Trampled Under Foot【2/4】
文字数 1,396文字
元号が変わる、少し前に、わたしは生まれた。
灰澤瑠歌先生は、さらにその前、あの〈革命〉の前後に生まれたのだという。
灰澤先生は、『水兎学』の学び舎に在籍していたことから、〈革命後〉の〈残党の掃討戦〉に駆り出されていた。
要するに、新政府に盾突く〈まつろわぬ者〉、すなわち〈土蜘蛛〉と呼称される人々を〈狩る〉ために、活動をしていた。
師範学校の出の教員ではない。
代用教員、と呼ばれてはいるが、それも違う。
あの革命の原動力となった〈水兎学〉の徒、なのだ。
闇夜に紛れて、人斬りをするのが、灰澤瑠歌先生だった。
別枠の人間。
いつも血の匂いがして、それでいて、昼は生徒たちに倫理を語る。
そんな先生との出会いだから、わたしもまた、血なまぐさい事件で、灰澤先生と出会う。
結論から言うと、わたしの両親は〈土蜘蛛〉で、灰澤先生は、その土蜘蛛を〈調伏〉しに、やってきたのだ。
そこで、わたしは〈先生〉と、出会う。
わたしの両親は、失敗作のわたしを毛嫌いし、成功作である弟に、英才教育を施していた。
弟は、のちに自由主義を語りだす者たちと同様、〈洋行〉に出された。
つまり、留学である。
外国、西洋の気風を学ばせる。
それは政府が主導していた大事業のひとつだったが、新政府を打倒したい機関の資金によって、わたしの弟を含む幾人かの〈天才〉たちもまた、洋行した。
羨ましい話かもしれなかった。
この国のリーダーを育てる機関と、政府打倒のために育てる機関は、ともに〈有能な人材となる候補〉を西洋に遊学させたのだから。
弟が遊学して、家にいなくなった頃、わたしは、母親の玩具になっていた。
父は、借金をつくって、わたしと母を残して、失踪した。
死んだ、のかもしれない。
それは、わからないが、借金だけは失踪せず、払うことになった。
母はわたしを、「知人の女性の家」に連れていく。
その「知人」には、わたしより歳が上の、娘がいた。
わたしは、母とその知人の手によって、知人の娘さんと〈つがい〉にさせられた。
もちろん、性的な意味である。
わたしは「お姉さんに〈いたずら〉をされる」日々を送ることになった。
わたしの貞操は、そこで突然、破られたのだった。
性的ないたずらをされているのを見て笑って喜ぶ母と、その知人。
〈お姉さん〉も、その気になって、わたしを加虐的にいたぶり続ける。
いたぶられている様子を、知らないひとたちが見学するようになった。
性的虐待は、見世物になった。
覗き部屋のような、窃視癖を満足させる、倒錯的な、性行為をされる日々だった。
母は、
「これがお金になるのよ」
とわたしの頭にげんこつを落として、涙を流させて、そのリアクションに笑った。
加虐。
母の笑いは止まらなかった。
「今度はその手の娼館へ売り飛ばそうかしら。いや、売り飛ばしたら買い切り商品か。わたしが直接、運営しましょうか」
おほほほほ、と下卑た笑みを浮かべ、将来の展望を語る。
だが。
見世物にしたため、商売が明るみに出てきてしまった。
同時に、素性も調べられたのだろう。
土蜘蛛狩りである〈退魔士・灰澤瑠歌〉が、母とわたしの前に派遣されてきたのは、わたしの精神が崩壊直前になっていた頃だった。