Long Season【6/6】
文字数 1,384文字
盛夏が行く先々で糸を斬り捨てていく。
わたしたちは進む。
図書室の場所は、わたしが知っている。
だから、まっすぐ進む。
瘴気に満ちた寝室の奥からは、生徒たちのうめき声。
この分じゃ指導員も倒れていることだろう。
学校は閉鎖学校状態になっている、という。
リミットは近い。
死は近づいていた。
……だけど、大丈夫。
「そこを左に曲がった奥の部屋よ。そこが、図書室!」
「入りましょう」
またもやドアを蹴破り、侵入するわたしと、盛夏。
そこは、図書室だった……面影がある。
でも違う。
巨大化した蒸気計算機が自動増殖していく、〈無機生物〉、言い換えるならば〈知能のついたロボットが自己を肥大化させている最中〉の姿で覆いつくされた部屋だった。
今も増殖を続ける蒸気計算機だった〈モノ〉。
「絵葉書屋の仕業ね」
わたしは口をぽかーんと、開けた。
「は? 絵葉書屋?」
「葉書型のゲーム基盤を売っている店があるのよ。地下街に、ね。彼らは、まつろわぬ人々よ」
「ゲーム基盤……」
そう言われると、あちこちに基盤が刺さっていて、蒸気が噴き出て、それを冷却ファンが冷ましている箇所が随所にある。
「壊色。主軸になっている糸が一本だけあるでしょ。それを教えて」
わたしは目を凝らす。
「あった! 貸出カウンターのカード入れから繋がってる!」
「これね」
斬らないで、その糸をわしづかみする盛夏。
主糸は、粘着しないし、手を斬ることもない。
盛夏は、手繰った。
その主軸の糸を。
「見ぃつけた!」
手繰った先には、巣があった。
「これより〈病巣〉の摘出の〈術式〉を行うわ」
脇差……その短刀・蜘蛛切で、病巣を切除。
そこにいたであろう、あやかしの〈魂〉を〈調伏〉させる。
「術式、終了よ」
あやかしは、
「ピキー」と息を漏らすと、消し炭になって消えた。
わたしを見て言う盛夏。
「さぁ、逃げましょう。器物損壊で訴えられるわ。ドア壊したし」
「奇遇ね、盛夏。わたしも、ほとぼりが冷めてから、寄宿舎には戻ろうと思ってたところよ。今は撤退だわ」
寄宿舎をあとにするわたしと、鏑木盛夏。
〈退魔士〉の役割を無事、果たした。
帰りがけ、盛夏は言う。
「糸が電脳網になっていたのね。彼女たちはゲームのロールプレイの中にいたのよ、ここ一週間と三日、ね」
そりゃ、計算機の処理速度も落ちる。
どんだけ接続されていたってんだ。
「悪い奴が、いる。水兎学の考えを否定する者、って意味でね」
まつろわぬもの、土蜘蛛か。
今回は小さい虫サイズの、使役されたあやかしに過ぎなかったけど、それを操っている者が、いる。
操り人形だけでこの始末。
戦いは過酷になるかもしれない。
わたしは、そしてこの盛夏が背負ったものは、重い。
だいたい、地下街って、どこにあって、絵葉書屋とは何者で、なんで十王堂女学校を狙ったのか。
謎は深まる。
わたしたちが戦う相手。
それは。
朝敵。
まつろわぬ人々。
土蜘蛛。
戦いは、すでに始まっていた。
静かに。それは静かに、しかし、熱く。
もう、逃げない。
わたしは、〈和の庭〉で、戦うことを、決意したのだった。
〈了〉