Higher Ground【7/7】

文字数 607文字





 原子力飛空艇。
 自動操縦のようだが、運転室のドアを壊して入るとわたしは、ハンドルを動かして、帝都湾……海を目指す。
 高度はどんどん低くなってきている。
 帝都や和の庭にこんな動力で浮いて進むものを落とすわけにはいかない。
 体力に限界がきているが、どうにか持ちこたえようと思う。
 クーデターはどうなったのか。
 他の戦局を知らないが、折鶴旅団の首魁は調伏させた。
 あとは盛夏たちがどうにかしてくれるだろう。
 ああ、鵜飼に蜘蛛切返さなくちゃ。
 多賀郡館の蜘蛛切も、わたしと一緒に帝都湾に沈むのを考えると、忍びない。
 この飛空艇、着水して大丈夫か?
 ダメな気がする。
 頭をいろんなことがぐるぐると駆け回るうちに、帝都湾に出た。
 危なかった。
 爆発してたら大変なことになっていた。
 海に落ちても大変なことに変わりはないだろうけど。
 目が回る。酩酊する。
「ごめん、つばめちゃん。勝ったけれども、帰れそうにないや。ああ、みんなでキャラメル善哉、最後に食べたかったなぁ……」
 陸が見えなくなったところでわたしは呟き、そしてハンドルを持つ手が離れ、転倒する。
 目を閉じる。
 もう二度と眠りから覚めないような気が、なんとなくしたけど、起きていることは不可能に思えた。
 だからわたしは、原子力で動かしているタービンの音だけが響いている中で、眠りに就くことにしたのだった。



〈了〉
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登場人物紹介

鏑木盛夏(かぶらぎせいか):退魔士。私塾・鏑木水館塾長。

夢野壊色(ゆめのえじき):十王堂高等女学校〈用務員先生〉。下宿、西山荘に住む。旅人。

雛見風花(ひなみふうか):鏑木邸に住む、盛夏の小さな恋人。

長良川鵜飼(ながらがわうかい):私塾・長良川江館の息女。壊色に同行し旅をしていた。

苺屋かぷりこ(いちごやかぷりこ):カフェー〈苺屋キッチン〉の女給。

朽葉コノコ(くちはこのこ):元気いっぱいの女の子。

佐原メダカ(さはらめだか):ドジっ子。コノコを「姉さん」と呼ぶ。

空美野涙子(そらみのるいこ):空美野財閥の一人娘。ガラが悪い。

魚取漁子(うおとりりょうこ):タイピスト。

やくしまるななお:下宿・西山荘の管理人。

やくしまるななみ:下宿・西山荘の管理人、やくしまるななおの妹。

近江キアラ(おうみきあら):長良川江館の塾生。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす):ラズリの妹。保健室登校。にゃーにゃーうるさい。

金糸雀ラズリ(かなりあらずり):ラピスの姉。風紀委員会委員長。涙子が好き。

園田乙女(そのだおとめ):黎明署の刑事。ヨーヨーを武器にする。

白梅春葉(しらうめはるは):殺人鬼。十羅刹女の能力を持つ。

鴉坂つばめ(からすざかつばめ):〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバー。

御陵初命(みささぎはつめ):十王堂高等女学校の生徒会長。

武久現(たけひさうつつ):絵葉書屋。電脳ゲームデザイナー。

獅子戸雨樋(ししどあまどい):編集者。

吉野ヶ里咲(よしのがりさき):政治結社〈黎明派〉の首領。

大杉幸(おおすぎさち):無政府主義者の首領。

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