはすでに木像は残されていなかったということです。

 上記の通り、古い時代には西日本各地の神社にも随神門と随身像が置かれていたのが、ヤマト王権に永らく帰属して安定した地域の神社から順番に、随身像は門から奥の本殿に置かれ、やがて木像自体、必要とされなくなった歴史が見えてきます。そしてそこから、かつて神社に随神門と随身像が置かれていた意味を考えることができます。

 ヤマトの律令国家体制が拡張する過程で、支配地と非支配地の界面には、ヤマトの権威をあらわす新しい時代の神社が順次創建され、ゆえに朝廷を象徴する宮門(みかど)を守護するために随神門が建てられ、随身像が置かれたということです。
 図は、熊谷公男氏(東北学院大学名誉教授)が作成した古墳時代のヤマト支配の北限と蝦夷(えみし)の居住南限を示す地図を簡略化したものですが、現在でも随神門と随身像の残された神社を地図にマッピングしてゆくと、新たに何らかのラインなり、傾向が見えてくると考えています。



 ヤマト側の目的、なぜ武装した随身の荒衣(あらたえ)脛巾(はばき)(すね)あて)のアラ・ハバキの姿を宮門に置いたのか、特に、それを仰ぎみる蝦夷の人々にどのような印象を抱かせたかったのでしょうか。
 アラ・ハバキの武人が守っている神社(神域)には、非武装・無抵抗で近づくように印象づけたかったように思います。蝦夷にとって、アラとハバキの姿は、勝ち目がないことを感じさせるほど強力なものであったというひとつの解釈です。

 そのように考える根拠を二つ紹介します。

 1)北から。片脛巾(かたはばき)が御神体の(ほこら)の伝承
 江戸後期の旅行家・博物学者である菅江真澄(すがえますみ)(1754-1829)が収集した江差(えさし)の伝承の中に「アイヌとの戦いで、和人の小山判官(おやまはんがん)が活躍して勝利、アイヌは小山をカムイ(神)として恐れ、小山が戦いのさ中に落とした(すね)あてを小山権現という祠で祀った」という話があります。現在の岩城神社(北海道江差町尾山地区)の由緒でもあるのですが、アイヌの人々が小山判官の戦いぶりを見てカムイと見た・・・おそらく

となった小山のイメージと脛当て、つまり、ハバキをその

な力の源として捉えたのではないでしょうか。なお、菅江は、小山判官は室町時代の下野国(しもつけのくに)の武将・小山隆政(おやまたかまさ)のことと考察しています。

 2)南から。王城を守護する隼人(はやと)(たて)


 日本書紀や延喜式(えんぎしき)の記述に符合して平城京跡(奈良県)から出土した(1963)のが隼人の楯です。(写真は平城宮跡資料館に展示されている復元品。資料館を運営する奈良文化財研究所のシンボルマークになっています。)
 楯に描かれた逆S字形の文様は、黒墨の線に沿って赤のベンガラの線、白土の色で空隙が充填されており、上下のギザギザ模様(鋸歯文)の上辺の方には小穴があけられて(復元品にはない)、

を通して結び飾っていたと考えられています。
 まさに楯の髪、タテガミです。

 今のところ楯を持つ隼人の呪力(破魔)として解釈されていますが、私は防御具としての楯としてはもちろん、紋様も、蝦夷との実戦で効果的に利用されたのではないかと考えています。
 本来、蝦夷も隼人も同じ縄文の血統で、縄文時代から海人の列島交易で繋がっていたとすれば、お互いに黒と赤そして白で装飾された渦巻紋様が象徴する意味を知っていた可能性があり、攻める方の隼人は、それを前線に置いて蝦夷に見せたと推察しています。
 縄文土器や土偶で多用される渦巻紋様のシンボル性には諸説あり、ここでこうだという結論や仮定を述べることはしませんが、縄文の人々にとっては神聖な紋様と色彩(黒と赤)であり、それが鮮やかに描き出された楯には、蝦夷側に抵抗や攻撃を躊躇させる心理が働いたのではないでしょうか。
 いわば、踏み絵のような心理的効果を狙ったデザインであると考えています。
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