03)古代日本では「生、誕生」に反転した「荒」

文字数 972文字

 アラハバキの「アラ」には「荒」の字があてられることがほとんどです。
「荒」という字の意味を、漢字の権威・白川静博士の『字統』『字訓』で調べてみました。『字統』は甲骨文(こうこつぶん)金文(かねぶん)篆文(てんぶん)などの古代中国における用法・解釈に基づいて漢字の成り立ちを解説する辞書。『字訓』は記紀・万葉集などにみえる上代語、いわゆる古代日本での漢字の用法・解釈を解説する辞書です。

 結論から言うと、古代日本と古代中国では「生」と「死」、真逆の意味で使われていました。

『字統』によると、(古代中国では)「荒」の(草かんむりがない)下部「コウ」は死者の形で、残骨にはなお頭髪が残っている形で、それが草間に棄てられていることを「荒」という、となっています。



一方、『字訓』の「生」のところ、(古代日本では「生」は)生まれ出る、あらわれる。ものの生成することをいう(中略)「新」「粗」「荒」も同系の語である。類義語の「うまる」は子が生まれることであるが、「産る(ある)」は高貴な人が神意によって出生する意に用いる、と説明されています。



京都の下鴨神社(賀茂御祖神社)や上賀茂神社など、古い神社では、御祭神が降臨する、つまり、顕れることを「御生れ(みあれ)」といい、関連した神事が古来より、とり行われています。

ここでもう一度、海退で沖積平野が形成される様子、「クニウミのアラ」の景色を少し詳しく書いてみましょう。
「川」が運ぶ土砂の堆積で砂州が生まれ、水辺の生き物がすみ、エサを求める鳥が種を運び、(あし)やススキ「芒」の原となり地を固め、人が入り道ができ耕し、クニが生まれてゆく。。。



クニウミの原風景の「川」と「(すすき)」を組み合わせて「荒」の一文字で表すことができます

このように、古代中国で「死」を意味した「荒」が、古代日本では、流れくる水と成長してゆく植物、つまり拡大してゆくクニのイメージとして受け入れられ、「生、誕生」を意味する「(あら)」に反転しました。

この違いは、土地に恵まれた大陸文化と、平野が少なかった列島文化の根本的な違いとしか言いようがありません。

そして、この「アラ、荒」の概念を含むアラハバキは、「生・誕生」に関連する「男女一対」「子孫繁栄」の信仰をさらに包含して、クニウミの原風景のイメージとともに、列島全体に浸透していたと考えています。なぜなら海退(かいたい)はすべての海辺で起きた出来事だったからです。
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