Higher Ground【4/7】
文字数 1,382文字
大きな山ほどの高さの身長がある巨人・ダイダラボウが飛空艇を捕まえて、わたしは鵜飼に連れられてダイダラボウの掌に飛び乗る。
ダイダラボウはわたしが捕まっていた飛空艇を破壊した。
そしてわたしと鵜飼を、地面に降ろしてくれて、咆哮をしたかと思うと、その姿を消した。
「まさか退魔士側の人間が魔性の力を借りるとはね」
「今度は土蜘蛛の力も、借りるターンですよ、壊色先輩」
鵜飼ははにかんで、そう言った。
わたしは尋ねる。
「帝都のクーデターって、本当?」
「政府官邸や各庁舎は火の海です。もちろん、クーデターによる人災。戒厳令が敷かれています。羊飼首相たちが死んだことによって、暫定政府をつくる必要すら、あるでしょうね」
「マジかぁ。で、ここ、どこ? 夜間地区の中華街の門の目の前だけど」
「はい。ここが、大杉幸のアジトのひとつがある場所です」
「なるほど」
「さ。先輩。こっちです。ボクについてきて」
手招きされるがままに、わたしは長良川鵜飼についていく。
連れられてやってきた中華街の路地裏にいたのは、タイピストの魚取漁子だった。
「遅い!」
魚取に言われて、頭を下げる鵜飼。
「そう怒るなって、魚取」
ビルヂングの裏口のドアを開けて出てきて、そうたしなめるのは苺屋かぷりこだ。
「今訊くことじゃないと思うけど、かぷりこたちは大杉幸と最初から繋がっていたの?」
かぷりこは首を左右に振る。
「いや。幼年学校卒業して在野の士になってから会ったのは、今回の事件で初だ」
「盛夏は……」
「〈調伏〉するなら、まずは白梅春葉を、だろうな。盛夏が春葉に勝てるかどうかはわからないが。あたしたちに出来るのはこれくらいだ、壊色」
「どういうこと、かぷりこ?」
「幼年学校に通ってたあたしたちなら、軍に詳しい。軍本部を、これから大杉幸と魚取とあたしの〈幼年三妖〉が強襲をかけて、殺すし、呪い殺す。壊色、おまえは」
「わたしは、……なに?」
「折鶴旅団は先の世界総力戦で得た利益で軍が極秘につくって完成させた〈原子力飛空艇〉を奪った。折鶴千代はその原子力飛空艇で指令を出しているはずだ。……折鶴のところへは、おまえが行け、夢野壊色」
「わたしが?」
「知ってるんだよ、壊色。二代目の蜘蛛切は鏑木盛夏が持っているが、長刀の方の、初代蜘蛛切の持ち主は、おまえだろ、壊色」
「そ、それは」
「隠さなくていい。姉妹の始末は姉のおまえがつけろ。壊色、おまえが調伏しろ。折鶴の心に巣食う土蜘蛛の調伏を、な」
「……わかった。それで、原子力飛空艇にはどうやって?」
「鴉坂つばめが連れていってくれるさ」
「つばめちゃんが?」
「鴉坂つばめは八咫烏。ミサキと呼ばれる、神聖な戦いへの先導をしてくれる神獣だ」
「そういうことよ、壊色!」
いつの間にかそばにいたつばめちゃんが、言う。
つばめちゃんは、背中に黒い羽根を生やしていた。
黒い翼を広げたかと思うと、わたしの身体を包んだ。
包まれた、その中で、囁く。
「絶対に勝ってね、夢野壊色……」
もう一度翼を広げると、わたしを掴んで、鴉坂つばめちゃんは飛翔した。
「……これじゃ、負けるわけにいかないじゃんか」
武者震いをしながら、わたしは自分に言い聞かせる。
「絶対に勝って戻ってくるよ」