Long Season【1/6】

文字数 1,068文字

 喉が渇いた。
 暗い畳敷きの部屋で雑魚寝していたわたしは、もそもそもと動いて、起き上がろうとする。
 暗がりの中、ぴちゃぴちゃと、猫が水を飲むような音が聞こえる。
 頭が痛い。
 ウィスキィを飲み過ぎてしまったようだ。
 日本産の、角瓶。
 これがまた、おいしいのだ。
 わたし、夢野壊色は、角瓶があれば生きていけると錯覚を起こすほど、ウィスキィが好きなのである。
 頭痛のする頭を起こして、部屋を見渡す。
 すると、互いの顔を下半身に向けあった鏑木盛夏と雛見風花が、息を漏らしながら身体を舐めあっていた。
 ぴちゃぴちゃと音がしていたのはこれだったか……。
 あー、ヤバい。
 これ、わたしは起きれない奴だ。
 喉が渇いたのに。
 でも、恋人たちの邪魔をしちゃダメよね……。
 どうしよう。
 雑魚寝していた、三人のうち、二人が〈致して〉いると、どう動いていいものか、わからぬわたしなのだった。

 ぴちゃぴちゃ身体を舐めあう音を聴き耳立てているわたしは、のどの渇きと頭痛で、吐き気までしてきた。
「あー、もう、無理!」
 立ち上がるわたし。
「あなたたちがなにしてよーが、わたしには関係ないわ! わたしは起きる!」
 起き上がりざま、宣言してみた。
 すると崩れた寝間着をただしながら、行為を中断した鏑木盛夏が、上半身を起こす。
「勝手に起きればいいじゃないの」
「いや、そーだけど!」
 わたしの方が照れてしまう。
 なんだ、この状態は。
「やめちゃうの、盛夏。風花は身体の芯まであたためてもらいたいの。もっと疼きたいのよ?」
 風花も、上半身を起こし、乱れた着衣を戻す。
「壊色、起きちゃったのね。でも風花には関係ないわ。続けましょ、盛夏」
「そうね……」
 盛夏が風花にそう答える。
 続けるんかい!
「わたしはもう帰る。角瓶のボトル、もらっていっていい? 残りは一人で飲むわ」
「風花、笑っちゃうわ。壊色はヘタレなのね。風花たちに混ざればいいのに」
「混ざりません。修羅場るだけでしょうがっ!」
 盛夏は、風花の長い髪を梳きながら、
「あちしたちに混ざってもいいのよ」
 なんて、発言する。
「だが、断る」
 ウィスキィを一口、ラッパ飲みしてから、わたしは鏑木邸……鏑木水館の奥座敷から、出ていくことにする。
「やってられないわ」
「あちしたちはやってられるわ」
「そーいう意味じゃありません!」
 雑魚寝で少し着崩れたデニム・オーバーオールをただして、わたしは盛夏と風花に背中を向け、ふすまを開けて、退出したのだった。
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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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