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文字数 1,084文字





 鏑木盛夏が糸を手繰った先には、巣があった。
 蜘蛛の巣。
 土蜘蛛の意図するところの、病巣。


「これより〈病巣〉の摘出の〈術式〉を行うわ」

 鏑木盛夏は、短刀・蜘蛛切で、病巣を切除する。

 その手裁きは、慣れたものだった。
 一瞬で〈切除〉が完了する。

 そこにいる、土蜘蛛の〈巣〉である〈魂〉を、引き裂いたのだ。

「術式、終了よ」

 土蜘蛛は、
「ピキー」と息を漏らすと、消し炭になって消えた。


 幻想郷でコノコに囁いていた、土蜘蛛が消滅したのだ。




 その場にへたり込む朽葉コノコ。
「終わった、のだ……」



「さぁ、逃げましょう。器物損壊で訴えられるわ。ドア壊したし」
「奇遇ね、盛夏。わたしも、ほとぼりが冷めてから、寄宿舎には戻ろうと思ってたところよ。今は撤退だわ」

 ダッシュでその場を去る二人。
 夢野壊色はコノコに気づかない。

 だが。
「終わりじゃないわよ」
 走り抜けるとき、鏑木盛夏は、コノコに向かって、そう言ってから、走り去った。



「終わり……じゃ、ない…………?」
 頭の上にはてなマークが浮かんだままで、コノコは横に倒れ、気を失った。








 どうせ明日という日はあって、空虚がわたしを満たしていく、いつの日からか。
 だから、つくった小説がわたしの全てであるような、そんな気もするのです。
 それは虚構以外の何物でもないのだけれども、わたし自身の運命へのわたしのレジスタンス活動でもあって。
 散らばった夢をもう一度詰め込んで、照準を絞って引き金を引いて撃ち込む。
 その弾丸が、わたしの小説なのです。

 …………夢野壊色。



「これで、いいかしら。巻頭文は?」
 用務員先生、夢野壊色はコノコたちに書いた原稿を見せて、はにかんだ。

 コノコは結果として、〈用務員先生〉を、同人に引き込むことに成功した。
 ここに、同人雑誌『新白日』は、創刊する。

 その代わり、鏑木盛夏に今回の事件という大きな弱みを掴まれたコノコ、メダカ、涙子、ラピスの四人は、私塾・鏑木水館に、入塾させられてしまったのである。



 鏑木塾長は、水館の塾邸で、コノコたちに大きな声で言う。

「あなたたちにはこれから、〈水兎学〉を叩きこむわ! 険しい道になるけど、これからよろしく!」



「よろしくじゃないのだー」
 泣きそうになる、朽葉コノコたち。




「ね。終わりじゃないって、言ったでしょう?」




 こうして、今回の傍迷惑な事件は、一応の決着を見るのであった。



〈了〉
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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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