Run Like Hell【2/7】
文字数 715文字
あなたは本当に『水兎学』を学んだの、……か。
なるほどね。
至極ごもっともな発言だわ。
なら、応えるか、フェアに。
「水兎学は、先の〈革命〉の原動力になったわ。精神的支柱って奴ね。学んだつもりよ、学んだら、それは捨てることなんてできない型のものだった。言い換えれば水兎学は〈グランドセオリー〉。自分の根幹の近くにあるはずよ、今でも。いつまでも。わたし以上に深みにはまって、自分の精神・魂と水兎学がイコールで結びついてしまった奴もいるくらいだもの。そのバカは、……鏑木盛夏っていうんだけどね」
雛見風花は怒りがこみ上げてきたらしく、拳を強く握る。
その拳は震えている。
わたしを殴りたいのかもしれない。
でも、知ったことじゃないわ。
「どうしたの、顔が真っ赤よ、こめかみに血管が浮き出ているけど?」
挑発。
なんでそんなこと、わたしはしてしまうのだろう。
「今度お薬を過剰摂取しても風花、助けてなんてあげないんだからねっ!」
わたしはきっと、怒らせたかっただけで、今の会話をしているのかもしれない。
風花を怒らせる今の会話はとても楽しいと、心がわたしに告げている。
「まあ、とりあえずわたしを奥座敷まで通してよ」
「勝手にしてッ!」
叫んだ風花は踵を返し邸宅に戻っていった。
門は開いたままだ。
手提げ洋燈を右手で持ちながら、わたしは門から入り、庭園を横切ったのだった。
自分の精神・魂と水兎学がイコールで結びついているのが鏑木盛夏だ、と言えばこの娘は怒るんじゃないかな、とは思っていた。
そうでしょう?
盛夏の、可愛い可愛い小さな恋人、風花ちゃん?