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文字数 1,084文字
鏑木盛夏が糸を手繰った先には、巣があった。
蜘蛛の巣。
土蜘蛛の意図するところの、病巣。
「これより〈病巣〉の摘出の〈術式〉を行うわ」
鏑木盛夏は、短刀・蜘蛛切で、病巣を切除する。
その手裁きは、慣れたものだった。
一瞬で〈切除〉が完了する。
そこにいる、土蜘蛛の〈巣〉である〈魂〉を、引き裂いたのだ。
「術式、終了よ」
土蜘蛛は、
「ピキー」と息を漏らすと、消し炭になって消えた。
幻想郷でコノコに囁いていた、土蜘蛛が消滅したのだ。
その場にへたり込む朽葉コノコ。
「終わった、のだ……」
「さぁ、逃げましょう。器物損壊で訴えられるわ。ドア壊したし」
「奇遇ね、盛夏。わたしも、ほとぼりが冷めてから、寄宿舎には戻ろうと思ってたところよ。今は撤退だわ」
ダッシュでその場を去る二人。
夢野壊色はコノコに気づかない。
だが。
「終わりじゃないわよ」
走り抜けるとき、鏑木盛夏は、コノコに向かって、そう言ってから、走り去った。
「終わり……じゃ、ない…………?」
頭の上にはてなマークが浮かんだままで、コノコは横に倒れ、気を失った。
☆
どうせ明日という日はあって、空虚がわたしを満たしていく、いつの日からか。
だから、つくった小説がわたしの全てであるような、そんな気もするのです。
それは虚構以外の何物でもないのだけれども、わたし自身の運命へのわたしのレジスタンス活動でもあって。
散らばった夢をもう一度詰め込んで、照準を絞って引き金を引いて撃ち込む。
その弾丸が、わたしの小説なのです。
…………夢野壊色。
「これで、いいかしら。巻頭文は?」
用務員先生、夢野壊色はコノコたちに書いた原稿を見せて、はにかんだ。
コノコは結果として、〈用務員先生〉を、同人に引き込むことに成功した。
ここに、同人雑誌『新白日』は、創刊する。
その代わり、鏑木盛夏に今回の事件という大きな弱みを掴まれたコノコ、メダカ、涙子、ラピスの四人は、私塾・鏑木水館に、入塾させられてしまったのである。
鏑木塾長は、水館の塾邸で、コノコたちに大きな声で言う。
「あなたたちにはこれから、〈水兎学〉を叩きこむわ! 険しい道になるけど、これからよろしく!」
「よろしくじゃないのだー」
泣きそうになる、朽葉コノコたち。
「ね。終わりじゃないって、言ったでしょう?」
こうして、今回の傍迷惑な事件は、一応の決着を見るのであった。
〈了〉