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文字数 1,269文字
放課後。
日が落ちそうな時間帯の、〈夜間地区〉。
「おい、ラピス。江館に対抗するっつってんのに長良川江館のある〈夜間地区〉に来て、どうするつもりだ?」
歩き疲れた涙子が言う。
一行は〈黎明地区〉から、乗り合いバスと徒歩で遠く〈夜間地区〉までやってきていた。
「にゃはは。江館の奴らの同人雑誌の秘密は、『遊戯(ゲーム)』にあるのにゃ」
「ゲーム? わたしたちは本を書きたいのだ、ラピスちゃん」
コノコは腕を組んで、疑問を口にした。
それに、金糸雀ラピスは即座に返答した。
「にゃからぁ、ゲームが同人誌の〈核〉なのにゃ!」
わからないという風に、首を振る朽葉コノコ。
「どーいうことなのだ、ラピスちゃん?」
「むっふっふ。ゲーム世界を下敷きにして作品を構築しているのが、江館の塾生がつくっている同人雑誌『文芸江館』の売れ行きの秘密にゃのにゃぁ!」
空美野涙子があごに手をやり、しばし考え込んでから言う。
「なるほどな。ゲーム的想像力がその源泉になっていて、そういうのを集めたのが、『文芸江館』なのか」
「そういうことにゃ。にゃたしに感謝しろよ、愚民ども」
メダカが歩き疲れながら、ラピスに訊く。
「で。どこに向かってるんですか、ラズリの妹さん」
「お姉ちゃんの名前は出すなぁ!」
「あー、わかりましたよぉ。で、どこへ向かってるんですか」
佐原メダカが尋ねると、
「絵葉書屋さんにゃのにゃー」
と、言うラピス。
「説明が必要にゃのね。〈湊屋(みなとや)〉って地下街の店で絵葉書屋が売ってるにょだ。その絵葉書は、電脳世界に届ける葉書……正確には、電脳世界に〈にゃたしたちを運ぶ葉書〉にゃのにゃ」
「その電脳に運ぶ葉書がどーしたのですかぁ?」
「売ってるのは正確には絵葉書型ゲーム基盤にゃの。それを寄宿舎の図書室にある蒸気計算機に差し込むと、電脳世界に没入できて、ロールプレイング・ゲームをすることができるにょにゃ」
「ゲームで遊べるんですね、その絵葉書型ゲーム基盤を使うと。それで、遊んでどうするのですぅ?」
「佐原メダカもわからず屋にゃのにゃなぁ? にゃたしらもそれで電脳遊戯して、それをもとに、真っ向から江館の奴らの同人雑誌『文芸江館』に喧嘩売るにょにゃ!」
涙子が、目の前を指さす。
「路地裏の入り口がそこにあるぜ。本当に地下街に、行くのか?」
ラピスが、一行に向けて、言い放つ。
「にゃたしの電脳遊戯の誘いに乗ったからには、基盤を買って、ゲームを一緒にするにょにゃ!」
メダカはあきれた風に、
「遊び仲間が欲しいって、最初から言えばいいじゃないですかぁ」
と、ラピスに返す。
が、当のラピスは、とたとたと早足で、暗い路地裏の地下街の中へ、入っていってしまった。
「追うのだ、メダカちゃん、涙子ちゃん」
「はい、コノコ姉さん」
「しゃーねぇなぁ」
ラピス以外は、初めての地下街。
女学生が行く場所じゃない。
緊張が走る。
だが、それよりも彼女らには好奇心が勝っていたのも、事実だった。