Let Love Rule【3/5】
文字数 1,392文字
とある大きな港町。
港に着く船舶の乗組員のための物資や娯楽を提供することで、町は栄えていた。
朽葉コノコは、帝都から港町に戻ってきてから、身を粉にして働いていた。
継母の家庭内暴力に耐えながら。
「きっと、生きていれば良いことがあるのだ。大杉幸先生が、そう言っていたのだ。だから、間違いないのだ」
毎日泣きじゃくりながら、働く。
日に日に仕事は増して、学校の勉強は、時間がなくてみんなに追い付かなくなってきていた。
コノコがどんな商売を継母にさせられていたか。
それはもう、過酷な肉体労働、とここには書くことしかできない。
そんな種類の仕事をさせられ、必死に耐えていた。
いつか、爆発しそうだった。
ほら、今日も呼び出しがかかる。
コノコは知らない人にその身を委ねる仕事に、向かう。
仕事場。
その個室に入ったとき、毎日の日常とは違う光景が目に入った。
個室の中がびっしりと血液で溢れかえっていた。
低い天井からは血が滴っている。
真ん中に、斧のようなものを右手に持った、大杉幸が、立っていた。
左手には、コノコの継母の生首の髪を握っている。
切断された胴体からは、まだ鮮血が迸っている。
「今日のお客さんは、あたし。……来たよ、コノコ」
「幸先生」
大杉幸は生首をコノコの方に放り投げる。
「これからは〈お姉さま〉って呼んでね、コノコ」
「なんでここが……わかったのですか」
「思想家のネットワークを舐めちゃいけない。迎えに来た。駆け落ちしよう」
「お義母さんは、今、死んだのがわかったのだ。生首になってしまったのだ」
「じゃあ、生首に別れを告げよう。憲兵隊……行政警察にも友だちはいるんでね。この骸の処理を任せてある。さぁ、おいで」
手を差し出す幸。その手は、今まで生首を掴んでいた手だ。
だが、コノコはその返り血に染まった大杉幸の手を握り返す。
幸は、コノコに向けて、言う。
「敵に打ち勝つためには、断頭台よりももっと以上のもの、恐怖政治よりももっと以上のものがいる。革命的思想がいる。本当に革命的な、広大な、敵が今までそれによって支配して来たあらゆる道具を麻痺させて無能のものにしてしまうほどの、思想がいる。
もし、敵に打ち勝つためには恐怖政治しかないということであったら、革命の将来はどんなに悲しいことであろう。が、幸いに、革命には、それと違った有力な他の方法があるのだ。そしてこの方法はすでに、どんな方法が彼等に勝利を確かめるかということを求めている革命家等の新しい世代の中に芽ざしているのだ。彼等は、それがために、何よりもまず、旧制度の代表者からその圧制の武器を奪い取らねばならないことを知っている。あらゆる都市、あらゆる農村において、あらゆる圧制の主要機関をたちどころに廃止しなければならぬことを知っている。ことにはまた、かくして解放された都会や農村に、住宅や生産機関や運輸の方法や、また食料その他生活に必要ないっさいのものの交換を社会化して、社会生活の新しい型を始めなければならないことを知っている」
コノコはその場で泣き崩れた。
「もう十分です、幸お姉さま」
紅く染まった部屋で、顔と瞳を真っ赤にして、コノコはへたり込みながら、奇跡は起こるんだ、ということを知った。