Bone Machine【4/5】
文字数 1,116文字
駅までの通り道。
ところどころの塀や商店の店先にポスターが貼ってある。
そのポスターのほとんどが、〈黎明派〉のポスターだった。
ポスターにはどれにも、絵師が描いた吉野ヶ里咲のバストアップの似顔絵。
「吉野ヶ里先生、〈民本主義〉講演会!」
と、似顔絵の横には大きく書かれてある。
そういやここは吉野ヶ里咲の地元である〈黎明地区〉。
黎明派のポスターがそこら中に貼られていても、おかしくはない。
「吉野ヶ里咲……。あの流浪の旅人も、出世したもんねぇ」
ポスターの一枚を見て、思わず噴き出してしまう。
デモクラシー。
その波は、今では全国に広がっている。
「人民多数のための、政治か」
吉野ヶ里がやっている啓蒙活動は、確実に功を奏してきている。
この国が、意識の上でも、変わろうとしている。
元号が変わり、喧騒のなか、バカ騒ぎをする人々。
その享楽を支えるのは、間違いなく民主主義だろう。
そして、この国が天帝の統治下にあっても、天帝が統治するという立憲君主制と、議会制の民主主義、その二つは両立する、という考え方。
それが、〈民本主義〉だと、わたしは理解している。
「ま、どうでもいいや。さぁ、わたしは今日という日を享受するぞ」
ポスターから離れ、駅舎へと入る。
向かう先は、浅草。人がごった返す、あの街だ。
汽車に揺られ、浅草に着いたわたしは、デパァトである丸恋百貨店のなかへ入った。
いろんなものを眺め、生気を養う。
それから、〈娯楽の殿堂〉と名高い浅草六区を歩く。
「レビュゥ一辺倒ってのもなんだし、今日は浅草オペラでも観ようかしらね」
ぶつくさとそんなことを口に出して歩いていたら、進行方向から来た少女とすれ違いざま、肩と肩がぶつかってしまい、少女がよろめいた。
咄嗟に少女が倒れないように背中に手を回して、少女の身体を支える。
「あ、ありがとうございます……って、あっ! 用務員先生!」
「ん?」
よく見ると、その娘は、十王堂高等女学校の生徒だった。
わたしの手を振り払うと、少女はわたしから距離を取り、
「あたい、あんたのこと、嫌いです、用務員先生」
と、言って、歯をむき出しにして、わたしを威嚇した。
「君の名は確か」
「あたいは近江キアラ。〈文芸江館〉の同人やってます」
……同人雑誌『文芸江館』の同人か。
なるほど。
敵対心があるわけだ。
「用務員先生は朽葉コノコの陣営にまわったんでしょ。コノコの仲間なら、あたいの敵よ!」
「近江さん、わたしは朽葉さんの雑誌の同人の前に、寄宿舎の用務員よ。敵じゃないわ」
「詭弁だわ」