Nuthin’ but a G thang【2/7】
文字数 1,401文字
「五輪石と言えば、こんな伝承があるわ。とある森一帯に、昔、山城が建っていたらしい。時間は物事を風化させ、城跡は森になった。その森に無数に点在する五輪石はすべて、侍の墓として建てられたものだったらしいの。でも、今の元号に変わった頃、森を開墾する必要性があって、その五輪石を破壊していったのね。そうすると、壊すたびに突然雨が降ったり雷が鳴ったりする。挙句は時期でもないのに雹が降った。この天災はひたすら続いた。開墾が終わったとき、土の中から石像が出てきた。五輪石を壊すたびに心が痛んだのでしょう。持ち帰り、石像をそのひとは家の門口に置いた。天災は続く。それに紛れてか、石像はいつの間にかなくなっていた。なくなったその日から、その不思議な天候は収まった、という」
盛夏がなにを言うかと思えば、怪奇譚か。
「五輪石の怪奇も、あるのねぇ」
「さっきの尼さんも、今話した怪奇譚と同じように、家の前に五輪石を配置していたわね」
「言われてみれば、そうね」
「壊色は、これが偶然だと思う?」
「家の前に五輪石を置いていること?」
「そうよ」
「うーん。オブジェとしてはいいんじゃないの」
「まあ、そうね」
「さあ、集落が近づいてきた。あとひと頑張りね!」
山間部を開墾してできた盆地の集落。
田んぼと畑の間に、点が散らばるように、民家がある。
家々のなかからはあかりが灯っているのがわかる。
食べ物の匂いもしてくる。
「さ、盛夏。どの家に行くべきかしら」
「門構えが一番立派なところに決まっているじゃない」
「んじゃ、行ってみましょうか」
「頼んだわよ、壊色」
「知らないひとと交渉するの、苦手なんですけど」
「あちしよりマシよ。それに、壊色は〈全国を旅してきた〉のじゃなくって?」
「あー、もう。わかったっての」
黒塗りの門構えをした、見るからに立派なで大きな屋敷の門を、わたしは叩く。
「すみませーん。旅の者なんですがー」
門が開くと女中さんが、
「関係者の方ですね。どうぞ、お入りください」
と、泣きはらした目をしながら、わたしと盛夏を屋敷の中に迎え入れてくれた。
「関係者?」
わたしは首を傾げたが、盛夏は顔色一つ変えずに、
「ええ。関係者です」
と嘘を吐く。
女中さんは、
「お食事もみなさん、とられているところです、どうぞ、大広間へ」
と、食事場所の案内までしてくれる。
「意味がわからない」
「壊色。郷に従うのよ」
「なんかそれ、言葉の意味ちがうんじゃないの?」
「まずは食事よ」
「毒入りだったらどうする」
「土蜘蛛確定でしょ。調伏するわ」
「毒見は、わたしってことなのね」
「そう、なるわね……」
「すまし顔で言わないで。腹立たしいから」
「あちしたちは、招かざる客ってわけでもなさそうなのよね。その理由を探りましょう」
「飛んで火にいるなんとやら、が待ち受けてるかもよ」
「大丈夫。あちしの方は死なないから」
「なにそれ。わたし、死んじゃうってこと?」
「さ。大広間へ案内してくれてるんだから、女中さんに黙ってついていきましょ」
「へいへい」
女中さんが連れて行ってくれた場所は、なんの衒いもなく、お食事中の、みなさんが集まっているところだった。
ただし、人数は30人以上いて、宴会と言うには黙々と食事をしている場所だったのだが。