Long Season【4/6】

文字数 1,041文字





 魚取漁子とカツレツを食しながら会話した日を境に、だんだん身体が重くなってきて、頭痛もしだして、咳、くしゃみ、鼻水が止まらなくなってきた。
 おそらくは、風邪だ。
 風邪の諸症状なのだが、それが関節痛にもつながり、わたしは下宿・西山荘の部屋から一歩も外に出れなくなっていた。
 一歩も外に出ないで一週間。
 仕事は休むことになった。
 クビにならないことを祈りながら、わたしは床に伏した。
 日に日に酷くなっていく症状に、
「こりゃ風邪じゃないかも」
 と、思ったときにはもう、病院へ行くこともできなくなっていた。

 管理人さんのやくしまるななおさんは、
「あらあら、今年の風邪は大変だって言うものねぇ」
 などと自分のなかでだけ納得し、わたしからのヘルプを受け取ることはなかった。

 万事休す!

 と、思っていたら、部屋の鍵が、ガチャリと開いた。
 お次は、チェーンロックを手刀でぶった切るアクション。
 入ってきたのは、水兎学の私塾・鏑木水館の塾長、鏑木盛夏だった。

 手に持っていた紙袋をグイっと差し出し、
「お薬、持ってきたわ」
 と、不愛想に、言う。
「お薬?」
「あちしの可愛い風花に処方してもらったわ。これで、この場はしのげるはずよ」
 雛見風花。
 そういや、薬学を学んでいたのだったか。
「その場をしのげる、ってのは?」
「そう、壊色が思う通り、これは風邪じゃないわ。薬は滋養強壮に特化している。動けるようになったら、行くわよ」
「は? わたしに動けと?」
「動けるようになったら、って言ったでしょ、バカ。あなた、死ぬ間際だったのよ?」
「マジかぁ。なんか、そんな気はしてた」

 ずかずかと部屋に入ってきた盛夏は、コップに注いだ水と粉薬を自分の口に含み。
 そして、動かなくなったわたしのあごを持ち上げ。
 口移しで処方薬を飲ませる。
「ん、ん、ん、……んく、あっ、……ごくん」
 わたしが薬を飲み込むと、盛夏はそのまま、舌をわたしの舌に絡めて、ディープキスをする。
 長いくちづけだった。

 くちづけのあと、わたしが放心状態でいると、盛夏は台所に立ち、お粥をつくって、わたしに食べさせる。
 わたしも、生きていたくて、必死になって、食べる。


 そのまま盛夏は、三日三晩、わたしの看病をしてくれた。

 けど、それだってきっと嬉しいわけじゃないし…………。

 別に、生きていたいと思ったのはディープキスの所為なんかじゃなくて……。


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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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