Beats Knockin【5/6】

文字数 879文字





 黎明地区を歩くと、比較的大きな屋敷から、反応は出た。
 その屋敷には、「お柳」と「凪」という、女性カップルが寄り添い、住んでいた。
 声をかけてから、垣根を越えて、庭へ。
 凪はうろたえていて、助けを求めていた。
 お柳さんは、寝込んでいた。
 わたしの〈瞳〉は、お柳さんを〈感知〉する。

「魔性……なのか。コノコちゃん、盛夏を呼んできて」
「わかったのだ!」

 走って吉野ヶ里邸まで向かうコノコ。
 十分もしないで、コノコは、帰ってきた。


「戻ってこい、とのことだったのだ」

「ん?」

 ゆっくりと歩いてくる鏑木盛夏。
「わからないひとね、壊色。『お柳』さんは、柳のアヤカシよ。そこの凪さんも、アヤカシよ。でも、危害を加えない方々ね」

「どういうこと?」

 盛夏は説明する。

「吉野ヶ里が命令を下して、黎明地区の、ほら、そこに緑地帯があるでしょう、その緑地帯の「ナギの樹」と「ヤナギの樹」が絡み合っているのを、切らせたのよ」

「ナギ」と「ヤナギ」、か。

「絡み合うのを『連理』状態、と呼ぶわ。『連理』は、交わりの状態に似ていて、エロティックさを嫌うものには穢れに見えるのよ。吉野ヶ里は、連理を見て、自らハサミで絡み合う二本の枝を切り離した」

「ああ、それでその樹の〈魔性〉である二人に影響が」

「柳の樹は弱っていたのが、連理を解かれて、さらに弱ってしまったのよ。人間で言えば、精神的に弱った。吉野ヶ里が寝込んだのも、同根ね。呪いみたいなものよ」

「で。どうすりゃいいのさ」

「吉野ヶ里に頼んで緑地帯の柳を斧で切り倒せ、って言ったわ」

「お柳さん、死んじゃうのでは?」

「切った柳を棟木に使って、お堂という結界をつくる。そのお堂に、「ナギ」と「ヤナギ」の幹を納める。そうすれば、治るわ」


「え? 話、信じていいの?」
 わたしは戸惑った。


「これには由来があるわ。『三十三間堂棟木由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)』っていう古典からの由来が、ね。帰りに図書館にでも行ってみなさいな、壊色」


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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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