Higher Ground【5/7】

文字数 1,127文字





「行ってきなさい、壊色!」

 八咫烏の力でロケットランチャーのように吹き飛ばされ、帝都上空に浮いた原子力飛空艇に空中から突っ込んでいくわたし。
 搭乗口を突き破り、中への侵入に成功したのだった。

 銃を持った土蜘蛛、折鶴旅団のみなさんがわたしのもとに殺到して、一斉に構えを取る。


 …………………。
 …………。
 ……。


 南無釈迦牟尼仏。

 南無高祖承陽。

 南無太祖常済。

 ……。
 …………。
 …………………。


「…………出でよ、〈蜘蛛切〉ッッッ!」


 わたしは、胎内から初代〈蜘蛛切〉を取り出した。
 鏑木盛夏の持っているのは二代目の蜘蛛切で、短刀だが、灰澤先生から受け継いだこっちは長刀。
 銃を構えている旅団のみなさんがわたしの胎内から刀を実体化させ取り出す曲芸にひるんだその隙に、一歩踏み込んで一面を薙ぎ払った。

 疾風。
 血の輪舞が巻きあがり、旅団のみなさんは踊るように倒れていった。
「瞬殺でしょ、やっぱ。久しぶりに使う蜘蛛切。愛おしいわね、先生」
 刀を振って付着した血を飛ばす動作。
 まだ斬る相手が残っているから。
 ゆっくり奥から歩いてくるその人物は。
 我が妹、折鶴千代。

「姉さん。わからいひとですね、全く。わたくしの同志たちをこんな目に遭わせて。死んではいないようですけれどもね」
「早く手当しないと、さすがに死ぬわよ?」
「農村・漁村・山村部の働き手の問題や貧富格差の話。そもそも貴族院を始めとする階級制度があること自体が、水兎学を基礎とした〈先の革命〉の本義と矛盾しているのですよ」
「天帝の〈親政〉ね。王政の復古」
「武家政治を廃し君主政体に復した政治転換のはずだった。ですが、例えば新平民に代表されるように有名無実か。または財閥や官僚制の〈派閥〉争いに、いつの間にか問題がすり替わったか、が現実です。そこに〈国民の声〉は反映されていない」
「派閥、か」
「特権的官僚閥の追放! 莫大な富の個人所有の禁止! いわば『国家改造』!」
「クーデターを起こしてる連中の精神的支柱は、その『国家改造』の思想、なのね」
「その通りです。もしここで姉さんが蜘蛛切という〈過去の遺産〉でわたくしを討ったとしても」
「思想は残る……か」
「その通りです。もう、止められませんよ」


「だとしても、わたしはあなたを、…………討つ」
「お相手いたしましょう」


 長刀、初代蜘蛛切を構え。
 わたしはそっと目を閉じる。
 一拍置く。
 深呼吸。
 
 ……わたしは、精神を統一させてから瞳を開けた。



「水兎学派ヶ退魔士・夢野壊色、灰澤瑠歌先生の魂とともにいざ、参ります!」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み