Beats Knockin【2/6】
文字数 1,333文字
絵葉書屋の、武久現。
幾多の女学生をその〈美意識〉で電脳空間へ女性を引き込んだ電脳絵師。
同時に、魔性(アヤカシ)の力を持っている、〈まつろわぬもの〉。
それは土蜘蛛だ。
まつろわぬものも、妖怪変化と同じく土蜘蛛、とわたしたちは呼称するから。
絵葉書型電脳機械を彩るイラストレーションを描く武久現は、アンダーグラウンドの絵師の世界の、女帝でもある。
女帝・武久現はまつろわぬものだけれども、帝都の人間はこぞって武久のイラストを買う。
今、武久のイラストは、地下競売で高値で取引されている。
地下でのことではあるが全盛期と言えるほどの、人気絵師になっている。
「結局、勝ち負けではないんだなぁ」
わたしは住んでいる下宿・西山荘の部屋に寝転んだ。
「イラストの価値が、土蜘蛛で追われているが故に、逆に高騰するとか、美術の世界はわからないものだなぁ」
座布団を二つ折りにして、そこに頭を預けて、わたしはうーむ、と唸る。
「んん?」
壁を眺めたら、部屋の土壁に五芒星の模様で焼き焦げた痕がついた。
五芒星?
そして、五芒星そのままに、焼き切れた星型に穴が開いて隣の部屋と壁が貫通した。
星形にかたどられた壁の破片が、ぼろ、っと畳に落ちた。
「こんにちわ、壊色。壁を壊したの、やくしまるななおさんに言ったらぶっ殺すょ?」
くり抜かれた星形の覗き穴。
そこから見えるのは、隣室の鴉坂つばめちゃんだ。
つばめちゃんは魔法少女結社・八咫烏のメンバーの、魔法少女である。
「え? つばめちゃん、なにいきなり物騒なことを?」
「いや、だからぶっ殺すから黙っててね! それくらいできるでしょ!」
「すぐバレると思う」
「バレませんー。魔法少女は修復の魔術も使えるんだからなー!」
「え? なに怒ってるの、つばめちゃん。バレるもんはバレるよ。魔術とか言ってないで、さぁ、ななおさんに壁を壊したことを謝りに行こ!」
「いーやーな、こったぁー!」
しかめた顔をこっちに向ける魔法少女結社・八咫烏のメンバー、鴉坂つばめちゃんなのだった。
「だいたいなに? 五芒星で壁を焼き切っちゃってさぁ」
「うっさいわね、壊色! 八咫烏だもん、五芒星も使うってもんよ!」
「意味不明なんだけど」
「ま、あんたの隣に住んでるのがあたしで良かったわね!」
「あー、もう、意味不明すぎる。なにやってたの、部屋で?」
「追跡魔術の術式よ」
「追跡……魔術。追ってるのは」
「武久現。園田に頼まれたのよ」
「園田乙女刑事に?」
「内密で、ね。〈この世界〉を知らない人間には占い程度にしか認識できない代物だしさ、内密っていうか、園田個人からの依頼ってカタチになってる」
わたしたちは、空いた壁の穴越しに会話を続けている。
滑稽だよなぁ。
「その追跡の術式の途中で壁に穴を開けてしまったのだろうけど、早く直してね、つばめちゃん」
「追跡術式が動けばねー。そのあと、壁を直すわよ」
「うぅ、酷い、つばめちゃん」
「どこが酷いのよ?」
「部屋にのぞき穴付きとか。全体的に、酷い」
「ぶっ殺す」
話の通じない鴉坂つばめちゃんなのだった。